57.聖女ちゃん攫われる
「ニャタリー!お前誰かに卒業式誘われたか?」
「………いや、誘われているわけないじゃないですか?」
卒業式まであとひと月の頃、学園の廊下でばったり会った赤髪王子が言う言葉に、誰に誘われるというのかとなんとか少し引き攣る笑顔のまま答えれば、フランツ王子はなんとも納得いかない様に腕を組み「まったく、いつまでグズグズと……」とか小さな声で呟いているのは、彼が珍しく1年生の階へとおりていることで騒つく生徒達の声で聞こえない。
「フランツ様はシャルティエ様をお誘いするのですよね?」
当たり前の確認をして難なく終わらせて去ろうとすれば、フランツ王子は目をパッと輝かせ、
「……そうか!良いことを思いついたぞ!シャルティエはそれでなくとも三年だ。俺が誘わずとも来るからな。ニャタリー、俺の招待状はお前に分けてやろう!!」
「私を思っての御心遣いでございましょうが、大変丁重に厳重に重きを持ってなんかすべからくお断りさせて頂きます」
とんでもない申し出に深々と頭を下げて断れば、「何故だ?俺の招待状だぞ?」と、不思議そうに疑問をぶつけられるが、それよりも後ろの角にでもいるであろうシャルティエ様からの殺気の方が怖くて怖くてそれどころではない。気づいて鈍感王子!
「フランツ様は、さほど話したことのないわたくしにまで気を遣ってくださるなんっっっと慈悲深いお方なのでございましょうか!なんとまぁ素晴らしい!でもきっとお優しいシャルティエ様はチケットが無くともきっと寛大な御心でお赦し下さることをご考慮なさってだとは思いますが、是非そのお優しいシャルティエ様こそが、そのフランツ王子の招待状に相応しきお方で御座います。どうぞどうぞ、わたくしなんて一般市民にお気遣いなく、日々愛を育まれて素敵な人生を歩まれてくださいませ!では!!」
我ながら必死過ぎて何を言ったかよくわからないけど、殺気が薄れたとわたしは頭を下げるとそのままフランツ王子の横を抜けて角を曲がりダッシュで逃げだした。
「アホか!!あんな大衆の前で良い見せ物だわ!」
それよりもシャルティエ様が恨みのあまりに闇落ちでもされる方が魔獣を相手にするより怖いと、震える身体のまま勢いよくトイレに入り髪を止め魔力を使い3階のトイレの小窓から飛び出して……、先程フランツ王子と話してる時に窓から見えていた昼間から現れた、開いた羽は4メートルはありそうな蜻蛉型魔獣の背中に踵落としを喰らわした。
「今日は……アンタ達が可愛く見えるわ」
あの殺気のあとでは魔獣の魔なんぞ屁でもないと蹴り落とした勢いのまま地面へと向かって落下する。
(このまま地面に叩きつければ……)
多分その油断が悪かったのだろう。
止まっていた羽根が勢いよく動き出し、まさに蜻蛉返しとばかりにわたしの足元から抜けると空中を一回転して、空中で体制を崩したわたしをその6本の足で絡めとり、
「イィヤァァァァァァッ!!なんか虫の脚の感触嫌ぁぁぁぁ〜〜〜!!」
そんなわたしの叫びは無視されながら、蜻蛉魔獣はそのまま森の奥へと向かって飛んでいった。




