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ツッキーはカルチャーショックを覚える

 いろいろな話をしながら三人の言う村についた。

 三人は俺のことを何も知らない『彷徨い人』として扱ってくれるので、些細なことと思しきことを質問しても頑張って説明してくれようとして微笑ましい。


「つまりは冒険者って依頼があれば何でもやる何でも屋って感じか」

「まあな。ただ、ダンジョンに入れば大金を稼げる可能性があるから、結局そっちを目指す奴が多いんだよ。俺たち含めてな」


 何となく俺の中で冒険者ギルドは現実世界のハローワークのような印象を受けた。聞けば希望すればいくつかの講習を受けることも可能だとか。なるほど、職業訓練もしてくれるのか。


「僕たちも採取や戦闘の講習を受けました。ツッキーさんもいくつか受けた方がいいと思います」

「考えておく。ちなみに俺は知人を探しているんだが、最近村に俺みたいに新顔は増えてないか?」

「揺籃ダンジョンは人気があって人の出入りは激しいから何とも言えないな。あとあの中では食料の心配をあまりしなくてもいいから、長くこもるのが多いんだ」

「食料の心配がない? モンスターを食べるのか?」


 狼は知らないが、兎や熊は食べられるからこういうモンスターばかりなら確かに何とかなりそうではある。


「あー、それもあるけど、揺籃ダンジョンはここら辺の食料庫なんだよ。低階層だと野菜や果実や香辛料が採取できる。穀物なんかも採取可能だ」

「ん? ダンジョンってのはそういうもんなのか?」

「よそのダンジョンはよく知りませんが、多分異質ではあると思います。普通はこんな村に食事目当ての観光なんて来ませんから」


 食事目当ての観光が実施されるっていうのは驚いた。俺には三人の武器や服装は中世ヨーロッパとかその時代ぐらいのものに見える。その時代に食事目当ての旅行などする余裕が富裕層にあったのだろうか。

 世界史など受験の際に学んだぐらいで詳しくないので何とも言えないが、この村自体も設備がおかしい。

 村というから西部劇のような木の柵で回りをぐるっと囲っているのかと思えば、かなり立派な石造りの城壁とも呼べるものがあり、そこで金属鎧を身につけた兵士に声をかけられた。エドたちが俺のことを『彷徨い人』だと説明したのですぐに解放されたが、首なし熊を俵担ぎにした血まみれ男ってだいぶ不審なんだが。むしろそれでいいのかと思ってしまう。


「こんな村と言うが、道も全部ではないが石で舗装されてるし、商店も多いな」

「ダンジョン攻略のために職人も移ってきたらしいし、さっきも言った通り食料には困らない。香辛料はここじゃ安いが外では高く売れるらしいから商人もよく来るのさ」

「ここで人を探すのは大変そうだな…ちなみに観光客はどうやってここに来るんだ? あの草原の道以外にもあるのか?」

「お金がない場合はあの道ですね。後は魔法です」

「魔法」

「移動に空間魔法を使える魔法使いは多くないんだ。だからもし使えたらそれだけで大金持ちさ。ところで、ツッキーも魔法が多少使えるんだろ?」

「は? いや待て、何でそうなる?」


 割と最近まで一般人だった俺に何を求めてるんだ?


「肉体の強化を魔法でしているから手刀で首を切ったと思ったんだけど」

「あー…魔法、という形ではないな。俺は霊力なるものを多少持っているらしい。最近は意識するように努力しているが、無意識にそれを使っていることがあるとのことだ」

「れいりょく?」

「魔力みたいなもんだと思う。詳しく聞くな。俺も説明できるほど理解できてるわけじゃない」


 意識したら幽霊やら妖怪やらが見えるようになったのはつい最近なのだ。それまでは激怒した際にいつも以上に力が出たりしていても、これが火事場の馬鹿力というものかと思い込んでいた。霊力について指摘してきたやつ曰く、それも霊力のせいだったらしい。


