41.聖女ちゃん思い出に違和感を感じる
アルフと買い物中、楽しくてずっとわたしが喋ってしまう。
「これどうかな?」
「ん・ねぇ、これも可愛いと思わない?」
「あー、わたしが赤ちゃんならコレ絶対喜ぶと思う〜」
「えへへ〜、あっ⭐︎これも可愛いアルフはどう思う?」
そう言いながら、今はもう何軒目かわからないお店で、すっごく可愛い灰色の謎の地球外生命体?とやらが描かれた大人用と子供用のバッグを見つけて満面の笑みでアルフに見せたら、流石に疲れたのか遠い目をしていた。
「あ・アルフごめんね…? ちょっと休もうか?」
「いや、疲れたのかな? うん、疲れたのかもしれないけど、男の僕よりナタリーが選んだ方がいいって思った選択肢が間違えてた気が流石にしてきた」
言ってる意味がわからないと、首を傾げて思い出す。
……1店舗目の、ものすんごいリアルなレッドベアの描かれたよだれかけも可愛かったし、2店舗目にはそのレッドベアの胸の部分が2色の赤の刺繍で血を表現されてるランチョンマットは、赤ちゃんには流石に伝わらないし少し大人向けのデザインだと諦めて、その次はお料理が趣味だという先生へ、トガリシャークの鍋つかみはなかなかリアルに出来ていて、対決した日を思い出し、その喉仏こそ弱点だとアルフに教えてあげたのも素敵な思い出になりました。
デート!思い返せばやっぱりデートみたい!!
「えへっ」と思わず笑えば、アルフの目は笑ってないようだけど、唇はとりあえず弓形に上げてくれる。やっぱりちょっと疲れさせてしまったらしい。
「お茶飲もうか?わたしも喉乾いたし」
「うん、そうだね。そのあとはプレゼントは僕も選ぶことにするよ」
「うん!」
笑って答えて近くのカフェで紅茶とケーキを頼めば、アルフはブラックの珈琲を注文した。
「アルフは昔から珈琲だね」
「そうだね。お父様がよく飲んでたから……元々は真似なんだけどね」
「……うん」
頷いてお水を一口飲めば、アルフが苦笑いを返す。
「あの人、ちゃんと元気だよ」
「でも……春のお休みで帰った時、少し痩せてたじゃない。あの時は三原しょ……先輩方が領地に来られてて、騒がしくてあまり挨拶も出来なかったし」
うちの筋肉馬鹿親父と違って、しっかりとしたアルフのお父様は戦略を立てたり領地の経営に長けた人だが、昨年の冬から少し体調を壊している。
「大丈夫だって。この前も普通にしてたし」
届いた注文が目の前に並び、アルフはなんてことのないように言いながら珈琲を口に運ぶ。
「え?アルフはやっぱり夏休み帰ったの?」
「いや、その前に………それはまぁいいや。兎に角ナタリーが心配することないよ。冬にでも帰ったらきっと心配して損したと思うよ」
休みの前に帰ったなんて、やはり心配だったのだろうと唇をキュッと噛めば、
「はい、アーン」
そうケーキにフォークを刺して、口を開けとばかりに目の前へと差し出され………
「……いや、あの……おっきくない??」
「ナタリーなら食べれるの知ってる」
ニコニコして差し出すソレは、届いたショートケーキの半分で、ジトっと視線を向けるが引く様子がない笑顔のアルフに諦めて……ガブリと口に入れる。
「あはっ、流石ナタリー」
「怒るよ」
「怒らないよ」
クスクスと笑うアルフに確かに怒る気力も失せながら、
「学園に入ったら距離を置くんじゃなかったの?最近あんまり気にしてないみたいだけど」
唇のクリームを布巾で拭いながら聞けば、何故か遠い目をしたアルフは、
「ナタリーの距離の置き方に疑問があってさ」
そう呆れた様に呟いた。
「何が?」
「視線を感じて振り向けば必ず目が合うし」
「……う」
「選択授業も何故か殆ど一緒だし」
「……ん」
「食堂もあんなに広いのについこの間まで絶対ってくらいの確率で近くに居たよねぇ」
「………いや、それはわたしのせいじゃなくてね?」
思い当たる節も無きにしも非ずだが、一学期の途中からの選択授業は特に考えもせずに同室のクレープに合わせたら、アルフも殆ど一緒だったのは……もしやクレープさんの情報屋さんのお仕事だったのか!? それと食堂の件はさり気なくダリアンの手に引かれて行けば、アルフが目に入る位置に案内されてて………
「……ダリアンと話せないの……」
「急に話がかわったね」
「……ちゃんと話したいのに、避けられてるのかな……」
残りのケーキを一口大に切って口に運びつつ嘆けば、アルフは黙って珈琲を口に運ぶ。
「誤解してるんじゃない?」
「誤解?」
「例えば……お互いに?」
意味がわからなくて首を傾げれば、「女の子同士の事は僕にはわからないけどさ……、でもナタリーは得意でしょ」
「何が?」
「鬼ごっこ」
クスクスと笑う彼との思い出は、幼児の頃からの楽しい記憶。
互いの屋敷の敷地使った鬼ごっこは、弟のトウドか最弱で、わたしとアルフの戦いは、かなりの僅差だがわたしが勝つことが多かった。
スピードはわたしが優ったけれど、アルフの罠は毎回凝っていて、アルフが逃げる森の中を駆け抜ければアルフの先の丸まった矢や落とし穴。それに踏めば吊り上げられる獣用の……罠……………?
「……ん?ちょっと待って??あれって……鬼ごっこって言うの?」
「バレたか」
舌を出して悪戯っ子の様に笑うアルフに文句を言おうと思うが、お父様の正面突破の攻撃に、アルフのあのあざとい攻撃に慣れていた為に、不意の攻撃にも強くなっていたのだと、立ちあがろうとテーブルに両手をついたがそっと降ろすことにした。
「だからさ、捕まえたら?」
「今更気がついた事だけど、鬼ごっこのこと怒ってないわけじゃないからね」
「でもあの頃楽しかったよね」
ぷぅと膨らんだ頬は、珈琲のオマケについてきたクッキーを目の前に差し出されれば、途端に萎んでしまう。
「とにかく君は、真っ直ぐに行けばいいよ」
甘さ控えめなクッキーを口に入れられながらアルフはそう微笑んで、わたしの口の隅についていたらしい何かを取る様に唇を親指で撫でる。
「ダリアンさんと仲直りできるといいね」
「………っ、ありがとっ」
「どういたしまして」
布巾で手を拭いて「さ・食べ終わったしプレゼント選びに行こうか」
そう言って会計を済ませてくれた。
オマケ
「アルフ!自分の分払うよ!」
「大丈夫。ナタリーのお母様から『どうせナタリーが迷惑掛けるから、何か合った時用に』って僕のほうにもいくらか届いてるから」
「……ご迷惑をおかけします」
「どういたしまして」




