ツッキーは無茶振りされる運命
アスファルトなき道、道の脇から跳び出す角ありの兎、そしてそれと対峙する皮で作った防具と思われるもので武装した少年たち。
両刃の剣やナイフで少し離れて各々獲物を狩っているところをつくように、スライムのようなものが忍び寄ってきていたのを発見したが、手を出すのはぎりぎりまで待つ。
なぜ、現代日本のおっさんである俺、月影聖人がこんなことをしているのか。
発端は数時間前に遡る。
「――暴走?」
「そう。暴走」
「まだ能力について調査中の新人が休憩中に能力を暴走させた。たまたまそばにいた能力者も複数巻き込まれたようで消息不明だ」
突然緊急事態と呼び出され、自身がお目付け役として籍を置いている団体『C&C』の事務所を訪れていた。どんな団体かというと、ざっくり言えば保護団体だ。保護する対象は表向きは恵まれない子供、しかしその実態は特殊能力を持つ青少年である。能力持ちは搾取されたり差別されたりと問題を抱えていることが多く、その保護と能力の制御補助を行う目的で財力と知名度があった能力者たちが立ち上げた。
そしてそこにお目付け役として俺は放り込まれたのだが、俺自身は別に能力者ではなかった。本業は警察官だが、父の友人である警視総監の無茶振りで警察と『C&C』の橋渡しをすることになっている。
橋渡しというか、体のいいパシリな気がしないでもないのだが。
そんな団体のお目付け役の俺を呼びつけた双子の男女が淡々と状況を説明した。表面上は淡々としているが、それは動揺を隠すためのものだろう。むしろ、兄の皐瑛は普段感情を載せて話す方だ。妹の瑛李はあまり感情を露わにしないが、普段より饒舌になっている。
「…巻き込まれたのに、古参がいるな?」
俺の言葉に、皐瑛の方が眉間にしわを寄せる。
「そこが非常に問題だ。俺たちの機動力が削がれた」
「調査中に万一があった場合に、即隔離できるよう傍についていた舜さんと連絡が取れず、貸し出している護衛用式神との接続状態からこの世界にはいないことが判明している」
消えたやつの名前を聞いて、俺は頭痛がしてくるような気がした。
舜こと知立舜はこの団体の中でも状況説明している目の前の双子の小柳皐瑛・瑛李に次ぐ実力者だ。
肉体は頑強とは縁遠いもやしだが、特殊能力が便利で頭脳明晰なので応用が恐ろしい。というか頭がよすぎて能力なしでも恐ろしいときがある。そのため団体内の怒らせてはいけない人物第3位だったりする。ちなみにその上は同率1位でこの双子だ。
「あいつがいないって…それ大丈夫なのか?」
「幸いなことにしばらく遠方での仕事はない。今残っている人材などで対応可能だ」
瑛李はため息をついてそう答えた。
「自力で帰ってこないのが問題だ」
皐瑛がわずかに顔をしかめてそう言い出した。
「あいつが正常な状態なら、帰ってくるだけなら出来るはずなんだ」
「まあ、地球の裏側にひょいっと行ってくるようなやつだしなぁ」
「空間操作系でもずば抜けてるから、これまでの子たちは暴走しても打ち消せてた。こちらとしてもこうなるのは予想外だ」
表情は動かないが、付き合いが長いので少し瑛李が落ち込んでいるのがわかる。
「予想できなかったのはしょうがない。今後のことは後で考えるとして、救助は可能なのか?」
「おそらくできるとは思う」
「空間のゆがみが残っていて、そこから護衛用式神の気配を感じ取ることはできている。交信はできないのでゆがみの先がどうなっているかはわからないが、気配がまだあるということは舜は生きている」
双子が移動をはじめ、普段は軽い練習ができるようになっている部屋の前に立つ。
ドアには『立入禁止』と張り紙がしてあった。
ドアのはずなのに何となく壁がある気がするので、おそらく二人が術で結界でも張っているのかもしれない。
「能力の中にはすり抜けるのもあるからな」
「結界にて立ち入りは禁止して、さらに私たちの式神で監視を行い新たな被害者が出ないようにしている」
「結界に気づくこと前提で話すな。いや、今回は気づけたが」
元一般人に求める要求が高度過ぎると思いながらもそう答えるが、双子は全く気にしてくれなかった。
皐瑛が柏手を打つとドアの前に壁があるような違和感がふっと消え、ドアが内側から開かれた。
監視を任された式神たちの横を通り中に入ると、そこには小さなブラックホール染みた空間のゆがみがあった。空中に存在している黒い渦はゆっくりと動いているが、大きくも小さくもならず安定しているように見える。
「あれが残されたものだ」
「思ったより小さいな。もっと部屋いっぱいに広がってるかと思った」
「発生時の状況は不明だが、私たちが駆け付けたときにはこの状態で安定していた」
「バスケットボールぐらいのサイズで通れるもんなんだな…近づいても平気なのか?」
近づいた途端に吸い込まれでもしたら困ると思ったので聞くと、問題はないようで二人が近づいてみせた。後に続いて近づいても変化はなかった。
「これに関しては不明点が多いが、一つだけ分かってることがある」
「これの中に私たちは入れない。入ったら誰かが損なわれるだろう」
「出たよ。予知としか思えない直感。まあ、それに関しては俺もうっすら思った」
二人の勘はかなりいい。その上俺も色々巻き込まれてきたので大分鍛えられているせいか、多分二人と似たような感覚を得た。
これはそんなに丈夫じゃない。二人のような重量級は受け止めきれない、と。
色々別格過ぎるこの二人のどちらかがいればすぐに解決できそうだが、それをしない理由がこれなのだろう。
そして、途中から皐瑛が俺の背後に回っている。
「というわけで、行け」
その一言とともに背中に衝撃が。
「やっぱりそういう役割かー!」
「巻き添えの可能性がある人物一覧などは式神に預けてあるのでよろしく頼む」
瑛李はそう言って見送るだけだった。
まあ、この双子はいつもこうなので慣れたが、事前の情報共有をもっとしてほしいと切実に思う。そんなことを現実逃避気味に思いながら、ゆがみの引力に引っ張り込まれていくのに身を任せた。
そして、俺はいつの間にかのどかな草原で角が生えている兎の頭部を握りつぶしていた。
お読みいただいてありがとうございました。
学生時代に作成したキャラクター達を流行の異世界というかダンジョンに放り込みたくなったので創作してみました。
ちなみにこのキャラクターたちがとあるゲームの世界にいたらという二次創作をぴくしぶで書いてたりするので、もしかして見覚えのある方もいるかもしれません。
特にツッキーはそのあだ名まんまなので、気づく方もいるかもしれません。
あと放置しすぎのオリジナル小説サイトもあるので、見たことある方もいるかもしれません。