最終回.聖女ちゃんは愛されたい!
あれから2年の月日が流れ……────
「ニャタリー!!お前やり過ぎだろ!?」
「いや〜、3人の奢りの結婚式だと思ったらすんごいことになっちゃいました⭐︎」
用事の終わった大聖堂の扉の前でテヘペロっと舌を出せば、呆れたとばかりに王子は頭を抱えて座り込んだ理由は、今日王都の中心の大聖堂を貸し切って挙げるわたし達の結婚式のこと。
昔は卒業したら自分達の領地で式でもあげたいとか妄想してたけど、せっかく一生の思い出になるならば!!っと、アルフと両思いになったあの日、先輩方の卒業式に今までの貢献の御礼に王都の大聖堂で結婚式をあげさせて欲しいと頼めば王太子殿下から許可を得て、その後にそれを知ったブルーノとイーサックからもお詫びに自分たちから式にかかる料金は全て持つと言われて、それに王子も頷き、それならばと遠慮なく在学中の2年間を結婚式の準備期間だと一流デザイナーにドレスを頼み、当日は式場もめいいっぱい花で飾りつけて、更にフラワーシャワー。
でもあまり大人数で集まると目立って聖女だとバレると困るので、王都まで呼ばない領土の人々へのお土産の高級なお酒や高級なお菓子も引き出物も準備して、式には家族と学生時代の仲の良かった友人、それに三原色トリオもお金も出してくれたしと招待して、人数だけは質素で豪華な式を上げました。
「ナタリーへの……詫びとすれば安いくらいだ。……おめでとう……綺麗、だった」
「まぁお姉様には色々と恩もありますし、仕方ないですね」
素直に褒めてくれるイーサックに、ブルーノはトウドに嫌われたのが応え過ぎて死にかけたところを回復魔法とトウドに誤解……ではなかったが、例の件からある程度はその許しを得られる手伝いをしたことを言ってるのだろう。
「でもナタリー、やり過ぎだって言ったろ?何で後からする披露宴で僕のお色直しが5回もあるのさ」
「そこはむしろ遠慮した方なんだけど!!?アルフは何着ても素敵!!!」
タキシードのアルフに本日何度目かわからない胸の高鳴りを覚えて告げれば、フランツ王子が勢いよく立ち上がりアルフを指差し、
「ニャタリー!その話は自分達の領土でやる披露宴だろ!?そこまでなんで俺たちに負担させる!?」
「このナタリー・フォレスター!!聖女だけでなく、とある方がしなかった悪女を兼ね備えてみました!!」
「何のことだ!?」
「あと卒業式の時にめっちゃ頑張ったので、世界がめっちゃ平和なので軍事費とか防衛費的なのが浮きがちなの知って経済回してみました!」
その言葉に「うぐっ」と言葉を詰まらせたフランツ王子にこれ以上言うことないとドヤっとすれば、勢いよく誰かがわたしを両サイドから抱きしめた。
「ナタリー♡おめでとぉ〜!すぅっごく綺麗だったよ……。それにアルフ君もね♡」
「ナタリー今日はおめでと。でも式の最中にあんな顔のデレッデレに崩れた花嫁っている?新郎が引いてたし。誓いのキスの時あんた唇突き出してたのに、オデコにされてたじゃない!」
「えぇ!?アルフったら照れただけだよぉ〜?」
クレープとダリアンにもみくちゃにされながらもアルフの同意が欲しくてそちらを見れば、めっちゃ視線逸らそうとしてるのか空を見上げてる。
「嘘だよねぇ!アルフゥ!!?」
嘘だと言って欲しいと涙ながらに訴えれば、アルフは眉を下げてこちらを向いた。
「ナタリー……そろそろ終わりかな?」
「え?」
見上げた先をわたしも見れば、そこにはカロッコウ母と兄弟たちが皆んなで円を描いて……いや、ハートのマークを描くのが見えてわたしは思わず頬を緩ませれば、もう成長してお母さんとさほど変わらないサイズになった兄弟の1匹がそれから外れると……それを追う様に兄弟たちがめちゃくちゃすんごいスピードで突っ込んできたんですけど!!!?
