ツッキーは講習を受ける
さらに間が開いてしまいました…申し訳ない。
買い物の翌日、俺たち四人はギルドに来ていた。
昨日夕食を食べながら話し合い、試しに一つ講習を受けてみることにしたのだ。
講習はいくつかあるが、今回は採取のものを受けるつもりだ。講習によっては数日前に予約が必要なものがあるが、採取の講習は当日の朝でも受講可能だそうだ。
「解体講習は予約しないと解体する物の用意が出来ないからね」
「担当者が誰かによって教材も変わるから、解体したいものがある場合はちゃんと下調べも大事だな」
「何を教材にするとかはギルドでは決めないんだな」
ばらつきがあっていいものなのかと思ってそう尋ねると、アル達が実際に解体したものを教えてくれた。
「基本的に担当する冒険者に任されてるみたいです。僕たちはホーンラビットとホーンピジョンでした」
「ホーンピジョンは初めて聞いたな。ピジョンって言うことは鳩…小さいのか?」
「普通の鳩の倍以上の大きさだぞ。一羽でも食べ応えがある」
鳩も種類によってはそれなりに大きさに差があるがどのぐらいなんだろうか。
「まあいずれ見るだろ。あいつら普通に角なしとも群れてて混ざってることもあるし」
「角の有り無しでは区別されないのか?」
「されないみたいですよ。むしろ角ありが強いのでボスみたいです」
「そういうものなのか」
自然界ではアルビノとかちょっと違うものって狙われやすいとかで排斥対象にされるとかテレビで見た気がしないでもないが、ここでは違うのか?
「ここが講習について掲示されてるところだ」
そう言ってエドが指さした壁には、講習名と概要などが記入された紙が何枚も貼ってある三色に塗られたボードがあった。赤に塗られた左が『予約必須』と上に書かれ、真ん中は白く『近日開催』、右は青で『本日開催』とそれぞれの役割が書いてある。というかトリコロール。どこの国だこの配色。
説明によると予約状態や開催日までの状態によって徐々に右に掲示場所が移っていくらしい。
「青のところにある紙で予約不要となってる採取講習は…ああ、あったあった」
「受付停止になってないので大丈夫ですね」
「受けるものがあった場合はどうするんだ?」
「受付に行って受ける講習名を言うと必要なものが渡されるんだ。あとプレートに講習実績も記録される」
ヴァンとアルの説明の通りに受付に行くとレオンがいたので対応してもらう。
「はい。記録できましたのでプレートをお返しします。そちらの講習で使用するテキストはこちらです。講習にて使用する部屋は二階になります。ちょうど階段を上がった正面に見える部屋です」
「ありがとうございます」
受け取ったテキストはB5ぐらいの大きさで二カ所穴を開けて紐で止めてあるものだった。
「よし、じゃあ部屋に行こうぜ」
「講師の方はどんな方なんでしょうね」
「三人のときの講師とは違うのか?」
「ああ。俺たちはマロンって名前の魔法使いだった」
名前の通り栗色の髪の女性だったらしい。絵本などで見るとんがり帽子の魔女が浮かんだが、そういうタイプは見たことがないので違うんだろうな。
「失礼します。受講しに来ました」
話しながら二階に上がり、すぐ目に入った部屋は入りやすいようにかドアは開いていた。一応ノックしながら入る。
部屋にはアイマスクをした男が、いびきをかきながら椅子に全力でもたれかかった状態で寝ていた。
「…部屋間違えたか?」
「あってますよ」
「ツッキーが現実逃避してる」
「いや、まあ…講師がこれだったらしょうがないんじゃね?」
「グゴッ?! なんだぁ…?」
声に気づいたのか、いびきが止まった。そして背もたれから体を起こした男がアイマスクを上げてこちらを見た。
「あー…もしかして受講生か? 俺の時に来るのは久しぶりだな…」
でかいあくびをしてアイマスクを取った男は、立ち上がって手を差し出した。
「採取講習の講師の一人、シロウだ。あんたがくいっぱぐれないように最低限の指導はさせてもらう」
「月影といいます。よろしくお願いします」
「はいはい…いや、つーか採取より討伐とかの方があんたは稼げそうだけど」
「そうですか?」
「手とか体見たらわかるよ。俺みたいな半端もんと違ってちゃんと鍛えられた体だろ」
