35.聖女ちゃんはヒロイン?
「雨降ってる〜…」
登校日の今日は朝から天気が下り坂だと思っていたけれど、忘れ物をしたと寮に帰って改めて外に出れば突然の豪雨。
ついてないと溜め息を吐いて、寮生が自由に使っていい傘を手に取り歩き出す。
「あっ、ナタリー!入れてくれない?」
呼ばれて振り向けばアルフが濡れながら走ってくる。
「いいよ!どうしたの?傘は?」
「さっき突風が吹いたでしょう?それで飛ばされちゃったんだよ…ついてないよね」
「そうなんだぁ」
寮に荷物を取りに行っている間にそんなことがあったのだと、同情とともにラッキーだと顔がニヤけてしまう。
「あれ?アルフ、足も怪我してる?」
「ホント、今日はついてなくて…さっき寮出るところの段差で躓いて…ホントに踏んだり蹴ったりなんだよ」
眉尻を下げて情けないと笑うアルフの足を治してあげたいのは山々だけれど、いかにひと気が少ないとはいえ往来でアルフにも言ってない癒しの聖魔法を使うわけにはいかないと「そっか、荷物持つよ」とか言うのが精一杯。
「大丈夫だよ。ナタリー、傘も持ってもらってるしね。ごめんね」
同じくらいの身長なのに、ちゃんと男の子のプライドで傘の行方を気にしてくれてるアルフに「気にしないで」と首を振る。
「ところでナタリー、もうすぐ夏休みだけど家には帰る?」
「うん…少しは」
正直言えば帰りたいけど、最近の魔物の強さにこの場所を放置する事は出来ないと…素直に帰るとは言えなかった。
「そっか。僕も学園とは別の勉強を王都でしようと思ってたから、あまり帰らないつもりなんだよ。ナタリーも?」
「べ、勉強シマス!!」
「嘘はよくないよ。それとも本当にしようか?」
爽やかに言われた言葉からは視線を逸らす。
……わたしが正直前回の赤点が一つで済んだのも、クレープとアルフの、甘くて辛い詰め込み授業のお陰なのだ。
幼い頃から体ばかり鍛えてたわたしがこんなレベルの高い学園に入れたのはアルフのスパルタのおかげ。受験3ヶ月は詰め込み詰め込み詰め込み勉強で、ビシバシやられた。
アルフのことは好きでも勉強は嫌いなので泣きながらやったが「泣いても単語は頭に入らないよ?」と、笑顔で切られた。
やっと学園へと入って寮生活ならば少しは遊べる思えば、名前の通り甘いと思ったクレープが「え?ナタリーはここわからないの?ん〜…なら、わかるまでやろうねぇ♡」と、授業後の補習をやらされたおかげでございます。
「勉強ハ、くれーぷト、ナントカ、毎日、なたりー、ヤッテルヨ」
「突然の片言が怪しいけど、この前の赤点は仕方ないし…本当にやってるみたいだね。クレープさんに感謝だ」
ニコッと笑う笑顔にコクコクと何度も頷く。
わたしはアルフの笑顔は好きだけど、アルフのスパルタ笑顔は背筋が凍るのです。クレープの方がまだ息を吸う余地がある。
そんなこんな話をしていれば予鈴のチャイムが鳴り始め、このままだと2人で遅刻してしまうと気がついて、慌ててアルフに傘を持たせると驚いてる様子のアルフを背中に担いで走ればギリギリ時間には間に合って事なきを得た。
アルフが背中で「……そーゆーとこだよね…」とか言ってたけど、きっと褒め言葉!!!
*****
「そーゆーとこよ。ナタリー」
「え!?アルフもわたしも遅刻もしないで万々歳じゃないの!?」
「………そーゆーとこだと思うよ?ナタリー……」
朝の件を惚気とばかりにクレープとダリアンに話せば、ダリアンの冷たい声に驚いて、クレープの困った様に首を傾げて言われた言葉に視線を向ける。
「はー…ホンットナタリーは、巷で流行ってる物語に出てくる様な溺愛系の恋愛に向いてない」
「え!?わたし、ヒロイン役はちょっと遠慮を…」
「なれないって言ってるの!!」
ダリアンの謎ツッコミに、願ったり叶ったりだと思うんだけどと言えずにいれば、ダリアンとナタリーが2人で溜め息を吐いた。
「あのね、ナタリー。可愛い女の子って言うのはね」
「うん」
ちゃんと目を見て話を聞けば、ダリアンはもう一度深〜〜く息を吐いて、
「顔だけはなかなか可愛い」と頭を抱えて言われて、「えへへ」と頭を掻けば、「否定して」と怒られた。
「いーい?ナタリー。まず可愛い女の子は男の子を背負わない」
「そうなの?」
「……そこから疑問系?」
だってお父様には人は立派に独り立ちするためには、誰かを背負えるくらい強くならなきゃいけないと、小さな頃から教えを受けてきたのだと説明すれば、二人に大きな大きな溜め息を吐かれた。
「…親の教育の賜物か……」
「えへへ」
「褒めてない」
呆れた様子の2人はそこからヒロインのなんたるかを教えてくれる事は無かった。物語のヒロインから外れるなら、わたしは草葉の陰で草葉を数える人でいいの!!
*****
「と、そうは言っても問屋がおろしてくれないのね……」
夜、クレープが先にシャワーを浴びてる時に何気に窓の外を見ていれば、ドカンと学園の側で土煙が上がる。
早々に着替えると〝 コンコン 〟とシャワー室をノックして、
「クレープ、いってくるね」と伝えれば、濡れたままのクレープが顔を出し「気を付けてね」と手を出してくれたのに笑顔でタッチして肉体強化魔法を唱えながら窓を開けて、わたしは外へと飛びだした。




