67.聖女ちゃん、その幸せのお祈り申し上げる
卒業パーティーの会場は入る前から飾り付けられ、それは貴族の学園らしく美しく高級そうになっているが、それでもそこかしこに手作り感も見えることが、なんだか少しは手伝った身としては感慨深いものがある。
そしてその中へと入っていく卒業生の胸元には少しだけ形の歪なものもある花の飾りがつけられている。
「フランツ様はもう入られてしまったかしら?エスコートをして下さるお話しでしたのに……」
そんな会場の前で困ったように微笑むシャルティエ様の横からそっと裏方へと逃げ出そうとすると、ガシリと腕を掴まれた。
「ナタリーさん、どこへお行きになるのかしら?」
「ほら、荷物いっぱいなので裏方へ」
えへっと笑ってその手を離そうとすると、シャルティエ様がパンパンと手をふたつ鳴らせば、黒服の取り巻きさんがどこからともなく現れる。
「ナタリーさん、荷物を彼女へ」
「えっと、わたし、これ、幼馴染の、アルフ、持ってて貰う」
渡したくないと必死になると何故かカタコトになってしまうが言えば、わたしの手にあった荷物は黒服さんに取られてしまった。
「後ほどアルフさんへと渡しておきますので、ナタリーさんは気にせず、イーサック先輩とお会いすれば…………いいんじゃないですか!!」
後半の圧のある言い方は、もしやこのクラスメイトの取り巻きさんはイーサックファンだったのかと、なんか嫉妬を含めた物言いとその見開かれた瞳にわたしは大きく頷くことしかできない。
「えっと、お願いね」
「ワタクシ、卒業パーティーの用事もないので、ちゃぁんと渡しておきますので!!」
圧……圧がすごいと引き攣る笑いを返せばそれも気に入らないとばかりにまた目の奥に怒りが灯る。
「ナタリーさんの荷物を大切に扱って差し上げてね。んっ、もう時間だわ。フランツ様もイーサック様も人気者ですもの。先に入られたのかもしれないわ。代わりに……ナタリーさん、わたくしのエスコートお願い出来ます?」
美しく微笑んで出された手は拒む事などあってはならないとそちらからも圧を感じながら、笑ってその手を取った。
*****
『シャルティエ・ロマンコフ令嬢、ならびにナタリー・フォレスター嬢の入場です』
シャルティエ様と入場したせいで、わたしまで身分不相応な拍手喝采で迎え入れられてしまった。
キャーキャーと、美しい綺麗だと言われるシャルティエ様。
横から見てもわたしよりもスラリと高い身長に、美しい金の髪。必要以上に突き出た胸と、折れてしまいそうな細い腰。ドレスの膨らみに隠されているけど、お尻から足にかけても美しいのは普段の制服姿を見ていればわかること。
それに何より、出会った時より明らかに柔和になったその雰囲気は……、
そんな事を思って見ていれば、シャルティエ様がこちらを向き微笑みをくれる。
「どうなさったの?ナタリーさん」
「シャルティエ様、最近一段とお綺麗だなって」
素直に口に出して笑えば心から嬉しそうな笑みを浮かべて、でもどこか照れくさそうに笑ってくれる。
「ふふふっ、わたくしが綺麗だといってくれるなら、それはきっと……」
「フランツ王子のおかげですね」
恋する乙女が綺麗になるのはやっぱりそれしかないと……、あの聖女を幼女扱いしてきやがっ……いや、幼女扱いしながらも、心配してきたのは結局本質はいいやつなんだろうと、少しだけ顔は引き攣るけど、ほどほどの納得をして頷いた時、
「おっ!ニャタリー!元気だったか?なんだ、可愛い格好だな!」
「まず褒めるところは他にありますよね!」
「…………あれだな。化粧してて、可愛いな!」
「わたしじゃないです!!見て下さい、このシャルティエ様の美しく高貴な姿を!!」
まったくわかってないと思わず言えば、フランツ王子は少し驚いたように目を開いて、
「ニャタリー、今日は元気だな。実家にいる時みたいだ」
「わたしのことはいいんですってば!」
シャルティエ様から怒気の出る前に見てあげてと、必死でシャルティエ様に王子の視線を移動させるために目や手、それになにかと誘導するがわたしから話題が離れない。
「わたしはいいって……、ニャタリー、友人であるお前がシャルティエに着飾ってもらったんだろう?シャルティエは楽しそうに話していたぞ?」
「……ん?」
いつもの怒気が出ないとシャルティエ様を振り向けば、嬉しそうな笑みを浮かべてわたしの両肩へと優しく手を乗せ、
「そうなんですのフランツ様。ナタリーさん可愛いでございましょう?ふふふっ、いつもナタリーさんがわたくしのこと褒めてくれるから、ナタリーさんもこうして褒められるくらい可愛くしたかったので、わたくし嬉しいですわ」
「それにナタリー、こう言うのもアレだが……シャルティエは褒められ慣れるほどに……、その……美人だし、綺麗なのは当たり前だろう」
「まぁ……!」
照れ臭そうに頬を掻いて告げる王子に、シャルティエ様も頬を染めて恥ずかしそうに照れていらっしゃる。
「あれ?」
「どうした、ニャタリー?」
頭をポンポンと撫でられ、そのままシャルティエ様を見れば、お怒りのムードどころか優しく嬉しそうな微笑みをしていて……、
「あれ???相思相愛???」
キョトン顔で告げれば赤髪王子は咳き込み、シャルティエ様は両手を頬に当てて真っ赤になられる。
「ニャッ、ニャタリー、あれだぞ! シャルティエとは婚約者同士だ。そのような言い方は、なんだ…その……」
「照れてしまいますわ」
明らかに動揺の隠せない2人に驚きながらも、いつの間にか上手く行っていたならそれは何よりと、スカートを摘みカーテシーをして、
「このナタリー・フォレスター、お二人の未来に幸多き未来に、そして築かれる王国の明るき将来をお祈り申し上げます」
そう言ってわたしは満面の笑みで微笑むと、2人は照れ臭そうに視線を合わせ、寄り添い素敵な笑顔で微笑みを返してくれた。




