36.聖女ちゃん……現れる!??
「聖女!!!また先に来ていたか!!!」
現場到着前に聞こえた声に首を傾げる。
「どうしたら毎回そんなに早く…、まさか聖女は移動魔法が…!?」
フランツ王子とブルーノ様の声が聞こえて…何のことかとコソコソと木の影から覗いて、2人が見上げるその木の上に視線を送れば…、
「……!!?」
わたしが思わず仮面を外し、息を呑んだのも仕方ない。
そこには白銀のポニーテールが月明かりに照らされて…仮面と逆光のせいで顔こそ見えないけれど…あれは……わたし!?
「ってそんな訳ないし!」
思わず自分で突っ込んだところで倒れていた魔獣が起き上がりもう一度大きく吠えた。
その異様な姿は………ナメクジの魔獣…!?えぇぇ…どこから吠えてるの??
「くっ…!まだ生きていたか…!!」
シリアス顔のフランツ王子が剣を構え駆け寄り、その首を…首?とりあえずその辺りに横に斬りつけるが、ぶにょぶにょとしたその身の半分程度で止まってしまう。
「く…っ!引くにも引けんっ!!」
その呟きと同時に王子の手のある鞘ごと、いつの間にか駆け寄った聖女?が回転蹴りをかます!
「ぐわっっっ!!」
勢いよく蹴り飛ばされた王子の悲鳴は、蹴られたことでナメクジの身体が両断された断末魔によって掻き消され、そしてその身は剣が抜け切れば勢いのまま一度回転したが……身体能力が高いのか片手をついてバランスを取り直し、聖女?へと向き直ると髪をかき上げ、
「聖女よ、俺との共同作業を希望か……!?ふっ、悪くはないがもう少し優しくしろ」
「……チッ」
え?!あの聖女さま、舌打ちしましたけど!?やめて聖女のイメージが悪くなるじゃな………いや…もしや、わたしもしたことある?いやないよね?ないない。だってナタリーなりたくないけど聖女だもの?したかもしんないけど、もう少し上品だったし??
「………オイ」
「ピャイ!!!」
突然後ろから叩かれた肩に飛び上がれば、そこにはイーサック先輩!
「ナタリー……こんなところで……何をしている?」
「ひえぇっ…」
両手で顔と髪を触ってみればそういえば途中で仮面も外してしまっていたと思い出す。
「……ナタリー?」
改めて呼ばれて気がつけば、魔法が切れていたのか無意識に切っていたのか、ポニーテールではあるものの髪色も普段の茶に戻っていて……
「オイ、聖女!どこへ行く!!!」
走り消える聖女に声をかけるフランツ王子に「無駄ですよ」と、諦めたようにブルーノ先輩が声をかける。
「それにしても今日の聖女は…なんだか様子が?気のせいか……?ところで、君は何故ここへ?」
ブルーノ先輩の呟きの間に木の影に改めて隠れてみたけれどやはり意味はなかったらしく……、後ろからのイーサック先輩と、木の向こうからもフランツ王子とブルーノ先輩の視線が刺さる。
「じ、実は、昼間に大切なピアスを無くしてしまって…?」
「………ナタリー……ピアスなんてしていたか?」
イーサック先輩にそっと少し垂らした髪を持ち上げられて耳を見られ……「イヤリングでしたぁ!」と慌てて訂正する。
「何故こんな森の中に?」
「この前の昼間、歩いていたら、落としちゃって、拾おうとしたら、なんと!!森の子リスが現れて木の実と間違えたのか持って行っちゃってっっ!!」
流石に苦しすぎる言い訳だとは思ったけれど、そっと3人の様子を見れば、
「成る程、ニャタリー、それは災難だったな」
「大切な物だったとしても夜に出歩くのは得策ではありませんよ」
「……昼間は……時間が……無かったのか?」
すんごい信じてくれてる!!!!
「そんな訳で探していたら、すぐそばで爆発音が聞こえてついつい見に来てしまいまして!!」
良い人達だと言葉を繋げれば、思いの外真面目な…なんなら怒った顔をしている。
「ニャタリー!そんな音がしたならば逃げねばなるまい!!」
「好奇心は人を殺しますよ」
「……前に巻き込まれて……怖い思いをしたのに……駄目だ!!!」
正論!!そこはぐうの音もでない正論でした!!!
「す…すみません!!」
素直に謝ればイーサック先輩が腕を持ち立たせてくれる。
「……帰ろう…送る…」
「ありがとうございます」
そうして疑問を残しながらも、わたし達はその場を後にした。
*****
「あれ、誰だったのかな」
帰ってシャワーを浴びて、寝巻きに着替えて布団に入って出た呟き。
「聖女…なんなら変わってくれたら嬉しいけど……」
しかし浄化をせずに帰ったということはきっと本物の聖女ではないのかもしれない。
「わかんないことだらけだ……」
答えの出ない問いをし続ける趣味はなく、わたしは迫り来る睡魔を捕まえて抱きしめてグッスリと朝まで眠った。




