86.聖女ちゃんは許しがたい
「しかしニャタリー、聖女と名乗りでないのならば国から功績を称した報酬をやれないんだぞ」
「え。欲しいですが」
「素直な物欲だな」
「かなり頑張ったので」
「それは……まぁな」
はぁ〜と大きな溜息を吐きながらいう王子に、そうでしょうと大きく頷きアピールしてから、ふと良いアイデアが思いつき、そっと近付き耳打ちをすれば、少し驚いた顔をした後に「それでいいのか?」と問われて大きく頷く。
「ニャタリーがそれでいいならそれでいい」
「やったぁ!」
素直に嬉しくて喜べば、フランツは呆れたようなそれでいて仕方ないとでも言うようにわたしの頭に手を伸ばし優しく撫でられた。
「ニャタリーは世話になったし、まるで可愛い妹のようでもあったしな」
しかしその言葉にわたしはその手を掴み搾り上げて、
「幼女と呼ばれた事……、一生忘れませんから」と告げれば、「いやあれは誤解だ」などと言ってくる。
「幼女?」
そんなアルフの質問にどこまで言うかと悩みながらも、あの言葉を言われた状況を告げるべきか悩むより先にやはり許せないとその腕を締め上げながら口が開いていた。
「なんか少女の柔肌見て、『幼女とは思わなかった』とか失礼千万なこと抜かしたもので」
「お前こそ王家に対して礼儀とかアレをだな……っ!?」
その言葉と共に仰け反り避けた王子の目の前を横切ったのはイーサック先輩の矢。
「……それは……聞いていない」
「聞く前に撃つなよ!!!?」
木に刺さると消えてゆく魔力の矢は、かなり致命傷になりそうな勢いでささったのか、それなりに太い木は折れていった。
「でもイーサック先輩も聖女の力を手に入れようとしてたから同罪です」
「いや……それは、その……まさか、ナタリーだと……知らなくて……もし知ってたら……」
ごちゃごちゃと言い訳するその頬に一発平手を打ち込み、
「これで、チャラです」
と、過去に少女の純潔を奪われそうになったにしては優しい配慮にイーサック先輩は、叩かれたままの向きで頷くと、
「すまなかった。許してもらえて感謝する」
いつもよりもはっきりとした口調で告げられた言葉に、それは彼らが過去より言い伝えられたことを考えれば仕方ないのかもしれないと思い、これで手打ちにすると終わらせてあげる事にする。
「お姉様!私は決してお姉様を狙ってなど……」
「それを止めなかったやつも同罪だから」
そう言ってアルフが冷たい目を向ければ、ビクリと震えてから、
「そうか君が偽聖女なら、あの時の……アルフくんこそ俺たちの純潔を」
「アルフがそんなことするわけないでしょ!!」
その顔面に小気味よく決まったわたしの足裏に言葉を止めれば、アルフも後ろで頷いてくれてる。
「はい。それが魔獣に襲われたと噂があった時のことでしたら……、先輩方の尻が痛かった件は僕が後ろから意識を落とした後に蹴り飛ばしただけです」
「「しっかりやってるな!!」」
思わず声をかぶらせてツッコんだのはフランツ王子とブルーノの2人。イーサックは思い出したくないように顔を顰めながら小さく「無事だったなら良かった」と呟いている。
「そんな襲われる恐怖をか弱い女の子であるナタリーに味わせようとしてた自覚が芽生えるかと」
「か弱いか!!?」
「そ、そうです。お姉様は結局は無事だっ……た……ッ!」
「姉様に……何?」
やいのやいのと騒ぐ2人の背後から音もなく子カロッコウに乗って戻ってきたトウドの声に青頭はビタリと止まる。
「姉様に、そんなことを……?」
「いえ……その……」
どこから聞いていたのかとかも聞くことも出来ないのか、ブルーノは学園で見るクールなイメージとは程遠いほどの硬い動きで後ろを振り向けば、眉に皺を寄せて涙を浮かべたトウドが、
「きらいっ!」
そうシンプルに告げれば、トウドは改めて子カロッコウの背に乗ったまま空へと飛び立っていった。
ズガガガガーーンと謎の効果音が聞こえたのは、さっきの魔獣のせいでどこかで何かの壁でも壊れた音かもしれないと気にすることなく、膝をついて凹みまくってるブルーノも気にすることなく、
「じゃ、そういうことで」
と、わたしはそばに寄ってきてくれた母カロッコウの背にアルフと一緒に乗り空へと飛び立てば、アルフから背後から抱きしめられて動揺する間もなく、
月をバッグにその真剣な瞳につられるように瞳を閉じて……大好きな人と、触れる様なキスをした。




