82.聖女ちゃんは隠されたい
「間に合わな……っ!!」
わたしの伸ばした手は届かずに聖杯は床へと……
「えぇぇいっっ……いたぁっ!!」
走り込んたシャルティエ様が床へと落ちる前に滑り込み、手を伸ばしたが……その後頭部に直撃して、聖杯はそのまま奇跡的にそのままシャルティエ様の背中へと乗った。
「大丈夫ですか!?」
「シャルティエ!!?」
わたしと王子の声にシャルティエ様が顔を上げて、見事なスライディングキャッチ……いや、キャッチはしてなかったにせよその背中に乗って助かったことに笑顔を浮かべれば、彼女にも大丈夫だったと伝わり安心したのかシャルティエ様もホッとしたように笑顔を浮かべたその綺麗で高い鼻が擦れているのが目に入る。
「シャルティエ!お前の綺麗な顔が!」
「まぁ!フランツ様がわたくしをお褒めくださいましたの!?」
「「ちょっ……!!」」
シャルティエ様が胸の前で指を組んで嬉しそうに勢いよく立ち上がった時、その背中から聖杯が落ちて改めてわたし達が手を伸ばすのも間に合わず、〝パリンッ〟と軽い音と共に聖杯がシャルティエ様の足元で……割れた。
「え!? もっ申し訳ございませんっ!!わたくし重みなど感じなかったので受け取って頂いたのかと……!!」
涙目でシャルティエ様が組んだ指のままフルフルと震えていれば、割れた聖杯から突然光の柱が上がってゆく。
「……そうか。これはニャタリーが浄化し、既に聖なる力となっているのか」
フランツ王子の呟きに息を吐けば、わたしだけではなくシャルティエさまも涙を浮かべて安堵したかのように空を見上げた。
「皆様ご無事で…………!?」
今更になって現れた騎士団とその背後にはこの会場から逃げ出した生徒たちが現れると、その幻想的な様子に言葉を失う。
「……シャ……シャルティエ様から光の柱が……!!まさかシャルティエ様が聖女さま!?」
「横にはフランツ王子様が寄り添われていらっしゃいますわ!!」
確かに割れた聖杯の光はこちらから見るなら、2人の前の溢れたところから出ているが、生徒達の方からは光の中に2人が見えるのだろう。
「あっ、いえ、わたくしは」
「……『わたくしが、聖女です』と、仰ってください」
その誰かの小さく呟く声に〝ビクッッッ〟としたのはシャルティエ様だけではなく、シャルティエ様とフランツ王子。……それにその人によって近場の穴の中へと引き摺り込まれて口元を抑えられたわたし。
「いいですか。こちらは見ずに、大衆に視線は向けたままで……。そしてシャルティエ様、フランツ様。ナタリーは聖女であることが知られるのを望んでおりません。それに聖女がナタリーと分かれば誰しもフランツ王子の妻にと願うでしょう」
「……!!」
たしかにその通りだと口元を結べば、わたしを後ろから抱えて押さえ込んでいたその人は小さく笑い、お疲れ様とでも言うようにポンポンと肩を叩いてくれるとまた小さな声で話を続ける。
「そうなるのは皆さま誰しも願うところではございませんでしょう? ならばやることは一つ」
そう告げると同時に光の柱は天へと昇るように消えてゆく。
「あ、あぁそうだ!!我が愛する婚約者、シャルティエこそ、この国の聖女!!」
手を広げて堂々告げるフランツ王子に拍手喝采が起きたところで観衆の中から誰かの呟きが溢れる。
「でもわたしの見た聖女様と違う気がする……髪色だって……」
「……たしかに」
わたしの聖女の姿はかなりの人に見られていたのだと焦れば、またその人から指示が出ると、シャルティエ様はその言葉を先程のままに胸の前で手を組んだまま声を上げる。
「あれは……わたしのせ、聖なる力の媒体でしたの。聖女などと……そのような力でフランツ様の御心を掴むのではなく、こうしてわたくしを、わたくし自身を愛して頂きたかったのです」
「「「シャルティエ様ァァァ!!!」」」
シャルティエ様の言葉を取り巻きの皆様が涙ながらに感激したと声をそろえれば、周りも感動したかのように拍手が広がる。
「ワタクシ、聖女としての力は、使い果たし、それでも、この、世界は、浄化し、一時の平穏は、約束いたします」
指示通りに話すその盛り上がった観衆のせいで言葉は聞こえにくいらしく、やや区切り区切りではあるが……それでも流石未来の王妃様。
聖女の役をやると切り替えたのか、その堂々とした様子に皆が信じて疑わなくなってゆく。
「ではシャルティエ様は倒れて下さい。そしてフランツ様は支えて下さい」
その指示に2人が従えば、シャルティエ様の儚さと2人の愛が伝わったのか、心配の声と喝采が湧き上がる。
「シャルティエは力を使い果たし、ひとまず休ませようと思う。この場は一時閉鎖する。騎士たちも一度この場を出るように」
「しかし……ブルーノ様にイーサック様もお怪我されているようですが」
騎士の視線にブルーノは服をはたき皆の元へと向かい、イーサック先輩はユノ先生へと近付き、
「大丈夫です」
「……問題ない」
そう言ってイーサック先輩はユノ先生を肩に担いで一瞬こちらを見ると……何故だか寂しそうな瞳に見えたが、気のせいかと思えるほどにすぐに引き締めた顔をして騎士の元へと向かっていくと、騎士に向かって指示を出す。
「……この場は……シャルティエ様……の加護下だ。今日は誰も入ることなく、明日の朝にまた片付けることにしろ……」
「わ、わかりました!!」
「……では、いくぞ」
三原色が早足で動けば、騎士や見に来た生徒達の足音も遠のいていく。
「アルフは!?」
ホッとして出た言葉に立ちあがろうとすれば、わたしを隠したその人はもう少しここにいた方がいいと手を掴み、「大丈夫」といつものように優しく微笑んだ。