「ちょっ!兄弟!!?」
「ピッピヨピヨ……ピヨーーー!!!」
彼らに狙われたらしいアルフは避けたものの、殺気溢れる兄弟たちのその目にわたしと言えど思わず怯んでしまったが、アルフは微笑みわたしの前と立った。
「悪いね。それは無理な相談だ」
にっこりと笑うアルフに「おい、なんで話が通じてるんだ?」とか王子のツッコミも無視して、その会話にわたしは胸をときめかせる。
「ピヨピヨピヨピピッピッピピヨピヨヨ!!ピッピヨピヨピヨピピヨヨヨ!!」
「そうかもしれないけれど、ナタリーは僕のことが一番大切な、僕の妻になったんだよ」
「ビッ、ピッッ、ピヨヨーーーーーン!!!」
アルフはタキシードにも関わらず軽々とその身を翻し、兄弟達の攻撃を躱し受け流す。
「……おい、アレ……」
「まぁアルフくんはあのナタリーの聖女のフリまでしてたんですよ。純粋な力ならナタリーが上かもですけどぉ、スピードならアルフ君でしょうね♡」
「君、随分と冷静に分析しますね……」
フランツ王子の呟きにクレープが返すとブルーノは怖いものでも見たとばかりに冷や汗を流しながらその顔を見れば、うふふと可愛い三つ編みを揺らして微笑んだ。
「まぁここでのナタリーの願いも叶ったならもう充分かな。じゃ、そういうことで」
アルフはそう言うと、わたしをお姫様抱っこして近場に居た馬へと飛び乗ると、颯爽と駆け出した。
「アルフ!!?」
「ナタリー、君、こーゆーのも夢だったんでしょ?」
「夢でした!!!」
アルフのお姫様抱っこでウエディングドレスで逃げ出すとかもうご褒美以外でも何でもないと、馬を巧みに操りカロッコウから逃げるアルフに心臓を撃ち抜かれる。
「好きーーーー!!!!」
「知ってる」
そう言って額にキスしくれると、ハニーベアーの右手ばりに甘いアルフの笑みに溶けそうになりながら、なんとか体幹を駆使して馬から落ちずに大聖堂の広い庭園の中で逃げまわる。
*****
……俺はニャタリーからの願い、今日の大聖堂の貸切のために教会へと納めた金と、目の前で聖獣と聖女らが穴を開けてる庭園の修理費に頭を痛めていれば、そんな俺の元へと一番大きなカロッコウが近づいてきた。
「これでは御礼を言う暇もありませんね」
「お前喋れたのか!!?」
カロッコウから聞こえた声に俺たちが驚けば、たしかニャタリーが『カロッコウ母』と呼ぶその胸の羽毛から、白く美しく長い髪のカロッコウの化身が現れ……、
「ユノ先生!!?」
「はい」
いや、現れたのは化身ではなくユノで、驚いた俺の声にユノは微笑みカロッコウ母に寄りかかる様に立った。
「回復したのか」
「はい。おかげさまで」
元々色白だった肌は更に白くなったように見えるのは気のせいではないのだろう。
あの卒業式の後、魔素に全身を取り込まれていたユノはこのまま死ぬのだろうと思われていた時、聖女ナタリーがカロッコウの母を連れてきた。
『駄目かもしれない。でも……』
そう言ってニャタリーが見上げれば、カロッコウは慈愛に満ちた瞳で頷くとその背へとうなされるユノを乗せると飛び立ち、そのまま何処かへいってしまうのをニャタリーは遠い目をして、
『爬虫類以外は嫌とかグダグダ言わずに頑張んなさい』
などといって送り出していたのを思い出す。
「しかしユノ先生、どうやって」
「カロッコウ母上が、献身的に寄り添い、四六時中その胸で温めて下さり、その神獣と呼ばれるほどの聖力で長い時をかけて私の毒素を抜いてくれたんです」
「そうだったのか」
それを聞いてホッと息を吐き、感謝を込めてカロッコウに手を伸ばせば、ユノに叩き落とされた。
「え?」
「すみません。フランツ様はもう御卒業して王族で在られるゆえに不敬だとは存じていても……我が愛するカロッコウ母上に触れることは許しません!!」
「ピッピピヨピヨピピピーーーー!!!!」
ユノは何故か突っ込んできたカロッコウ達を尻目にまたカロッコウ母の羽毛の中へと隠れるように消えれば、カロッコウも母を攻撃できないのか怒りの声を上げてその周りをぐるぐると回りだす。
「フランツ様!空から神獣が降りて来たと民が大聖堂へ押し寄せてきているようですわ」
参列者として来ていたシャルティエがドレスのスカートを摘みながら、決して速いとは言えない駆け足で慌てた様にこちらへとくれば、俺の手前でドレスを踏んで転ぶのを抱き止めた時、それこそなだれ込む様にやってきた民が見たのは、大聖堂の前で神獣カロッコウが立ち、他のカロッコウはその周りで円を描くように回り……、その中で抱き合う王太子である俺と聖女シャルティエだった。
これぞ平和の象徴であると、そして民達は周りを見れば今日は俺たちの結婚式だったのだと誤解は広がってゆく。
「あ、いや……まて」
手を前に出して誤解を解こうと思うが、盛り上がる民衆に止める術もなく、心に決めてその拳を振り上げて、
「我が民達の前で我が国の聖女シャルティエとの婚姻を誓う!!」
