11.聖女ちゃん、聖女っぽくない事を言う
「…聖女を…知らないか?」
「知りません」
今日もポテポテと昼休みに学園をパトロール…いや、ぶっちゃけ三原色トリオより先に違和感を見つける為に散歩をしていれば、図書館の本棚の陰から現れた緑色の人に声をかけられた。
「……そうか……」
「ではわたしはこれで…」
言葉数少なッ!!とか思いながら背を向けて歩けば、後ろから付いてくる足音。
「まだ何か御用でしょうか?」
引き攣りそうになる笑顔を堪えて聞くと、
「最近…ぶっ…うだ…………」
「はい?」
何を言ったのか聞き取れなくて問えば、視線を外に送られて、
「最近…物騒だ…」
「そうなんですか?」
心配してくれているのだと適当に微笑みと言葉を返し、そういえば図書館は渡り廊下を歩いて行くために教室から距離があるから、生徒は昼休みではあまり利用をしないのかもしれない。
「でも大丈夫で…」
そう言いかけてこの人とのイベントを思い出した…!!
たしか渡り廊下で魔物に襲われて、服がうまい具合に胸元が破けて……戦闘が終わってから『すまん…君の…そんな姿を見たら我慢が出来ない…』とかなんとかなって…!?いやそのイベントはもっと後半だったはず!!!そうは思いながらも血の気が引き思わずそっと距離を取れば、彼の背後から黒いモヤが現れた。
「なんで…!?」
ゾワリと泡立つ肌を押さえて見れば彼も気が付いたのか腕を伸ばし魔力を操ると空中からその手へと弓が現れる。
「…逃げろ」
「はいっ!!!」
全力で頷き逃げようとすれば魔力がカマキリ型に固まっていく……!!
(いつもより固体になるのが早い!?)
驚き踵を返そうとすると、魔獣は飛ぶように緑の彼を飛び越して「キエェェェェ!!!」と私の前へと飛び込み鎌を落とす!!
「キャァァァァァ!!!」
思わず悲鳴を上げて胸元をおさえるが……何もなってない??
思わずカマキリくんと2人で首を傾げれば、カマキリくんを貫通して私の横へと矢が刺さった。
「逃げろと…言ってる」
「はいっっ!!!」
慌てて足元がもつれそうになる振りをしながら、校舎へと走り込み、
「みんな逃げてぇ〜!!魔物…魔物が出たわ!!!」
そう叫べば近場に居た数名の生徒が悲鳴を上げて走りだした。
……ってなわけで、わたしはその隙にそこいらのトイレに入り、校章を外し、髪色を変えてポニーテールにして、ブラの中に隠した仮面を付けて………、
そうして胸元を見て気がつく。
もしやあのカマキリ…、もしやこの胸元への目測を誤りやがったのかしら!!?………クソエロR18カマキリがぁぁぁぁ!!!!!!
「肉体強化肉体強化肉体強化ァァァァァ!!!」
ついでにクレープに言われた通り、とりあえずトイレットペーパーをクルクルと2つ丸めてブラの中へ。
「殺す…絶対殺す…!!!!」
聖女とは思えない発言だとは思うが、あの時共に首を傾げたカマキリの不思議そうな顔が頭に浮かび、怒りに任せて窓から飛び出すと壁を蹴り木を飛び、あっという間に緑の人とカマキリの対面している場所へ着くと、こちらを振り向く時間も与えずに天からクソエロカマキリへと拳を突き落とす!!!!!
グワッシャ!!!!
カマキリの首を折り曲げれば「キエェェェェェ!!!!」との断末魔。
そこを聖女の魔力で囲い込むと、木の上に飛び乗り遠距離操作で両手で小さく小さくしていって…、両手を閉じて〝パンッ〟と鳴らせば、光の粒子となり消えていった。
「……聖女。何故邪魔をした……やつは俺が…倒す」
「この至近距離で攻撃してきそうな相手に弓で?…それは無謀なことね」
腕に傷でもつけられたのか血が滲むその姿から距離を取れば、先程の表情が乏しかったのも嘘のようにしっかりと此方を睨む。
「聖女の…力さえあれば…俺も…」
「あなたも甘えん坊の僕ちゃんね。己で磨き、己で努力して、己で改善なさい。では!!!」
つまりは『緑も自分で頑張れッッッ!!』と言い残し、此方を見るその目を無視して木々の隙間を抜けて、遠回りしてまたトイレの窓から入り込む。……いや、正義のヒーロー?的なやつやってんだから、もう少しなんかいい場所ないかなぁとは思うけど、学園の各場所にあって、個室で、間違いなく監視の目がないトイレこそベストポジションだと、校章を付けながら胸のトイレットペーパーを出して水に流し、ささやかな悲しみと共に身支度を整えて廊下に出る。
「……逃げろと…」
トイレから出た所でバッタリ☆
これはヒロイン属性の強制力かしら!?
「こ、怖くて…逃げ込んでました…?」
思わず疑問系になったのは致し方ないと思えば、緑くんが「…そうか…」と納得してくれて……そのまま無言の時間が過ぎて……間がもたない!!!
「では私はこれで…」
そそくさと帰ろうとすれば…やっぱりついてくるぅ〜!!
「あの…あの大きな昆虫?は、先輩が倒してくれたんですか?」
「………違う。…聖女だ……」
逃げるのを諦めて話しかければ、悔しそうに少し眉を寄せて呟く姿に良い人なのだと思う。どこぞの赤いヤツなら「そうだ!俺が倒した!」とか言いそうだし。さほど話したことないし勝手なイメージだけど。
「そうですか」
「…すまない」
謝れた意味がわからずその高い背を見上げれば、
「逃げろと…言ったのに、俺一人では…逃がせなかったかもしれない」
この人!!!いいやつじゃない!?
思わず好感度が上がり笑みを返せば、
「聖女の力を手に入れて…次は必ず…」
ハイ!!即超絶ミラクル好感度ダウン!!!!!!!
「そうなんですかぁ〜?」
引き攣りそうな笑みを堪えながら、意味がわからないと首を傾げれば、「……なんでもない」と虚空を見つめて返された。
(そのまま虚無へと帰ってしまえ!!!!)
そう心で悪態をついたのは乙女としてしかたない。
三原色トリオは、感想で頂いた渾名?からアイデアを頂き付けさせて貰いましたwwはむはむはむはさん、ありがとうございます!