61.聖女ちゃん美味しく召し上がる
「お肉にくにくお肉はお憎いほどにお肉〜〜♪」
「おい聖女。何をしている?」
羽蟻の魔獣を追って森の奥まで来て、思いのほか久々にアッサリと倒せた後にそれを浄化をすれば、木の影に雪脱兎を発見。
雪脱兎は大きな耳にふわふわの白い毛をしてそのオデコに小さな角を生やしてはいるが、とっても可愛い見た目に反して牙は鋭い肉食系。
脱兎と言うだけあって逃げ足がとんでもなく早いが美味い。そして角の生えたウサギだけに兎に角美味しい。
ジュルリと出たヨダレに雪脱兎は何かを感じ取ったのか踵を返して逃げ出したのを追い求め捕まえ只今じっくり丸焼き中。
そんな時に現れたのが赤髪王子。卒業式も近いと言うのに学園から魔獣を追ってきていたのだろう。
「あげないわよ?」
「いや……そうじゃなくてな。お前は……聖女だろう?」
「一応」
「肉……食べるのか」
「食べます」
「……そうか。一応聞くが、お前は本物か?」
「そうね。さっき学園に出た魔獣を浄化しましたし本物かと」
火にかけた雪脱兎の丸焼きを回して、胸元から塩胡椒をだして振れば、フランツ王子は天を仰ぐ。
「……聖女よ。いかにゆとりがあるしまい易い形状とはいえ、そこにしまうな」
「大きなお世話です」
小さな頃から父親に手ぶらで山に置かれた過去から、下着の中に隠せばさすがにノータッチで置いていってくれたので、山での塩分保持の為にと調味料を入れ始め……気が付けばクセのように常に入れている。
「雪脱兎は栄養価も高く貴重な食料です。しかもとても美味しい」
「……苦労してきたのか」
「まぁ……多分?」
山での修行というか親からのあれは一般的には苦労と言うだろうと、火の通った雪脱兎の足をもいで齧れば、フランツ王子は目に手を当てて何かを堪えてる様子。でもわかる。雪脱兎は焼くといい匂いするもんね。仕方ない、少しくらい分けてあげてもいいかもしれない。
「聖女……お前に苦労はさせない!!!俺が嫁に、王太子妃にさせてやろう!!」
「なっ!?断固拒否しますけど?!!!」
「何故だ!?」
「なりたくないからよ!!」
「何故だ!!?」
「堂々巡り!!」
足の一本くらい上げようと引きちぎっていれば、何がどうしてそうなったのか、余計な結論に辿り着いているとハッキリと否定しておく。
「丁重に……いや、もうホントハッキリとお断りします。……てゆーか…………本当に大切な人にちゃんと向き合わないと……捨てられるのは……あなたの方かも……知れないわよ。ご馳走様。ではさようなら」
「……聖女よ。よく合間にそれだけ食べながら普通に会話ができるな」
挨拶もしたし食べ終わったしと、火を消し、砂をかけて、肉体強化魔法も掛けて、その場から木々を飛び去っていく。
「それと聖女よ。王都では雪脱兎は保護生物だ……」
そんなこともはさっさと去ったわたしには聞こえなかった。