なとどと叫べばシャルティエは顔を真っ赤にし、その美しさと純情さに民は更に盛り上がっていく。
こんなプロポーズになって悪かったとその顔を見れば恥ずかしそうに頬に手を当て……それでも嬉しそうにその瞳を閉じたので、俺たちは神獣の前で誓いのキスをした。
******
……そんなお熱いことが起きてるのは知らず、わたしたちはカロッコウがユノへと攻撃を移した隙を見て、裏口から逃げてゆく。
「アルフ、あのね」
「このまま領土へ帰る? それとも予定より早いけど取っておいた高級宿に行く?」
そう言いながら2人きりになった途端、チュッチュと音を立てて頬にされるキスにわたしは真っ赤に染まって下を向き、
「アルフ。……あのね、大好き」
「僕もだよ。ずっと子どもの頃からね」
その言葉に思わず視線をあげれば、アルフは嬉しそうに微笑んで、
「君が僕を見るたび、いつその恋心が終わるのか不安だったけど、ずっと好きでいてくれてありがとう」
驚いて目を丸くしているうちに裏道を抜けて宿へと着くが、ウエディングドレスのままなわたしのことなど、神獣が現れたとかおめでたいことがあったとで町は大賑わいで気にする人はいなくて、アルフが持っていた鍵で最上階の部屋へと入れば、そこは甘い花の香りのする特別な部屋。
わたしは今更になって恥ずかしくて、外はおめでたいことがあったともう夕暮れ時になったにも関わらず祭りの時のように花弁の舞い散る浮かれた町の様子に窓を開ければ、アルフから後ろから抱きしめられた。
「アルフ、あのね」
「ナタリー、大好きだよ。お互い見染めた相手が出来なかったんだ。約束通り僕と結婚して下さい」
その言葉はいつか親とした約束なのだと思い出しクスッと笑う。
「わたしはずっとアルフだけ見染めてたけど」
「染まるほど見られてたね」
「えへ」
照れ臭くて笑って向かい合えば、そっとわたしの指へと指輪を……、
「キャーーー!!!泥棒!!!」
つんざく様な悲鳴に思わず窓から見下ろせば、この浮かれた人々の中で泣く女性と人々を掻き分けてその身に似合わぬ可愛らしいバッグを持って走る男。
「あっ!!!アイツ一年の頃にアルフワンコ盗んだやつ!!」
「……アルフワンコ?」
「まっ、まぁだあんなことしてるのね!!!」
思わずわたしがベッドでここ2年半抱きしめ共に寝てチュッチュしてる存在のことを言ってしまったと、慌てる様にアルフの言葉を被せて言いながら飛び出そうと窓枠に足を掛ければ、アルフから呆れた様に側にあった制服と仮面を渡された。
「え?」
「必要でしょ?」
「うん!!!」
一応視線を逸らしてくれたアルフの前でドレスを脱ぐと卒業して以来の制服へと手を通してわたしは窓から飛び出し、
「いってくるね!」
「気をつけてね」
そう微笑み送り出してくれる旦那様に微笑んで、屋根を飛び移り人々の視線の無い路地へと入った泥棒の背中を蹴り飛ばす。
「何しやがる…!」
「何しやがるって……泥棒退治?」
それ以外に何があるのだと首を傾げてその腕を縛りあげていれば、「きゃーーー♡」と今度は声援にも聞こえる声があがった。
「え?」
見つかってしまったと振り向こうとした時、
「やはり聖女は王妃様よ!!あの金髪!!」
金髪と呼べるほど明るく無いけど、銀色に染め忘れたわたしの髪は沈みそうな夕日の光が当たり、シャルティエ様のような金色に見えたのだろう。
「白銀ではなかったのか!?」
「ではやはり王妃様なんだ!!」
「え、えーっと」
とりあえずその後ろからかき分ける様に警備兵が来たのが見えて、わたしは更に路地の裏に入る時、サービスだとウインクしながら、
「国民に幸多からんことを」
最後にそう告げた時、王都での聖女の仕事はこれで最後だと決めてひと気のない所まで逃げたところで、髪を解き銀髪へと染めて人混みとは逆走してわたしは愛しい人の元へと真っ直ぐに駆けてゆく。
そして最初から何よりも誰よりも一番守りたかった彼の胸の中へと飛び込めば、わたしは今のが聖女としての最後の仕事になったのだと実感し、そんなわたしをただ優しく見つめて指輪をくれるその人を思えば、聖女なんて肩書きなんてなくたって、ただ愛のままにこの先もすべてを守っていこうと思えた。
こちらで聖女ちゃんは免れたいは完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ラスト手前で更新が止まってしまい、待ってくださっていた読者様には大変お待たせいたしましたが、無事完結することが出来ました。
更新が一年以上あいてしまったのに、ブクマ残してくれた読者様、ありがとうございます!!完結までの背中を押してくれました!ありがとうございました!!!
駆けまわる聖女ちゃんはここまでですが、また楽しく笑顔になれる作品を書いていきたいと思います!
書籍化される作品や、その他短編も色々と書いております。もしよろしければそちらもお読み頂けると嬉しいです!
ありがとうございました!




