44.聖女ちゃん競争する
ーーーカサカサと足元で鳴るのは紅い紅葉なり。
上には 赤、黄色、緑、これぞ紅葉。
なんかすっごい綺麗だね……ーーー
「ナタリー……それは………詩……なのかなぁ?」
「あっ、口に出てた?えへへ〜、恥ずかしいけどクレープならいいかぁ」
クレープより先に学園までの道を歩んでいれば、わたしの心のポエムが口に出ていたらしく追いつかれて聞かれてしまったらしい。
照れながら笑えば、そのクレープの後ろからダリアンが頭を抱えているのに気がついた。
「おっはよぉダリアンもいたんだね! あれ?絶不調??」
「絶好調に充てられて絶不調になったとこだけど、比較的好調ではあるはずよ……」
「変な言い方するね?」
よくわからないダリアンの体調に困った笑顔を返せば、ナタリーがダリアンの横に立ち、
「あれも素直な良いところなのよ?」
そんな助言をしている。わたしの知らない何かがあったのかと寂しいが、わたしだって全てを2人に話してる訳ではないと、仕方ないと前へと歩み出そうとすると、
「いい……詩だった……と、思う」
そんな言葉と共に林道脇から出てきたのは、
「イーサック先輩!? そんなとこからどうしたんですか?」
林…いや、森の中から突然現れた先輩は、制服ではない随分とシンプルな服についた葉っぱをはたき落としながらこちらへと出てくる。
「心配……してくれてるのか…?」
「いえ! 特には!」
「いえいえ!大丈夫ですか!?あっ、あたしはナタリーの友達のダリアンっていいまぁす♡」
気を持たせない為にハッキリと言っておけば、ダリアンが慌てた様子でわたしの腕を掴んでニコニコと告げる。
「え?ダリアン知り合いだったの!?」
「……知り合いになりたいからいってるの!」
わたしの質問に笑顔のまま小さな声で答えてくれて、確かに今ダリアンは自己紹介をしていたと納得して頷く。そうだった、先輩はこれでもハイスペック男子でした。
「でもとりあえずわたしは心配してません!」
「何故念を押すのナタリー…」
もう一度ハッキリ言えば、ダリアンがジトっとコチラをみて、
「そうか……オレの実力を信じてくれてるのか……」
「こっちはこっちでなんかポジティブだし!」
イーサック先輩が呟けば、ダリアンはちゃんと聞き取りツッコミをいれる。
「強くなる為に頑張ってください!」
「……ありがとう……」
最後励ませばダリアンがなんとも言えない顔をわたし達を指差しながら視線をクレープに向ければ、クレープは笑顔で首を振っているけど、どういう意味だろう?
「では、わたしは先に行きますね!」
とりあえず長居は無用と挨拶をして学園へと足を向ければ、イーサック先輩も横に並ぶ。
「え?」
「……送る」
ぽそりと呟かれたそれに勢いよく遠慮しますと首を振る。
「だって先輩、制服じゃないし、寮に戻るのでは!?」
「いや……学園に制服も…ある……」
スタスタと歩き出せば、同じペースでついてくる。
「そうなんですか!? でもホラ、シャワーも入った方がいいじゃないですか!?」
「シャワー……」
何故かちょっと顔が赤くなった気もするが、それは多分走るペースを上げているから。
「無理なさらないで下さい。怪我でもしてるでしょう!?」
「……心配には及ばない。かすり傷だ」
更にペースをあげるがシレッと何故かついてくる。
「かすり傷でも手当てした方が!」
「………男はそんなこと気にしない」
寮からさほど離れてない学園は全力疾走すればあっという間で。
「先輩……速いですね…はぁ…はぁ…」
「ナタリー……一緒に登校出来て良かった」
「そ…そうですか?」
話しながらのせいと肉体強化も使わない運動に、つい息切れしてしまったのを深呼吸で整えていれば、目の前へスッと手を出され、健闘を讃える握手だとその手を取る。
「お疲れ様でした。それでもかすり傷でもバイ菌があったら大変ですから、治療した方がいいですよ?」
「治して……くれるのか?」
その言葉はまさか聖女だと気が付かれかけてるのかと一瞬全身に力が入るが、そんな訳で無いと笑顔を返す。
「学園ならユノ先生でしょう?気をつけて行ってきて下さいね」
握手の手は思いのほか優しくて、その手を離しユノ先生の居る回復室を教えてあげると、わたしは改めて満面の笑みで学園へと入っていった。
そしてわたしは改めて学園の先輩であるイーサック先輩へと回復室を教えた事を馬鹿だと気が付いたが、窓から見れば言われた通りにちゃんと向かう先輩につい微笑みを浮かべた。
*****
回復室では珍しくイーサックが現れたことに驚いたユノだが、その怪我を見て納得をし、治療をはじめた。
「イーサックくん、鍛えるのもいいけど……程々にね。手は弓使いの君には人一倍大切なものでしょう?ギリギリ折れてはいないけど……腫れるほどに修行するなんて」
「これは……」
治療を施され、念の為だと巻かれる包帯を見てイーサックが呟くが、それ以上言葉の続く様子は無いと諦めて、ユノがメモ書き程度のカルテに記入する。
「まさかキミがその大切な手を誰かに触らせる事もないでしょう? ま・とりあえず、無理はしないでね……としか先生からは言えないかな?」
治療が終われば、微笑むユノにお辞儀すらもする事もなく扉を開けて出て行くその姿が見えなくなって、
「せめて自分から話しかけたい相手でも出来たら……、あの口下手と妙にネガティブなところも良くなるのかなぁ」
そんな教師としての呟きはイーサックにも、それに一年の廊下で鼻唄まがいなものを奏でながら楽しそうに歩き、イーサックの大切な手に傷をおわせた事にも気が付かぬナタリーの知るところではなかった。




