26.聖女ちゃん宣言する
ある夜、鍵を壊しておいた聖堂の天窓を開ければ、下から見上げる様にこちらを見る赤髪のフランツ王子。
「ふっ、そろそろくる頃だと思っていたぞ聖女よ!!」
返事も返さずにいるがそのしたり顔は変わらない。
「その身に宿し魔を返さねばならんだろう。ここのところ、ブルーノやイーサックと魔を倒してたらしいからな!」
一緒にと言うべきなのか…魔を倒そうとするとどこからか湧いてくるというか…。
まぁブルーノは共に倒したけど、イーサックに関しては邪魔ばかりしてくる感があり、思い出しイラッをする。
「さぁ降りてこい聖女よ!その聖なる力はお前が好いたこの俺がキチンと使い、魔を正しき道に……ん?」
天窓からそのまま跪き、ゾワリと魔の抜けた感覚を感じて「じゃ、そういうことで失礼するわ」そう言って窓を閉めて部屋へと帰った。
「待て!!!お前…、聖女ともあろう物が、聖杯を見下ろしそんな場所から適当に祈って終わらせて良いものなのか!?!」
そんな戯言が聞こえるが、要は魔を聖杯に返すことが大事な訳で、小さなことをどうこう言われたく無いし、あんな神様が見守ってる場所でのアハーンウフーンな展開でも起きそうなコメントする王子との時間は一瞬でも作りたく無い乙女心だわ。
*****
「聖女様、王子と会って照れて急いで帰ったらしいぜ」
「ぶふぅ」
吹き出しそになったのは、食堂での通りすがりの人のコメントと、横のシャルティエ様から明らかに殺すオーラが同時に溢れ出たので仕方がないことだと思います。
「ナタリーさん、大丈夫かしら?ハンカチは居る?」
「だ、だいじょぶですシャルティエ様。吹き出す直前でなんとか留めましたから!!!」
口元に垂れた分は手の甲で拭けば、「まったくもう」と優しく残りをハンカチで拭いてくれる。うん待って、どこからこんなに親しくなったのかしら聖女じゃないナタリーちゃん!
「えっと、いつもの方々とは別行動ですか?」
取り巻きと呼ばれる人達は三つくらい離れたテーブルからわたしを睨んでる気がするのは気のせいだと信じて聞けば、
「たまにはナタリーさんと食べて見たかったのよ」
金髪美少女…いや金髪美女の微笑みながらの言葉には同性とはいえ思わず頬が赤くなるほどの破壊力。
「そ、そうですか。お気に召すようなことがあるかしら?」
「ふふ、ガサツに見えても食事を綺麗にされるのは育ちが宜しいからかしら」
楽しそうに微笑んで、食べてるとこ見られると緊張します!!!
いや野外なら御希望通りにガサツに食べますけど。……いや、まってガサツに見えてって何?猫かぶってるはずなのに、全然被れてないわよ宣言された!?
「あのぉ〜…シャルティエ様は…」
「おぉニャタリー!今日はシャルティエと食事中か」
お怒りの元凶王子が気にもせずズカズカとやってくれば、シャルティエ様の美しいお顔にちょっぴり暗い表情が映し出される。
「ニャタリーにも仕方ないから聖女との話をしてやろうか?」
「へ〜、聖女にあったのですかぁ〜。すご〜い。シャルティエ様、デザート食べませんか?わたし今日のデザートすっごく好きなんですよ!!女の子はデザート好きですよねぇ〜」
えへへとアホっぽい笑いでシャルティエ様の手を引いて、その元凶と距離を取る。
「…ナタリーさん、ありがとう」
「いえ、わたしがデザート食べたかっただけなんですよ!」
きっとこの行動を良い様に受け取ってくれたのだと頼んだデザートを受け取ろうとすると、今更ながらにシャルティエ様の手を握っていたことに気が付いて、慌てて手を広げて離そうとすれば可笑しそうに笑って、
「デザート、四阿で食べましょうか」
そう言って優しく手を引かれてそのまま外へと連れて行かれた。
「それで…ナタリーさんはどう思うかしら?」
「クソですね」
王子の行動に対する質問の回答としてストレート過ぎたかと思ったが、出てしまった言葉は口を抑えても戻って来なくて、目の前で大きな吊り目を丸くしたシャルティエ様は、破顔してコロコロと笑い出した。
「ふふふふ…、そんなはっきり言われたのは初めてだわ」
「シャルティエ様みたいな美人でスタイルも良くって美人な婚約者の前で、あんな話する方が悪いんですよ。シャルティエも怒った方がいいです」
「………聖女様なんて居なければ良かったのに」
悲しそうに呟かれたその言葉はグサリと胸に刺さって抜けない棘になる………が、抜けない返しがあろうと無理矢理でも抜くのがナタリー・フォレスター!!!
「シャルティエ様、悪いのは聖女じゃなくないですかね?聖女はこの地に安息を…」
「ナタリー、あなた…、聖女様を聖女なんて敬称もなく…」
「聖女サマ…って、みんな聖女って呼んでますよ。それにシャルティエ様の方が…」
言えば小さく首を振り胸を押さえているシャルティエ様が目に入る。
「わたくしは……聖女様を敬えと。聖女様が望むなら全てを捧げろと教えられてきましたの…。それはこの身、この命の事かと覚悟してきましたが…まさか…フランツ様の事だなんて…思わなくて…」
目に涙を溜めるその姿は恋する乙女で…その気持ちは痛い程わかってしまう。
たとえわたしが聖女じゃなくて、アルフを捧げろと言われたら、はいどうぞなんて出来るわけなくて……。
「要らない…何も欲しくなんて…ないのに…」
思わず洩れた呟きはシャルティエ様には届かなかったのにホッとして………ただわたしの聖女なんて名前も、こんな恋する乙女の好きな人を奪ってどうこうなって…その力を共に使ってこの地を平和にしたところで、傷付ける人がここに居る。
「ナタリーさん…?…あ、ごめんなさい。わたくし…つい感情的に…」
その目元を抑える綺麗なハンカチは、さっき優しくわたしの口元を拭いてくれたもので、シャルティエの優しさを思い出す。
「シャルティエ様!微力ながらもわたし、シャルティエ様の幸せお祈りしております!!奪うな幸せ!護れシャルティエ!!です!!」
パチクリとした瞳にガッツポーズを返せば、シャルティエ様は「なぁにそれ?」と、またおかしそうに笑った。




