3.聖女ちゃん活躍する
…とはいえ、たしかに行き先はトイレなのが悲しい。
キョロキョロと周りを見て、バックに入れてきたお母様の荷物の中から見つけた仮面舞踏会の目を隠す仮面から羽を取り少しシンプルにしたものを万が一に見つかった時の為につける。ついでにお母様がこれを持っていた理由は考えない。貴族の大人だものきっと色々事情もあるのでしょう。
「身体能力強化・身体能力強化・身体能力強化…」
強化魔法を3回ほど重ね掛けをして、今日の為に努力して手に入れた髪色を光の屈折で白銀に見える様に整えて邪魔にならない様に一つに結び…、そしてトイレの扉は閉めたまま荷物は置いて窓から外へと飛び出し、木から木へと飛び移りそのまま講堂の裏手へと走りこめば…
突然にザワリと肌の粟立つ気配がして反射的に其方を見れば、黒い嫌なナニカ。
まだ形の無いソレはモヤとも煙とも見えるが、粟立つ細胞が違うと叫ぶ。
「気持ち悪…っ」
少しでも距離を取ろうと木の上へと飛び移り、それを見て口から溢れた言葉は本心でしかなくて…、その黒いモヤは圧縮と発散を繰り返しながら入学式会場へと向かって行く。
動くにつれ発散したモヤの散らばりが少なくなり、圧縮された時に形付いていく様子が見えるのを震える身体をなんとか木から落ちない様に足を踏ん張る。
「ま…魔力強化っ!魔力強化魔力強化魔力強化ァァァ〜〜ッッッ!! 聖ッ魔法ォォッッ!!!」
浮かんだ涙も拭うことなく、カタカタと震える手を自分の胸に当て、攻撃力をほぼ持たない聖魔法の力を強化して5mは優に超えそうなソレへと向かって手を広げ、震える声で何度も何度も練習したその魔力を、既にモヤでは無く形となって、今まさに入学式を行っている会場へと襲い掛かろうとしている魔物に向ければ、魔力は光の大きな球に成り囲い込み圧縮していく。
「イイイイイヤァァァァァァァァァ!!!何でよりによってGの形になったのよぉぉぉぉ!!!!しかも魔力を通してなんかパキパキバキッて、嫌ぁぁぁな感触が手に伝わるぅぅぅぅッッッ!!!!」
鳥肌と涙と鼻水を止める手はなく、魔物の断末魔なのか高音の奇声が光の球の中でコダマし、会場の壁の一部が壊れていくと、中からは驚いた生徒達の姿が見える。
「違うから!私のせいじゃ無いからね!!」
きっと彼らには魔物が苦しむ姿だけで、木々の隙間に立つ私なんて見えていないと思い直して、必死にその球を圧縮して行けば、Gだったそれも形を留められずに球となって、縮んで縮んで…私が目の前で手をパンッと合わせると同時に弾けると、黒かったソレは光となり、キラキラと輝き消えていった様に見えた。
「ぎゃーー…パンッてした時、凄ぉぉぉぉい嫌な感覚したぁぁぁ〜…」
涙を浮かべてその両手を木に擦り付けていれば、パキリと地面から音がする。
「お前は…誰だ!」
と、赤い人。
「あんな魔物を…まさか一人で倒したのですか!?」
驚いた眼鏡の青い人。
「…女の子…まさか…聖魔法使い…?」
翠の長髪の人がボソリと呟く。
嫌ァァァァァァァァァ!!!!折角こっそりとこんな嫌な感触を感じてまで独りで倒したのに、メイン3人が揃い踏みじゃぁないですかぁぁぁぁ!!!!
そんでこの人達は聖女と交わればその力が増すとかでイヤーンアハーンな事を、嫁入り前のうら若き純粋ピュアッピュアな可愛い私にするんですよ!!
…ヤバイ。たとえどんなとんでもイケメンだろうと、好きでも無い人とのソレは丁重に重ね重ねご勘弁願いたい。
だからこそ、私の言う事は一つ。
すぅっと息を飲み彼らに聞こえる様に、
「魔物は私が清き物へと戻した!これからも私が貴方達の力は借りずに清き物とするので安心して欲しい!」
バレたくなくて少し声を低くして言ったけど、なんか私、カッコよくなかった!?
ニヤニヤとしそうになる頬を堪えて居れば、『ワァァァ!』と歓声が上がった。
振り向けば講堂の中から生徒達が腕を振り上げてメッチャ応援してくれてる。
ヤバイ!!聞こえてたぁぁぁ!!
「君は何者だ!」
「…ぇ?」
赤髪王子に何者だとか聞かれても…なんて言うの?素直に聖女でーすって言う馬鹿いる??なんて悩んでいたら、木の上に居たのが災いして、背中にポトリと何かが入っっったぁぁぁぁぁ!!!!??
「聖女よ!!私の力無くとも、あなた方が己の能力のみで魔の力を倒せる事を願うわ!!でわっっ!!!」
「待て!!!!」
待てるかぁぁぁっ!!!
心の叫びは黙っておいて、肉体強化魔法の効いてるうちに木々を飛び移り、彼らや会場の生徒達から死角へと入り、更に飛び飛び着替えたトイレの窓へと飛び移ると、廊下から「さっきからこの個室、返事がないんですっ」なんてザワザワとした女の子達の声が聞こえて慌てて制服へと着替えてノブに手を掛けた所で、肉体強化の魔法の力が切れたらしく、扉が開くと同時に膝をつく。
「君、大丈夫!?」
白衣の天使もとい白衣の教師の姿を、この人もスチルで見た事あるなと、更に青くなりながら、
「せ…生理痛です…」
そう年頃の娘として言いたく無い言い訳をかましながら、右手にクワガタを持ったまま情けなく倒れ込んだ。
そう背中に入ったのはクワガタでした。
Gとさほど変わらないのに、ホッとしたのは仕方ないと思う。
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