80.聖女ちゃん万物を愛す
目を瞑り潰される覚悟を決めた時、その場に何かがぶつかる音が響いた。
『 助けるわ!!! 』
耳に……いや、直接心に響いたようは声に目を開ければそこにはオオトカゲに体当たりしていたのは……、
「カロッコウ母!!?」
山でわたしを育てようとしたその姿は懐かしくも見上げるほど大きく、カロッコウからの一撃でオオトカゲは消滅していくと口の中にいたユノ先生がドサリとその場へ落ちる。
『 助けに来たわ!我が子よ!! 』
「我が子じゃ無いし!!」
明らかにお母さん鳥は親指でも立ててそうな勢いでこちらを見ると、鳥のくせにウインクまでしてきた!
「お母さんそれ可愛いっ!」
『 お母さんと呼んでくれるのね…… 』
フワッサと羽毛100%で抱きしめられて気を緩めそうになるが、
「そうだ!!魔獣!!他にも小さい奴らが数匹逃げ出して……!!」
慌ててその羽から抜け出すと、目の前にはクチバシにトカゲを咥えて引きずってくる4匹の子カロッコウ。
「兄弟たち!!」
思わず叫んだその言葉に消えゆくトカゲを口から落とし、キラキラと嬉しそうに瞳を輝かせて今度は周りを4匹にフワッサと暖かな羽毛で囲まれる。
「こっちも間違えた!!」
『兄弟』と呼んだ自分の言葉を訂正するが、子カロッコウたちは『ぴよぴよぴよぴ〜っ』とばかりに優しい視線を向けてくるのは居た堪れない!!
「ニャタリー……、おまえ、やはり聖女じゃなくてテイマーだったのか……?いや、それにしても神獣を手懐けるとは……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……!!そうだわ、トカゲ達の毒の成分もわからないとアルフが……!ねぇ誰かトカゲを生け取りにしてない?!!」
羽毛400パーセントから顔を出せば、カロッコウ達が消えたトカゲの場所に視線を送り申し訳無さそうにする。
「いや……あなた達は悪く無いの……。でも、どうしよう……せめて、毒が……そうだ!ユノ先生なら!!?」
もふもふの隙間から抜け出そうと踠いていれば、ザッザッザッと何かが近付いて動く音が聞こえてきた。
「何の音!!?」
とにかく動けないアルフや他のみんなも守らなきゃと飛び出せばそこには、ユノ先生をその背中に乗せた大量の雪脱兎。
「ちょ、何してるのよ?」
雪脱兎の周りには黒いオーラに囲まれていて、白い毛が黒く染まって行く様子は、きっと魔に浸蝕されていっているのかもしれない。
まさか……これがユノの言っていた『魔獣の作り方』!?
「待っ……!」
「アはハハハ!!また時を改めよう!!偽モノの聖ジョよ!!」
わたしの声に被せるように、雪脱兎の上でユノが笑うと、その逃げ足は獣の中でもトップだと言うだけあって駆け出したその足は早い……!
それでもわたしは地面を蹴りその前に回り込み、その行く手を阻めば雪脱兎は勢いよく向きを変え逃げていく。
「 待 ち な さ い よ 」
まだ魔に染まりきっていないその身に、聖のオーラを当てれば、
「ビッ!!」
と、可愛らしい鳴き声と共にその身を震わせ足を止めてくれるのはまだきっと魔に染まりきっていないせいだろう。
「何をしテいる!!兎ども逃ゲロ!!」
ユノ先生の中の何かに命令されれば黒く染まっていくその姿を見て、わたしは先頭の雪脱兎の頭を掴む。
「だぁ〜いじょうぶよ!魔には染めさせないわ!」
「コイツらハ侵食ヲ始めた!!今更、止める手立てなドない……!!」
掴んだ雪脱兎とその仲間達はプルプルと震えて、その身に聖の魔力を流して白く戻していく。
「何故ダ!!!獣達はコチラを主人ト決めさせたノニ!!」
「主人?」
「ソうだ!!!」
ユノ先生らしきその者は身体をグネらせて発声をするが、
「それなら簡単だわ。……ねぇ雪脱兎♡わたしはアナタ達のことだーーーいすき♡今からわたしが主人よ♡」
額に添えた手からミシミシと音がする気もするが、愛を伝えるべきだと言葉にすれば黒く染まった色がサラサラと落ちていく。
「力技ダと!?」
「違うわ、聖なる力よ!!」
「明らかに脅シだロウ!!?」
「違うもん☆聖なる力だもの!」
「魔獣が震えテル震エてる!!」
わたし達の言い合いに、雪脱兎は白くなったり黒くなったりと揺れているのはなんだか可哀想でもあり……、
「そっか。闇に染まればきっと王都の保護対象じゃなくなるのよね! それなら……躊躇いなく食べれるわ」
万物を無駄にしない聖女の笑みを浮かべてあげれば、雪脱兎は 「ビッッ」 そう可愛く鳴くと真っ白に戻り、ユノ先生を残して勢いよく散り散りに飛ぶように消えて行ってしまった。
「ニャタリー……お前、前も食べる事を躊躇ってなかっただろう……」
そんな王子の声は聞こえなかったと、聖の魔力を流した手をパンパンと二つ叩いてから握り締め……、目の前のソレに対峙した。




