12.聖女ちゃんド忘れです。
「ナタリー、なんだか顔色悪いよ?」
それが今朝にアルフに掛けられた言葉。
「ナタリー、体調悪そうだけど大丈夫?」
これは昼休みにダリアンに言われた。
「ねぇナタリー、明らかに具合悪そうよ?アルフ君に振られた?」
そして帰ってきてクレープにとどめを刺された。
「今は振られてないわ!!……てゆーか、そんなに悪そう?」
「悪いわよ〜。むしろ自覚ないの?」
部屋に入り、確かに身体が重いとベットに倒れ込むように言えば、心配してるのか面白がってるのか分からない可愛らしい笑顔でクレープが追撃する。
「風邪…って感じもしないし、熱もないし…なんだろ?」
「でもなんかよくない感じだよ?」
言われると更に自覚するもので…目を瞑れば睡魔が襲ってくる中、最近の事を思い返す。
入学式以来たびたび襲撃される学園を肉体強化に魔力強化の重ね掛け。ゲーム制的に昼間にイベントが起こると夜こそ寝ているものの、それは疲れるに決まってるとうつらうつらする中記憶を読みかえし…遠い記憶も甦って……
ーーー魔物を倒し、そして学園に戻って学園長に報告して、身体に入れた魔を聖杯に入れる事で魔が聖へと変わり、その地が潤いを取り戻していくーーー
「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!!わっすれてたぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
グワバッと起き上がれば「どうしたの?」と、声を掛けられるが、改めて鏡を見れば確かに顔色が悪い。
そりゃそうだ!!浄化したつもりが、その魔の一部は聖女に入り込み、聖杯に移さなきゃいけないんだった!!!
だから地の潤いが取り戻されず、この前のエロクソカマキリが実体化するのが早かったのだと合点がいく。
「………ちなみにだけどクレープさん。聖杯ってどこにあるか知ってる?」
「礼拝堂。鍵は学園長が持ってるわ」
「予備は?」
「学園長室の机の右側の引き出しの奥の隠し扉の中」
「聞いといてなんだけど………怖ッッッ!!なんで知ってるの?」
「学園長はお爺ちゃん」
「助かります!!!!」
土下座して御礼をすればコロコロと可愛らしく笑うクレープ。…怖い。才能と権力のWを手に入れていらっしゃる!!
「ちなみにぃ〜…、お爺さまが学園長室から留守のタイミングとかは?」
顔を上げてテヘッと、両手を合わせて聞けば、
「う〜ん…夜は逆に警備が厳重だから、急ぎなら明日の昼休みにお爺ちゃん呼び出して学園長室開けてあげるよ」
全力の華麗な土下座でお礼した。
******
「『仕方ないのぉクレープは〜』って、学園長の肩書き忘れてデレッデレじゃない」
呟いた言葉の通り、クレープの呼び出しにデレデレと着いていく学園長を見送り、少しだからと開けっ放しで行ってくれた学園長室に忍び込む。
「たしか右側の引き出しの…奥の…って右側に引き出し8個もあるけど!!?」
しかし鍵がついてるのは二つのみ。とりあえず覗いたところ、鍵なしの引き出しは奥に隠し扉的なものは無い。
「やっぱりここか…クレープ様々〜!」
呟きつつ、幼児のクレープがお絵描きする時にペンを自由に取るなり、好きなものをしまって良いよと渡されたという鍵を出す。
「孫へのセキュリティのガバガバ」
呆れながらもその鍵穴に差し込めばカチリと鍵が開く。しかし引き出しを見ても特に違和感もなく、元に戻して鍵を閉めて改めて隣の引き出しに鍵を差す。
「んっ…合ってそうなのに…錆びてるのか回らないっ!!」
ハマった感覚はしたものの、左右に動かしても鈍いザリザリとした音のみで回る気配が無い。
「ここまで来て…!!」
力任せにやれば鍵が壊れそうだし、何とかならないと軽く上下左右と動かせば……カチリッ
「開い…!!」
歓喜の声を上げようとすれば、部屋にノックの音が響く。
学園長ならば勿論不味いが、ノックをするということは誰か別の人物なのだろう。鍵を抜き念の為机の下に隠れて去るまでやり過ごそうとすれば、ガチャリと扉の開く音。
「学園長、失礼します。…なんだ、留守か。不用心な」
(この声は赤髪王子!!!!?早く去れ!!!)
そんな心からの願いも虚しく、堂々と入ってくる足音がする。
「たしか…ブルーノが言うにはここの引き出し…なんだ鍵も開いてるな」
(うぉいっ!!!ちょっと待て!!!それは今私が苦労して開けた引き出し…!!)
机の奥でできるだけ見つからないようにカッコ悪くへばりついて見ていれば、「あった…これか」の声と共にチャリっと鍵が見え、手を伸ばそうとするが、変装もしてない、しかもこんな場所にいる事がバレては不味いと涙とともにグッッと堪える。
「これで聖女とやらも、この鍵欲しさに俺に跪くだろうな…ハッ、最初から俺に従えばいいものを」
(誰が跪くかぁぁぁぁぁ!!!
私が跪くのはアルフとの結婚式でベールを捲られる時だけよ!!!!!!)
心で悪態と、あの鍵をどうやって取り返そうと考えながら這い出れば、廊下からクレープと学園長の声!
慌てて肉体強化魔法と念の為髪色だけ変えて風通しに開けられていた窓から飛び出ると…
「ここ…三階ッッ!!!」
ヒィィッと浮かぶ涙の中、足りない肉体強化は裏が森という好立地に助けられて、擦り傷だらけになりながらもなんとか生き残ることが出来ました。そして、回復魔法……。聖女でよかった。
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