シロウと名乗った男は確かに強そうというより緩い印象しかない。手は少し荒れ、変わったにおいを感じるので薬などを使用しているのだろうか。
「シロウさんは、薬とかを使用するスタイルでしょうか」
「ああ、そうさ。俺の稼ぎは基本的には植物の採取だが、安全に採取するには罠や薬で安全地帯を作った方がやりやすい。まあ、俺のスタイルは寿命を縮めるだけだから勧めはしないな」
「寿命を縮める?」
ずいぶん物騒な物言いだなと思ったら、シロウは自分の頭をかきながら何でもないことのように言った。
「俺は生まれつき薬も毒も効かない体なんだよ。だから人体に悪影響が出るものも普通に使うし、何なら毒を普通に食う。効かなくても毒はたまるから、そういうのがわかるモンスターは俺を食わない。食ったら毒で死ぬからな」
なるほど、つまりフグみたいな人なんだなと納得した。
「なんか変な納得のされ方した気がしたんだが…まあいい。しかし肝も据わってるな。大抵こう話すと俺と握手した手を思いっきり拭きまくったり距離を取るやつが多いのに」
「人と交流するのなら何らかの対策は取ってるでしょうし、そうでない人はギルドも講師になどしないでしょう」
俺の返答に、目をぱちぱち瞬かせたシロウはまた頭をかいた。
「なんつーか…調子狂うな」
「実際はどうなんですか?」
「触れるぐらいなら問題はない。前俺の体質を調べた際に言われたが、血と肉と内臓に毒がたまるらしい。それ以外、たとえば汗なんかは無毒だ」
「ではともに行動する際に気つけるべきは、出血ですか」
「まあ、血も触れない限りは問題ない。血で問題が起こるとしたら俺が大量出血でその辺血だらけにしたらだろうな」
「死んだときに遺体の処理に困りそうですね」
「一応魔法なら効くから解毒は出来るぞ。溜めてる毒の状態によってはかなり上級のじゃないと効かないが」
だからたまに解毒魔法の実験台として体内の毒をリセットさせられるらしい。逆に新種の毒を作りたいというときは毒料理をふるまわれるそうだ。
「まあ、そんなことするのは俺の嫁なんだが」
「あ、既婚者でしたか」
「この体質目当てなのを全く隠さず、気づいたら外堀を埋め壁を築いて囲まれてたさ…俺の毒はよく売れるらしいぞ…」
遠い目をしているシロウは日ごろ奥さんに振り回されているようだ。というかちょっとマッドなのではないか? その奥さん。
閑話休題。
時間になったので俺たちは席に着き、壇上にシロウが立った。
「もらったテキストは開いてみたか?」
「まだです」
「じゃあ、開いてみろ」
シロウに言われて開くと、モノクロで書かれたイラスト付きのテキストだった。
「余白が多いですね」
「そりゃあメモするためにそうなってんだ。後ろの方見てみろ」
言われるままに後ろの方を見ると、白紙ページが続いている。
「このテキストはギルドが欲しいもんが書いてある。基本的にここに載ってるものを採れるようになれば生活できるんだ」
「なるほど」
「とは言ってもそれ以外にも売れるもんはあるからな。そういうものについて書き留められるように白紙が用意されてるんだ」
シロウが使い込んだテキストを出して元白紙のページを見せてくれた。
「…あの、毒持ったものばかりなんですけど」
「薄めたり他の材料と混ぜれば薬になるものもある。あと、毒は基本スパイシーでうまいぞ」
「完全に調味料扱いなんですね」
「俺はな。下手にマネするなよ。物によっては死ぬ」
「絶対にしません」
「それが賢明だ」
その後は安定的に売れるものと単価が高いものの説明をされた。
穀物は安定的に取引があり、単価が高いものは香辛料となるものだった。というかダンジョン、採取できるものが多い。穀物は大体網羅してるし、うちの家庭菜園でも作ってるシソとか三つ葉とかの香味野菜やハーブなんかもある。もちろんよく知らないものもあるが、そういうのはこの空間独自のものだろう。カカオやコーヒーとかもあるのか。本当に豊かだな、ダンジョン。
ダンジョン外ではメインは薬草やナッツ類、キノコと書かれている。他にも果実などはあるとのことだが、ことごとく『ダンジョンでも取れます』という但し書きがあった。
ダンジョンに誘い込まれてるなぁ…。
講習終わりませんでした。
ちょっとシロウさんの設定が無駄に広がってしまった…。
人物設定別に載せた方がいいですかね?