13.聖女ちゃん慄く
「ナタリー、鍵取れなかったの?」
「ごめん…」
お膳立てしてくれたクレープに申し訳なくて謝れば、
「なら、持っていっちゃった王子様と一緒に聖杯のところへいくっていうのは?」
「そ、それはちょっと!!」
聖女を隠して暗躍する身でそんな堂々とした行いができる訳ないと首を振れば、クレープは不思議そうに首を傾げる。
「なんでナタリーはそんな隠れて聖女してるの?いい事してるんだから、堂々としたらいいのに。それにフランツ王子は赤髪を細くまとめて結んで、あの王子らしい凛とした赤い瞳、成績も優秀で稀代の王になるって言われてるし、ブルースさんも眼鏡の奥の深い思量を含めた青い瞳に、真ん中で分けた髪をかき上げる姿に女生徒が倒れたとか、それに弓の名手のイーサック先輩も長く伸ばした翠の髪に、あの獲物を狩るような切れ長の瞳……人気抜群な人達と知り合えるチャンスよ!?」
「え?そんな立派な外見してたっけ?しかし丁重にお断りさせて頂きます」
「ファンに殺されそうな発言よ?」
「その時は全力疾走で逃げさせてもらいます」
「ナタリーなら出来るだろうけど何を隠してるの?」
可愛い笑顔で間もなく言われたその言葉にグッと息が詰まる。
「あたし…ナタリーのお友達だと思ってたのに…」
三つ編みに指を掛けてしょんぼりした顔をするクレープに、
「いや、絆されないから。可愛いけど。可愛いけれど!!」
少しふっくらとした頬にふっくらとした唇にふんわりとした三つ編み、クレープは本当に可愛いと思う。てゆーか、サブキャラみたいな案内役のはずなのに可愛すぎない?「いいな!!」あっ、本音出ちゃった。
「聖女って、王国に崇め奉って世界中を周れるんでしょ?しかもあんなカッコいい人達よ?」
「…聖女には聖女の理由がありまして…」
彼らと共に世界中で常にアハ〜ンウフ〜ンイヤァ〜ンなそんな事に晒されるなんぞお断りなのです。
「まぁナタリーにはアルフくんがいるものね。アルフくんにとってはどうかわからないけど」
「クレープさん!?後半は言わなくて良くない!?」
涙目で訴えるが「もったいなぁ〜い」と、言われてしまった。もったいなくない。全くもったいなく無い。
「クレープは彼らの本性を知らないから…」
「じゃ、なんでナタリーは知ってるの?」
鋭い質問にぎくりとするが、
「それはシークレットです」
「なんで自分が聖女ってわかったの?」
「せ…聖女だからですっ」
「天啓でもあったの?」
「そんなところよ!?」
明らかにクレープの顔は『怪しい〜何か隠してる〜』と訴えてくるが…『実は前世でやってたゲームの世界で、そこのヒロインに生まれ変わりました⭐︎テヘペロ』なんて言う訳にはいかないというか、言った方が何言ってんだコイツになること請け合いです。
「まぁナタリーが聖女って言うのは、いつも見てきて嘘じゃ無いと思うし…また話したくなったら言ってね?」
優しい微笑みに頷きながら………、
「いつも見てきた?」
「入学式に、校舎の裏手…、あとはこの前の図書館からの渡り廊下?」
「本当にいつも見られてますね!!」
恐怖に慄いて言えば、ぎゅっと手を握られて、
「絶対誰にも言わないから安心してね♡」
「お、お願いね…」
味方で良かった…!と、心から思ったのでした。