15.聖女ちゃん挟まれる
「そういえば聞いた?聖女様が名も明かさずに自分の身も顧みずに戦う理由」
「……かえりみずに戦う理由?」
あれから一週間。平穏な日々が続いていたお昼にダリアンが食堂でこっそりと話す様なその言葉を理解できずに、鸚鵡返しに言葉を返す。
……ちなみに自分の身を守りたくて戦う聖女なら知っている。
「王子様の事好きらしいわよ!」
「ゴフゥッッ!!」
パンで良かった!!一口目を口に入れ掛けたパンで良かった!!周りに基本飛び散らせてない!!自分の手で受け止められて、そのままそっとお口に戻して、咀嚼してお紅茶飲んで……ニコリと笑う。
「嘘よぉ〜」
「王子様が告白されたらしいわよ」
「嘘よぉ〜〜」
「それを王子様が堂々と言って、シャルティエ様があんな感じ」
言われたその先を見れば、奥のテーブルで遠目で見ても明らかに不機嫌オーラ丸出しのシャルティエ様。
「嘘よぉ〜〜〜」
なんとか引き攣る笑顔で聞けば、ダリアンが私も興味を持ったと思ったのか、更にナイショ話と口の横に手を当てて話を続ける。
「いや、ホントらしいわよ。礼拝堂の月明かりの下、『あなたに恋する私をどうか見つけて』って言って消えたらしいわ」
「……誇張にも程がある……!!」
「ん?」
「それはなんだか夢みたいな話ねって言ったのよ……!?」
血反吐が出そうになりながらもなんとか言葉を紡げば「そうよねぇ〜」っとダリアンも乗ってくる。
「まったく…こんな噂話を平気で広げて…あの人は王子としての自覚があるのですかね」
いつの間にか後ろを取られていて、思わず見上げれば呆れた様に呟くのは…青い人!!そのサラサラの前髪を掻き上げて呟くそれに、聞かれたとダリアンの最初は青くなった顔はたちまち赤みを帯びてから慌てて頭を下げた。
「ごめんなさい。つい…」
「つい…ではないですよ。一国の王子の与太話、他の人に聞かれれば困る事になるのは貴女方ですよ」
見下ろす様に注意をされて「すみません」と、ダリアンに続いて謝れば、その後ろから堂々とした佇まいの人が現れ、
「ハッ!与太話かどうかは聖女と二人きりで対面したことのないブルーノにはわかるまい!」
これぞドヤ顔で王子フランツ様は言い放ちました〜!
「貴方は自分の立場をご理解ください。たとえ学園であろうと王子は王子なのですよ」
「そんなもの知っておるわ」
「ならばありもしない話を盛るのはどうかと。聖女とは一度か二度しか会っていないでしょう?」
溜息混じりのその声に思わず頷きそうになれば、
「ブルーノは知らんのか?男女の仲に回数など関係ないだろう。この俺の顔か、それともオーラに惚れた。仕方のない事だ」
「自信がお有りにあることは良いですが、過信は宜しくないですよ」
冷たい目のブルーノさんとのそんな会話の横で、そっとダリアンに「ねぇダリアン…私、先に教室帰るね…」と、抜け出そうとすれば、ポンと肩に手を置かれ、
「このニャタリーも、俺に初めて会って、緊張し過ぎて自分の名前も言い間違えたほどだぞ?な??」
「え……えへ?」
「気にするな。仕方のないことだ」
ドヤ顔で言うフランツ王子に握った拳はなんとか口元に当てて笑って誤魔化す。周りからは『キャー』とか『羨ましい〜』とか聞こえてくるけど、私にはさっき以上にお怒りのオーラを撒き散らしこちらへと向かったくるシャルティエ様に冷や汗が止まらない。
「こんにちは、フランツ様、ブルーノ様。それにナタリー」
「ご、ご機嫌麗しゅう?シャルティエ様」
「シャルティエか。聞こえてしまったか?」
「えぇ、食堂が静かでありましたもので…」
静かだったのはシャルティエ様が明らかにご機嫌斜めだったから…というのは、口を閉ざしておこう。
とか思ってれば、シャルティエ様の絶対零度の視線が突き刺さるのは私の右肩!!
「フランツ様、すみません。わての至らぬミスのせいで」
どこの田舎者だよ!自分で突っ込みたくなるほどの噛んだその言葉は、視線の先のフランツ王子のドヤ顔に失敗した事を告げられている。
「ふ…、田舎の伯爵家ではこの俺と話すのも緊張してしまう様だな!すまない」
「はい」
改めて見ればクレープが言うように造形が整ったお顔だと気がつくが、突き刺さる視線にそれどころではない。
「このナタリー、フランツ王子とシャルティエ様にお名前を覚えて頂けただけで光栄でございます。では、わたくしはこれで!」
テーブルの食器を持ってさっさと去ろうとすれば、
「まぁまぁゆっくりしていけ」と嬉しくないお誘いと、そのまま腰をもたれてクルリと回転させられ、今立ったばかりの椅子に座らせられた。
「午後の授業の準備が…」
「ナタリー、特に準備ないじゃない。是非ご一緒させて頂きましょう」
明らかにイケメン2人にときめいてるダリアンに引き攣る笑いを返せば、その背後からはシャルティエ様の負のオーラが見える。笑顔なのに…笑顔なのに怖い!!!
「ニャタリー…じゃなくて、ナタリーだったか。随分細いな。……田舎では飯がそんなに食えないのか?なんでも注文して構わんぞ」
大きなお世話だし、先程レディーの腰に手を当てたうえに平気で品評するんじゃないと思うが、無駄に心配そうな顔に言い返すことも出来ない。
「ご心配痛み入りますわ」
「そうだシャルティエ。ナタリーを茶会に呼んでやればいい」
「恐れ多くも私のような地方貴族がお邪魔する訳には…」
「いいですわ。是非お越しになってね、ナタリーさん」
「良かったなニャタリー。沢山食べてこい!」
満面の笑みの王子と、満面の笑みなのに負のオーラ満載な御令嬢様に、ただただ小さくなって、いつの間にか追加されたデザートを味も無く食べたのでした。
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