「ツッキーもまだまだ修行中ってことか?」

「周りに霊力がわかるのがいなかったからな。あるからちゃんと使いこなせるようになれと言われて、意識しだしたのはここ数年だ」

「環境が悪かったんですね」


 何やらアルに同情めいた感じに言われてしまったが、気づかなければそれはそれで過ごせたので問題はなかった。


「まあ、そうとも言える。ところで、村に入ってから壁から続く大通りをずっと進んでるんだが、冒険者ギルドとやらはまだか?」

「もうちょっとだ。ダンジョンの監視の意味もあって、あの巨木の正面あたりにギルドがある」

「わかった。早く血を落としたい…」

「冒険者ギルドで獲物を換金すれば代わりの服代にはなるし、ギルドは『彷徨い人』の保護もしてるからもうちょっと我慢してくれ」


 俺の泣き言に苦笑しながら、ヴァンはなだめる様に腰のあたりを叩いた。


「ちなみにこの村って風呂ってあるのか?」

「公衆浴場はあるけど、今のツッキーじゃ汚れすぎてたたき出されるぞ」

「ホーンベアも担ぎましたしね」

「気になるなら先に洗濯場で水浴びてくか? 今の時間なら人いないだろ」

「洗濯場?」


 聞くと一番立派な井戸のそばに洗濯専用スペースがあるらしい。


「聞けば聞くほど村という言葉が合わないな…」

「まあ、このダンジョンの中身が判明して段々でかくなっていったらしいから」

「名前が追い付いてないのか」


 村という言葉のイメージとの齟齬に眉間にしわが寄るが、ここではこれが普通なのだろう。

 しかし公衆浴場か。衛生面に問題がないなら一度は行ってみたい。


「けど、僕たちでこのホーンベアを担ぐのは無理ですから、浴びても…」

「また俺が運ぶってことだろ。まあ、あとで行くさ。着替えもなしにはきれいにできないからな」


 どう見ても三人より首なしの熊の方がデカいので、さすがにこの三人に担がせるのは罪悪感がすごい。なにせ狼も結構大きくて、アルとヴァンが交代で担いでいるが何度も引きずっているのだ。エドはエドで兎と熊の首を持っているので余裕はない。

 血まみれのまま歩き続けてようやく大通りの道が切れ、巨木の根がよく見えるようになった。木の周囲は若干窪地になっているようだ。


「ダンジョンの入り口は根っこの隙間から入るんだ。どうもあの木はダンジョンの上にたまたま生えたもんらしい」


 エドに言われて見てみれば、木の根の隙間から岩のようなものがところどころ見える。元は洞窟のようなものだったのだろうか。

 入り口はもう少し左に行ったところだと言われ、左折する。

 巨木を見上げていると、何となく墨田区の電波塔を思い出す。高さはおそらくあれ以上だが、圧迫感は似ている気がする。


「着いたぞ、ツッキー」


 エドの声に、巨木から目を離し建物を見た。

 ダンジョンでの有事に備えてか石造りの頑丈そうな建物には、二本の剣が交差し三日月をその上に配置した看板が出ていた。


「ここが冒険者ギルドだ。ちなみに隣は役場になってる」

「役場?」

「冒険者たちに配慮した結果、手続きとかがすぐ済むように初めは同じ建物だったそうです。ただ、冒険者が増えたので今は隣の建物になったと聞いたことがあります」

「まあ、手続きとか期日守れない奴を引き渡すのにちょうどいいって裏話があったりするけどな」

「なるほど…」


 書類の提出期限などに泣かされるのがいるのはこの村でも同じらしい。


「中に入ったらまずこの荷物を預けて、受付係にツッキーのことを相談するって順番でいいよな」

「ああ、邪魔だからな」

「よし、じゃあ行くぞ」


 エドが扉を開けると、一斉に視線がこちらに向いた。

 品定めするような視線が、俺に集中しているのは熊のせいか。


「…おい、あれホーンベアじゃあ…」

「…すげぇ格好で来たな…」

「…新顔か…」


 カウンターに並んでいる統一感のない姿をしている男女がひそひそ言っている。


「空いてるカウンターに行くぞ」

「おう。あんまり混んでないな」

「時間がまだ早いですからね」


 並んでないところに行くと、俺の格好を見てか受付の男性職員が目を丸くしている。


「ホーンラビットの捕獲依頼の達成確認とその他の買取査定を頼む」

「はい。わかりました。ただ、その担いでるのは…」

「ホーンベアだ。首はこっちに持ってる」

「そうですか。大きいので裏手の解体場に直接お持ちください。量があるようですので査定にお時間がかかります」


 男性職員から解体場への行き方を説明してもらい、カウンターの横を通る。裏手へと通じる扉を開けると、独特の匂いがした。


「おう。査定か?」


 エプロン姿の職員が数名、道具の手入れや解体台と思われる場所の掃除をしていた。


「買取査定を頼む。ホーンラビット五羽はこっちの捕獲依頼用にあててほしい」

「わかった。ホーンラビット以外は…そりゃホーンベアか?」

「あと、こちらのフォレストウルフもお願いします」

「…おい。それお前さんたちちびっ子の仕事じゃなくてそっちの男のか?」

「そうだ。あとこのおっさんは冒険者登録してない。多分『彷徨い人』だから、手続きをお願いしたい」


 『彷徨い人』の単語に、エドたちと会話していた男性職員以外も俺の方を見てきた。


「お前たちとんでもないもん拾ってきたな。わかった。査定に出すもんは全部ここに置いておけ。で、その後は四人とも二階に一緒に来い」

「俺たちもか?」

「そうだ。『彷徨い人』の保護は実績になる。真偽の判定後、お前たちの方にも手続きが必要になるんだ」


 指示された台に熊を置き、アルとヴァンも苦労して狼を別の台に置いていた。エドは兎が詰まった袋と熊の首、あとよくわからない瓶に入ったものを渡していた。


「それは何だ?」

「スライムの体の一部だ。スライムゼリーって言われてて、色々使える素材になるんだと」

「ああ、いたな。そんなの」


 エドが倒したのですっかり忘れていた。


「よし、じゃあ行くか。査定の方は頼んだぞ」

「はい」


 別の職員たちが作業を開始したのを見て、初めから対応してくれていた男性職員が先になって歩き出した。

未だにタイトル詐欺で申し訳ない…ところでこれローファンタジーでいいんでしょうか。

現実世界があまり出ないせいでとてもそうは見えない…。

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