43.聖女ちゃん誤解を解く
「なんで……謝るの?」
修行の証を見せてくるその姿に涙を堪えて聞けば、ダリアンは情けなく笑って、
「チャームポイント……、女の子なら手芸が得意とか、料理が得意とか言えばいいって言ったのに、あたし実は全然出来なくて」
「…………ん? え、なんのはなし?」
目をまん丸にして聞き返せば、ダリアンは顔を抑えて叫ぶ様に勢いよく言葉を続ける。
「だーーかーーらーー! 前にナタリーにチャームポイントの話で偉そうなこと言ったのに、実はあたしこそお裁縫もお料理も出来ないのっ! そう考えたら野生飯のナタリーの方がまだ料理とか得意なんじゃないかと思えてきて……、それならナタリーより上手くなってみようと思ったのに、全ッッ然これが上達しなくって! でもでも偉そうなこと言った手前、こんな傷だらけの手見られたら言い訳も見つかんないし……避けててごめん!!」
「………え???」
その手を改めて見て見れば、確かに針を刺した様な指先の傷に、真っ直ぐな刃物の傷で……、腕や脚には傷一つない。
「………いや、ナタリー?なんでそんな全身見て回るのよ?あとスカートは離してッ下ろしてッ!?」
いつの間にか傷を確認しようと傷ダリアンの周りをぐるぐる周り、足元に傷がないかとか思ってスカートも少し捲し上げていた事に手を離してお詫びする。
「え?? ……ソンナコト??」
意味が分からず思わず出た言葉に、ダリアンから頬に手を伸ばされて無意識にその手を掴む。
「頬くらい摘ませなさいよっ!」
「だってダリアンはそんな事しなくてもいいとこいっぱいあるじゃない」
なんだかご立腹なダリアンが不思議で思わず思ったことを伝えてみる。
「だってダリアンは社交的だし、友達とか知り合いもすっごく多いし、お洒落だし、ソバカスも似合うし、それをなんでか気にしてる姿もかわいいし、お料理なんか出来なくてもダンスはいっぱい練習してきたのがわかるほど綺麗だし、それにわたしに最初話しかけてくれたのも嬉しかったし、あと……」
「あーーもうわかったわよぉ!!」
もっといっぱい良いところはあると、片手はダリアンの手を掴んだままに逆の手で指折り良いところを数えて行けば、参ったとばかりに頬の赤いダリアンが声を上げた。
「何よりこうして自分の苦手な事も聞いたらちゃんと言ってくれて、こうしてまた仲良くしてくれようとするのが、すっっごく嬉しい!」
えへっと笑って言えば、もう一方の手で頬をつねられてしまった。素早い!やはり偽聖女なのかもしれない!?
「そりゃちょっと避けてただけで、こんな泣きそうな友達ほって置けないでしょ!? ナタリーこそなんでこんな追ってきてひと気のないところで聞いてくるのよ。学園で聞いてくれたらもっと濁せて誤魔化せてたのに!」
「それは……」
ダリアンが偽聖女かと思って…などと言えるわけもなく言い訳を考えていれば、ジトーーーッと冷たい視線を送られる。
「ナタリーこそなんか隠してない?」
「隠してないよぉ?全然まったくこれっぽっちも明朗会計!?」
「嘘下手か!!」
両手をブンブンと左右に振りながら、少しは揺れてしまった視線は仕方ないと必死に潔癖をアピールすれば、痛いところを突かれてしまった。
「てゆーかさ……ナタリーこそ怪我はないの?」
「なんで?」
ダリアンと違って傷のない手を見せて安心させれば、そうじゃないと怒られた。
「あんな高いところから落ちてきたんでしょ!?」
「あんな高い木!?」
ダリアンに指刺された、たった3m程度の場所に驚けば、「たったじゃないから!!」と驚かれる。
「そ、そうなの?王都っ子はもしかして山登り木登り岩壁登りとか全然しないのかな?……そっか場所がないのか……」
「……しないから。どこの誰でもしないから」
呆れてるのかなんとも言えない脱力感で伝えられた言葉に驚いて……、
「アルフもこれくらいは出来るし、普通なのかと思ってた……」
「……野生児の保護者は、あんな可愛い顔して隠れ野生児だったのね……」
共にお父様に引き連れられて行った修行を思い出して言えばダリアンが呟くのにブンブンと首を振る。
「違うよ〜アルフはなんていうか……インテリ系だよ」
インテリ系と言ったことで、思わず眼鏡アルフを想像すれば……すっごい似合うとついついニヤける。
「そうね。ナタリーに比べれば誰しもインテリ系ね」
遠い目をして呟くダリアンの声は、眼鏡アルフの妄想に忙しかったわたしの耳には入って来なかったけど、そのあと久々にダリアンと寮まで帰って……、一人置いて行かれたとぷんぷんクレープに怒られて、それでもクレープは美味しいお茶を淹れてくれて、
「仲直り出来て良かったね」
そう笑ってくれたのを、ダリアンと2人でなんだか照れくさくなって笑ってしまった。




