14.聖女ちゃん侵入する
「ナタリー、はい♡」
翌々日も具合の悪いまま学園へと行って帰ってくるとクレープに握手をされた。
「なぁに?手の中冷たい?」
離された手の中には鍵。
「新しい礼拝堂の鍵。お祖父様ってば盗まれてたことが発覚したから新しいのに付け替えたって言うから貰ったの♡」
「クレープ様!!!!」
思わずその身を抱き締めればやわらかぁい。うらやましぃぃ〜!
「それはとにかく…、ありがとうクレープ。早速今夜行ってくるわ」
「気をつけてね」
いい子いい子と頭を撫でてくれる彼女に感謝をしながら、重い身体を改めて自覚する。
「ナタリー、でも本当に一度寝た方がいいわ。朝も化粧して誤魔化してたけど、やっぱり顔色が良くないもの」
「うん。気にしてくれてありがとう」
笑みを浮かべて着替え始めれば脱いだ制服をさり気なく受け取りハンガーに掛けてくれるのにお礼を告げて、そのままパタリと横になればぐわんぐわんと闇に堕ちそうな不快な物を感じ、そのまま夢へと堕ちていった。
*****
「いってくる」
深夜、学園には誰も居ない時間に寮長にもバレない様に肉体強化魔法をかけて窓から飛び出せば、クレープがベッドに入ったまま手を振ってくれた。
重い身体は眠ったお陰で少しはマシで、クレープが同室で良かったと感謝をして走り抜けると、礼拝堂に繋がる廊下の風通しにあけられたままだった窓まで跳躍し、狭いその窓をフッと息を吐いて抜けると礼拝堂へと向かって走る。
カチャリと扉の新しくなっている鍵穴に貰った鍵を使い開けて、素早く中に入れば、礼拝堂の正面には月明かりで照らされた聖杯。
「あった…」
思わずホッとして近付き、両手の指を組み膝をつき願いを込めれば身体の中から魔が抜けていく感覚にゾワリと身体が疼く。
「聖女、来ると思っていたぞ」
「あら、鍵泥棒さん」
「誰が泥棒だ!!」
振り向けばいつの間にかプライドが傷付いたのかイラッとした赤髪王子が立っていた。
「学園長室に忍び込んで盗んだそうじゃない。でも鍵まで変えられちゃって入れずどこで待ってたの?」
「……っ!」
「あぁそうだわ。学園長の机の鍵、開いていて良かったわね」
「何故そこまで…!?」
月明かりでわたしの弓形に上がる唇も見えるのか、驚愕の表情を浮かべるのが見えるのは、聖女Eyeのおかげ!!肉体強化してるお陰か視力もグンと上がり、今日は一段とまた暗い礼拝堂でも……
そう思って見上げれば、柔らかに微笑む初代聖女様を象った大理石の彫刻。
月明かりが当たり白銀に輝くその御姿は少しだけ変装後のわたしに近くて笑ってしまう。
「何を笑う!?まるで見ていた様な言い草を…」
「見ていたのよ。聖女だもの。悪しき行動は聖なる力が教えてくれるわ!!」
聖杯の前に居るために身体の中から魔が抜け切るのを感じて、堂々として言ってみる。
先に盗もうとしたの私だし、聖なる力どころか机の下でガッツリ見ていたけどね!
「俺は王になりより良い国にする為にお前の力が必要だ!!俺の物にな……」
「絶対に嫌よ!!!」
「!!?」
全力で食い気味で返事をして跳び、天窓の鍵を開けると枠へ掴まり、
「自分の近くにいる愛してくれる乙女のことを傷付けずに、彼女とこの国を愛で満たしなさい」
シャルティエ様とお幸せに!!私のことは忘れてね!!
そう心で願って天窓から飛び出した私は、
「つまり聖女は俺の近くで俺を好いている?」
そんな盛大な勘違いをした馬鹿王子の言葉は知る由もない。