6.聖女ちゃん即バレる
「トォッッッ!!!」
入学式から一週間。
毎日コソコソと学園の構造を理解した甲斐があり、その日の放課後校舎の裏手で新たな黒い魔力の集合体が形になったところで一度回転蹴りを繰り出しブッ飛ばせば、
「グギャギャギャギャギャ!!!!」
集合体は飛ばされながら、空気が震える不快な鳴き声を上げた。
「ヤダヤダヤダヤダ!!ちょっと静かにやられなさいよ!!」
ミミズの様な姿のくせに3mを超える大振りなその鳴き声を上げる魔物へと、左右の拳を格闘家の如く連打すれば「ギャッギャッギャッギャ」と、やはり食うたびに音を出したがその音は少しずつ弱っていき、今だ!と、白魔力の力で囲い込み収縮していけば、やはり手に伝わるベチョォっとした嫌ぁぁぁぁな感覚に涙目になりながら、パンッと手を合わせてそれは輝き消えていった…。
「終わったぁ〜…」
一息つきたいところだけれど、ギャギャギャと騒がれた為にどこぞのフランツ・ベルティエ王子と側近のインテリ眼鏡がやって来てしまった…。
「おい!入学式だけでなくまたお前か!!名を名乗れ!」
『はい!私の名前は〜』なんて言う奴がこんな怪しげな仮面をつけてる訳ないじゃない!
心で悪態を吐きながら無言で背を向け飛び出せば、今いた場所へ火魔法が落ちた。
逃げるには悪手となる程度の地味に撥ねた火傷を即座に治せば、王子様はニヤリと笑って、
「回復魔法か…お前、本当に聖女なのだな」
舌打ちはなんとか堪えて仮面下から睨みを効かせれば、インテリ眼鏡が王子の前に立ち、眼鏡を持ち上げて諭す様に話しかけられる。
「貴女が言う通りの聖女だとは今の回復能力を見て分かりましたが、なぜ一人で?是非我々と協力しませんか?悪い様には致しません」
爽やかに嘘臭く微笑むそれに「乗る気は無い」と声を変えながらハッキリ答える。
だって悪い様にするよね!?そっちは悪くなくてもこっちは悪いよね!!?お嫁に行けなくなっちゃうやつだよね!?
「何故だ!!聖女ならば王家に、国民の為に協力すべきだろう」
その言葉にはただただ白い目を向けて答えない。
「俺を誰か分かっていての狼藉か!」
「そうね…知ってるわ。自分で何をするではなく、その膨大な魔力で民を護る訳でなく…、ワタクシ聖女の力を当てにする坊ちゃん王子ね」
「なっ…!!!」
タンッ…と、身体強化した身で空を舞い、彼等の視界から紛れると、
「坊やは可愛い婚約者様を大切に、己の力で上り詰めることね…!!」
クスクスと笑って消えて行けば、彼にとって後輩ではなく、先輩だと思われる風の物言いで去った事で年齢が分からなくさせると、ポニーテールを翻し木々の隙間へと消えた。
***
「おい。ニャタリーだったか?お前の学年に白銀の髪の女生徒が居ないか?」
一年の教室の前を選択授業で離れていたマイハニーアルフを向かって駆け出そうとすれば、横から現れた俺様王子に声を掛けられガチリと固まる。
「聞いているのか?」
コクコクと頷けばアルフがやってきて頭を下げて挨拶をするのに習って慌てて私も頭を下げる。
「ナタリーに何か?」
「ナタリー?ニャタリーではないのか?」
「はい。彼女はナタリー・フォレスター。僕の幼馴染です」
至極丁寧に私の名前を言っちゃってくれるアルフに冷や汗を書けば、冷たい目を此方に向ける王子様。
「すみません。あの時は緊張して噛んじゃいました」
改めて頭を下げてチラッとそちらを見れば、「それは仕方ないな」などと、何故か満足気な俺様殿下。堪えろ私の舌。舌打ちするなよ!!
「それで、ナタリー。白銀の女を知らないか?」
「入学したばかりでまだあまり…知りません。えっと、それは一年生なんですか?」
「あぁそうだ」
間違いないと頷く王子様に背中にドシャリと汗をかきながら「アルフ、知ってる?」なんて知らないふりを決め込んで聞けば、
「申し訳ないですが心当たりが有りません。誰かに聞いてみますか?」
180をゆうに超えそうな王子を見上げながら、至極真面目な顔で答えるアルフ。やばいカッコいい。カッコいいのに可愛いとか犯罪!!ナタリー有形文化財に指定します!!
「いや、知らないなら仕方ない。誰かまた居たなら教えてくれ。俺は…」
「三年生のフランツ王子ですね。存じ上げております。申し遅れました、僕はアルフ・キャンベルと申します。また何か有りましたらお申し付け下さい」
丁寧なその対応に王子も頷くと、
「アルフとナタリーか、覚えておく。ではわかれば教えてくれ」
なんだか偉そうに去っていくと、アルフも頭を下げて見送り見えなくなればスタスタと教室へと戻る。
「ア、アルフなんだか凄い丁寧だったね」
「当たり前でしょう?王子だよ。僕らのしがない領地なんて彼に無礼な態度を取ればあっという間に取り潰されちゃうことだってあるでしょう?」
「いや、ほら、学生のウチは平等だって学園の…」
「ナタリー」
話す最中に真面目な顔で此方を見る。不意打ちキュン。
「学生のうちは許されるかもしれないけど、王子は三年生。来年には卒業されるならもう学園のルールは通じないからね。わかってるとは思うけど、絶対目上の人に失礼な態度…それこそ名前間違えて覚えられるなんてことされないようにね!」
「気をつけます!!……はい凄く」
「ナタリー…なんで目線逸らすの?」
「逸らしてないもん」
「ナタリーは嘘つくと口を尖らす癖あるの知ってる?」
知らなかった癖に慌てて唇を押さえて、
「え!?うそ!?」
「うん、嘘だよ。」
そう言ってアルフは惚れ直すほど可愛い顔で悪戯っぽく笑った。