19.聖女ちゃん狙われ……ない?
「自然に囲まれた素晴らしい土地ですね」
「有難う御座います」
村を案内しながら爽やかに微笑み言われた言葉に笑みを返す。
……帰らないのだけれど…??
我が家に2泊目なのだけれども?
「おや?どうかしましたか?」
「いいえ、なんでも…、こんな小さな村では楽しいことなんて無いと思いまして…」
「いえ、ナタリーさん達ご両親の治めるこの土地は過去に何度も侵略の危険があったにも関わらずに対処し治めてこられた、それは曳いては国防に繋がっております。ナタリーさん達のご両親は国からも一目置かれているのですが…ご存知ですか?」
「有難きお言葉では御座いますが、わたくし共は目の前の領民達と協力し、この小さな村を守り抜くことに必死だっただけで御座います」
わたしの言った言葉は本当で、山間の狭い道を越えねば隣国からの侵略を許してしまう様なそんな危うい地だが、逆を言えばその細い道を超えさせなければ村に…つまりは国境を跨がせる事はないと、数々のトラップを仕掛け、いざという時には発動させる仕掛けが道道に仕掛けられている。
「謙虚な御意見ですね。さすがに代々守って来られただけはある」
「真実ですから…わたくしも、この地に骨を埋めたい程愛しておりますわ」
ニコリと笑って言えば、何となく腑に落ちない顔をされた。
「君はどうも言葉遣いを丁寧に話しますね。学園長のお孫さんのクレープさんにはもっと砕けて話していたではありませんか」
「いえ、クレープさんは同じ部屋ですし同級生でございます。先輩であり、身分も上のブルーノ様に同じ様にはとは行きません」
「その取り繕った話し方、どうか僕の前で崩して貰えませんか?」
細められた目は獲物を捕獲する様な瞳で、蓼食う虫も好き好き…とか、我ながら失礼な事を思いながら「失礼に当たりますから…」と、さり気なく後退りをする。
「後輩だからと距離を取られるのも悲しいですね…それとも思い人に操を立てているのですか?」
立てるわそりゃぁ!!!!!
とは叫ばずに「何のことで御座いましょう」と、微笑んだその時、
「ナタリー姉様ぁ〜」
そんな可愛らしくもメシアな弟の声がして振り向けば、何の因果か肩までの白銀の髪をポニーテールにして現れた、騎士団の服装だがまだ少しだけ大きくダボっとしていることが更に可愛さを引き立てている。
「……聖女?」
「いいえ!ウチの弟ですわ!!!!れっきとしたわたくしの弟です」
珍しく驚いた顔のブルーノさんに慌てて言えば、弟で5歳年下のトウドがわたしの横へと立ち可愛い笑顔で、
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。姉がいつもお世話になっております。弟のトウドと申します」
ニコリと笑えばまるで花の咲いた様な可愛さをひけらかし、一瞬わたしに迫っているように見えたブルーノ様も目を奪われた様だった。全然良いのだけれど、解せぬ!!!!
「ブルーノ様。トウドは風邪を引いておりまして、今朝まで部屋に篭ってもらっていたのですわ。良くなって良かったわ」
「姉様、心配してくれてありがとう」
「君は……自分が何属性なのか知っているのかい?」
トウドはその質問にキョトンとした後、
「まだ成人前なので調べておりません」
そう言ってまたも可愛く笑う。
いや、見て!?まだ10歳の弟、わたしより頭一つ近くは背も低いし…たしかに聖女と同じ髪色だけれども長さも違うし、それに何より何度試しても髪色を変えるのは白銀の…弟と同じ髪色にしか出来なかったから、出来ることなら会わずに帰って欲しかった!!!
後半は内心血の叫びだったが、横でニコニコとした弟と、明らかに弟に興味を惹かれるブルーノ様。
……ちなみに弟がこんな風に…つまりは、お淑やかな淑女の様に育ったのはわたしのせいだ。
母は娘をお淑やかに、どこに嫁に出しても恥ずかしくない様に育てたかったらしいのだが、わたしは父に才能を見出されて騎士団に入り浸り、朝夕は自主的に走り込み。山に置いて置かれても川に沈められても無傷で帰宅。
多分心臓とメンタルが持たなかったのだろう。
そしてある日気が付いた。弟が姉とは違い、やや内向的でお淑やかだと。しかも顔は母に似た美形。……いや、わたしもどちらかといえば母似のかわいい娘なのだけれどね!
そして娘にしたかった蝶よ花よの教育をすれば、スポンジが水を吸う様に覚えていき、あれよあれよと可憐な花に。
「姉様?ぼくの顔に何かついてますか?」
「わたくしの弟は可愛いなぁと思ってね」
「変な姉様」
クスクスと唇に手を当てて笑ったその手の甲には、傷跡。
それは過去のわたしが聖女だとバレるのが嫌で、7割しか治さなかった事で残ってしまった罪悪感の印だった。
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いいたします!
沢山の方に笑顔で読んでいただけると様に頑張ります!