46.聖女ちゃん、聖女ちゃんと呼ばれる
これまで浄化は出来るだけして、聖杯も夜中にコッソリだけどちゃんと満たしてる。
なのに……なんで……ーーーー!!?
「おい!聖女!!貴様ちゃんとしているのか!?」
「してるわよ!」
〝 ギイイイイイィィン 〟
そう夜の学園で鳴り響くは、王子の剣とクワガタ魔獣のハサミが擦り合わさる音。
「……グッッ!!」
魔獣に力負けしたその王子の身には、わたしの強化魔法がかけられているのに飛ばされ、衝撃を逃すために回転して飛ばされてから靴底がすり減りそうになる程に滑りつつ力をいれてなんとか踏みとどまっていた。
「聖女、手を抜くな!!」
「抜いてないって言ってるでしょ……!!」
互いに魔獣から目を離さずに言葉の応酬は、わたしが以前吹っ飛ばされて偽聖女に助けられるほどピンチになってから、R18展開にならない為には素直に強化魔法を三原色トリオに使ったらいいのでは!? そんな基本のことに気が付いて使ってみればまぁ便利。
男主人公になる人達は流石に力の使い方はわかっていて、強化すれば有難いことにさっさと倒してくれるようになった……のも、秋の内だけ。
足元から冷えてきた時期から魔獣の強さは一気に増して、共闘してギリギリ勝てる程度になってきた。
この寒さに冬眠でもしてればいいものを、今回のクワガタ魔獣も最近の例に漏れず強さを増している。
王子も頬についた傷から流れる血を手の甲で拭いて、真剣な顔を魔獣へと向ける。
「物は相談だがな聖女。俺と契りを……」
「完全無欠にお断りよ!!」
肉体強化を己にかけて、王子の言葉を無視して地を蹴り180度脚を振り上げクワガタの顎を蹴り上げれて、その大きな身体がふわりと浮いた瞬間、
「今よ!!!」
そう声を張り上げれば王子の剣が魔獣の腹に突き刺さり、その場へ断末魔が響き渡るが、まだ空中にいるわたしと魔獣の目が合えば、最後の力とばかりにそのハサミがわたしの身を挟み込んだ!
「……って、そうは……っ、いかないってのよ!!!」
ギリギリ両手で鋏を掴んで無理矢理に力で圧し開けて、ある程度の隙間が出来たところで重力に従い下へと抜け落ちる。
「聖女…!」
「この馬鹿……ッ!!突き刺さしたなら、左右どっちかに凪いで切り落としなさいよ……!」
ギリギリのバランスを保ち両手両足で地面に着いて、ハサミの突起で傷だらけの身体を癒しながら文句を言えば、思うところでもあるのかそれ以上は何も言ってこない。
「………聖女は……まだ幼女だったか……?」
「はぁ!?」
流石に訳がわからないとキレて返せば、王子がジッと見てるはわたしの姿。
その先を辿れば先程のハサミの突起で服が千切れており、セーラー服は破けていて胸元が切れてブラが見え、スカートもボロボロになって……お気に入りのボーダーのパンツまでもが見えている。
「……ッッ!!」
顔を赤くして慌てて手をクロスして胸元を隠し、スカートが大きく破れているのは後ろだと、王子に背中を向けて………………イヤ待テ『幼女』??
何を言われたのか、どういう意味なのかと硬直していれば、慌てたように自分の上着を投げて渡してくれる。
「す、すまん!!!幼女だとは知らずに……俺は、なんという事を考えていたのか……、言葉こそしっかりしていたから、さほど歳は変わらないのかと……そうか……俺に憧れたのも歳上の男への憧れとやつなのかもしれんが、いやそのような気持ちは嬉しいし、わからないでもないが……流石その歳ではまだ……その、契約の契りや何かと意味がわからなかったのか……。そうか俺が失念していた。すまなかった!!」
一国の王子とは思えぬほど腰を折る綺麗なお詫びの姿勢と、その上着を羽織るだけ羽織ったところで固まるわたし。
そしてわたしの後ろからは、
「クワァァァァァァァァ!!!!」
もう一度ハサミを振り上げ、改めてわたしをハサミにかかるクワガタ魔獣の左右からくるハサミを両手を広げて掴めば、魔獣の動きがピタリと止まる。
「ク……ワァ??」
わたしの後ろで首でも傾げそうな声と共に、そのハサミの抑えた部分にピシリとヒビが入る音がする。
「幼女、逃げろっ! 幼いお前が無理をするとこはない。こういうことは、大人の、お兄さん達に任せるんだ! さぁ来い魔獣!! そんな幼い少女を盾にして情けなくはないのか!? 王太子である俺が存分に相手にしてやろう!!!」
剣を構えてカッコいいこと言ってる風の王子と、両手で掴んだ魔獣の震えを感じる。
「お前も幼女であるわたしよりも、あの大見栄に恐れをなしたのかしら……?」
掴んだままギロリと後ろを睨めば、焦ったような魔獣の泳ぐ視線。
「幼女! その服では、まだ膨らむ前の乳房が下着で隠されているとはいえ、見えてしまうぞ!」
ブレザーの上着は身長差からお尻まですっぽり隠れるが、確かに前は開いている。
「ぉ……」
小さなわたしの声に王子は慌てたように、
「そうか! おうじ様が助けてあげるぞ!!」
タンっと踏み出したその王子が視界に入れば、無意識にも自分へと肉体強化魔法を重ねがけ、口からは無意識にも、
「おんっぎゃぁ」
無意識にも言葉を発し、無意識にもクワガタをそのまま両手で担ぎ上げ、そのまま背負い、無意識に王子のその身へと叩きつけてしまった……!!無意識怖い!!!
「ごっ、ごめんなさい! とりあえず浄化!!!!」
胸の前で 〝パンッッ〟 と手を合わせれば、魔獣の下で剣を立てたことで出来た隙間に助けられた王子が居た。
「……チッ」
「幼女!? 舌打ちしなかったか!?」
「幼女じゃなくて聖女だって言ってるでしょうが!!!」
思わず近場の丸太を投げつければアッサリと躱されて、立派な赤い前髪をかき上げながら、
「そうだな! 幼女でも聖女は聖女だ。うん、無理をするなよ聖女ちゃん」
そういや前に偽聖女にもそう呼ばれたと……、あの時は不甲斐ない戦いを見て言われたのかと思ったが、もしやそういう意味だったのかと、2個目の丸太を王子にクリーンヒットさせてからその場を去った。
「もしそういう意味だったら……偽聖女、絶対許さん!!!」
必要以上にした肉体強化魔法を感じながら、明日は筋肉痛だとかどうでもよくて、力の入る足でいつもより速いスピードで、わたしは林の中を駆け抜けていった。




