8.聖女ちゃん傷つく
「あら?ナタリーさん。白銀の髪の女性は知らない?」
「し、知らないですぅ〜」
普段なら一年生の教室がある一階へと来られないはずの三年生のシャルティエ先輩に声を掛けられ、またもドシャっと冷や汗が背中を流れる。
「ええっと、白銀の髪の子をさがしているのですか?」
さっさと去ろうとも思ったが、アルフに「目上の人に失礼な態度をとるな」と亭主関白に言われたので、逃げるのをやめてなんとか足を踏みとどませる。
「そうなのよ。フランツ様に頼まれて…その子白銀の子を探せと」
微笑み言ってるけどその目にはメラメラと嫉妬の炎が見えてます!!え!?どこの馬鹿が婚約者様に名前も知らない女を探せと命じたの!?悪役令嬢様って言えば、嫉妬に狂ってヒロイン虐めるほど愛情深き人なのに!!!
「心当たりは無いです。先日フランツ様に同じ質問をされまして…その時も」
「フランツ様に?」
「ひッ…ひとり、ではなく、幼馴染と一緒の時でしたけど!!」
声掛けられたと言っただけで、さっきの嫉妬の瞳がこちらに向いた瞬間ヒエェっと思わず背筋を伸ばして、言い訳の様に慌てて、
「男の子!男の子の幼馴染なんですけど!!2人で心当たりがございませんで、それで他の子にも聞いてみたけど、一年生には居ないみたいだねぇって話しまして!!なので一年生には居ないかと思われまして!!」
必死で言えば「そうなの?でもナタリー、落ち着きなさいな」と、何事も無いようにこちらを見て下さった。
「すみません。上級生にはいらっしゃらないのですか?」
「そうねぇ、白銀は珍しい髪色だし、フランツ様には校章で一年生だったと」
妙に一年生に拘るなと疑問を持てば、それに気が付いたのか、シャルティエ様はセーラー服の校章に手を当て、
「ナタリーは知らないのかしら?校章の色が各学年違うのよ。一年生はフォレストグリーン、二年生はアイアンブルー、三年生はボルドーレッド」
優しく説明をしてくれるその声を聞きながら、心で叫ぶ。
知 ら ん が な!!!!
もっと!!くすまず!わかりやすく!!金銀銅とかにしてくれたら気がついたのに!!!!
「それで…一年生には居ないのね?」
「友人にも聞きましたが、居ないと。間違えてたら申し訳ございません」
困った様に笑って言えば、「いいえ聞けて助かったわ」と、優雅に取り巻きさん達を従えて踵を返して去っていった。とりあえずなんか良い匂いする。
「ナタリーってば♡シャルティエ様に何聞かれたの?」
一日の授業が終わって部屋に帰れば、興味津々にクレープに話しかけられた。
「…王子様が白銀の子を探してこいと言ったらしいわ」
「成る程、それで居ないって答えたのね。既に校章チェックされてたのねぇ。なんで外さなかったの?」
当たり前のように聞かれたそれに、涙を流しつつ「知らなかったのよ!」と答えれば、楽しそうに笑われた。
「本当にバレたく無いなら、ナタリー胸に詰め物するか、制服は兎も角靴下を履き替えるとか、見えるところをもっと気をつけた方がいいわよ」
「即座にバレた相手に言われると説得力しかないわね…」
荷物を置いたついでに机に伏せれば、うんうんと可愛く頷かれてしまう。
「てゆーか胸に詰め物ってナニ!?」
「ちょっと人よりも少なめなボリュームをもう少しね」
「うぐぅ!!!!」
記憶のスチルと比べて、些か小ぶりな気もしていたソコは、人生賭けて必死に鍛えて鍛えたお陰であまりお育ちにならなかったのは薄々気が付いていた事実。
「アルフくん、気にして無いといいね」
「ぐふぅ…!!!」
それはフォローではなく追い討ちというのよクレープ!!!




