59.聖女ちゃん誘われる?
カロッコウとの一晩を過ごし、寮に帰ればクレープに泣かれてしまい、慌てに慌てた翌日の登校日。
「ナタリーくん、トウドくんは……君の弟くんは卒業式は来られるのかな?」
「わたしの卒業式じゃないし来ないですね!」
「お誘いなんていうのは……」
「春休みになったら即帰る約束してるので」
授業も終わり、学園を出たところで掛けられたブルーノ様のお申し出を満面の笑みで躱し頭を下げて去っていけば、何か言いたげなブルーノ様には申し訳ないけど、気がつかないふりをさせていただく。
わたしでさえ去年の春からトウドに会っていないと、あの我が弟ながらわたしに似てる気もする可愛い笑顔を思い出す。
「家族に会いたいなぁ……。春休みは……帰れるよね?」
夏休みも冬休みも魔獣の討伐があるかもしれないと帰れずに、一人寮に残った思い出に眉尻が下がる。
「先輩達も卒業だものね……」
ありがたい事にイベントとなる卒業パーティーのお誘いも特に無く、至極平和な……平和?いや、とりあえずは無事に一年をもう少しで過ごせると願いバッグから片手を離して自分の拳を見る。
「魔獣ってなんだろ……」
そりゃ魔獣っていうくらいなんだから、魔の獣なのだろうけど、発生もまちまち、種によって大量の時もあれば、個々の時もある。
「どこかで発生してる?」
とはいえ思い当たる節もなく、少し疲れた身体が無意識に揺れた。
「ナタリー大丈夫?」
支えられたその腕は、思ってたよりも力強くて揺らいだはずの身体はビュンッと元の位置へと戻る。
「アルフ!!ごめんね!」
「ナタリーが貧血?珍しいね」
「お昼ご飯が足りなかったかな!?」
えへへと笑えば、眉尻が下がって「無理しちゃ駄目だよ」と心配そうに言ってくれる。
「大丈夫!!わたしは常に元気だよ! アルフが一番知ってるでしょ?」
熱くなる頬に気付かないふりをして元気アピールをすれば、「そうだね」なんて言って笑ってくれる。
「えへへ、あっ・アルフは元気?」
「うん。元気だよ」
「あああああのさ。卒業式とかなんとか誘われてたりしたりして?」
「うん」
「うん!!!??」
一応大丈夫かと思いながらもそれとなく探りを入れたら、まさかの返事に声が大きくなる。
「裏方の手伝いだってさ。ナタリーも一緒にやってくれる?」
「はい喜んで!!アルフの代わりに力仕事でもなんでも頑張ります!!」
「………君はさ………」
呆れた様な責める様な視線に「ん?」と返せば、「……なんでもない」と返されてしまった。そして会話のキャッチボールが終了。あれぇ?!
「とりあえず裏方の仕事だから、華やかなことは無いから、ドレスとか着ないでいいから、ナタリーは当日、裏方頑張ってね」
「うん?」
なんか変に強調されてるような気がしながらも、その違和感の答えが見つからずに頷けば、手を振ってアルフは去っていく。
「まぁいいか。裏方だもん」
「よくないわよ〜」
いつの間にか背後を取られていたと、飛ぶ様に距離を取れば困った様にクレープが立っていた。
「ななななにが?」
「ナタリー……ちょっともう少し、視野とか読解力を広げた方がいいよぉ?」
「確かに……クレープに背後取られるなんて……」
「そこじゃないのよねぇ〜」
よくわからないと首を傾げれば、クレープは眉尻を下げながら、
「それでもナタリーはそのままでいい気がしてきた」
と笑顔を向けてくれた。
「うん? とりあえず裏方頑張るね!!」
ニッコリと笑みを返せば、「そうだね!そのいきだよ!」と、どのいきかなと思える返しに、やっぱりよくわからないとこっそりと首を傾げた
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そして翌朝。
「ニャタリー、卒業式だが……」
「はいっ頑張って盛大に送り出させて貰いますね!」
「来るのか!?」
「はい!!」
これが王子との会話。
「ナタリーくん、君は卒業式は……」
「大丈夫です。ちゃんと出席しますよ!」
「そうか。彼もついに声を掛けられたのか……。それは良かった。当日楽しみにしているよ」
「? はい!頑張ります!」
これが昼のブルーノ様との会話。
「ナタリー……卒業式に参加する……というのは本当か??」
「はいっ。声を掛けていただけたので、二つ返事で」
学園帰りにイーサック先輩から言われたときには、もう慣れたものだと笑顔で答えれば、珍しくもあきらかに肩の力が抜けて去っていった。
「………あっちもあっちでお気の毒様……」
「何か言った?クレープ」
「なんでもない」
裏方だから真っ黒の服とか買った方がいいかなとか考えながら、わたしはクレープと共に寮へと帰っていった。




