1.聖女ちゃん降臨
「おい!!!聖女が出たぞ!!!捕まえろ!!!」
「あはっ!そんな簡単に捕まらないわよ!」
視界を妨ぎそうな仮面をつけていながら、軽々としたバク転でその身を捉えるための縄を交わし、警備隊の手からは壁を蹴り空を舞い、その多くの手に捕まる事なく高い高い塀の上へと飛び上がり、月をバックに投げキッスをして、
「国民に幸多からんことを」
白銀のポニーテールをたなびかせ、決め台詞を残して彼女は消える様に飛び降りた。
****
私、ナタリーは知っている。
ここが前世でやっていた恋愛ゲームの世界で、私がヒロインの聖女であることを。
8つの頃、弟の怪我を心配して触れた時に聖女の魔法が発動し、地方のしがない伯爵令嬢からの学園ラブストーリー。
ヒロインである私は見た目は少し金に近い茶色の髪で、その辺に居るにしてはちょっとだけ可愛いくて、多分化粧をすれば化けるタイプ。そんな私の周りにはこの春に入学してから色々なタイプのイケメンが集まってくる予定。
だが!!!
聖女なんぞ私は 断 固 拒 否 する!!!
わたしは弟の怪我の際にゲームの記憶が蘇り、使い掛けた聖女の回復魔法を慌てて強制終了させ、弟のちょいと深い程度の怪我なんぞツバつけとけば治るしと、その場で使用人に手当てをして貰った。
でも雑菌が入って炎症でも起こしたら可哀想だと、弟が寝入った先でこっそりと7割くらいは回復させておいたのはナイショの話。
そう!!私は心から聖女なんぞやりたくない!!!
本来のストーリーはこうだった。
この世界は数百年ごとに魔の力が蔓延り、作物が育たないなどの影響が出て、そして負の感情が高まればそれが更なる魔獣を呼び被害が広がっていく。
それを食い止めるのが、メインヒーロー達と、わたし「ナタリー・フォレスター」だ。
高等学園に入学した頃より魔の連鎖が始まり、それをなんとかしに行くのが、学園からのエース達。
代表は第二皇子の「フランツ・ベルティエ」と愉快な仲間たち+聖女ナタリー
会話パートで好感度を上げつつ、アクションパートで男の子達の能力向上魔法に回復魔法。
そして魔物の元まで行き、聖女の力でそれを抑えて一つのイベント終了。
そして学園に戻って学園長に報告して、身体に入れた魔を聖杯に入れる事で魔が聖へと変わり、その地が潤いを取り戻していく。
……的なやつを何度か繰り返す。
赤毛の偉そうな皇子が、
「お前は俺様が居ないとな」
青髪のインテリ美形眼鏡が
「アナタはワタシのモノです」
翠髪のロン毛無口が、
「…危ない…油断するな…」
その他諸々出てくるけど割愛。
とりあえずゲームはクリアしてたけど…結論は、俺様キャラしか居ない。しかもSキャラ。
いや、そりゃぁね、イケメンで生まれて人一倍の魔力を持って、剣やら弓やら魔法やらの才能があって、チヤホヤされて育ったなら偉いと勘違いしても仕方ない。
ついでに闇商会的なやつからのキャラも、やっぱり俺様だった。
そしてなによりも好きなタイプは居ないのに、このゲームはR18。
…………。
怖いよ!!!!怖いよ!!!!!
お母さぁぁぁ〜〜〜〜〜ん!!!!!!
タイプでもないやつに手込めにされて、色んなところでアハ〜ンウフ〜ンイヤ〜ンバカ〜ン。
無ーーーー理ーーーーーー!!!!!!
ゲームなら他人事だけど、ヒロインに転生とか地獄か!!!神様仏様、前世で何かしましたか!?
…とはいえこの状況から聖女である私が逃げ出せば、この世界は魔に侵され、手に負えなくなる。
実際ゲームでも会話パートで失敗すると戦闘パートで苦労し、負ければシレッと町が消滅。
ア・ホ・かーーーーー!!!
ってなるよね!ヒーローのご機嫌次第で数百人数千人の命が失われるとか意味分からんし。
しかもチュートリアルは入学式に起きて、チュートリアルだって言うのにハードルは高く、失敗すれば体育館が潰されて数十名の生徒が…しかもその中には私の幼馴染の男の子まで……なんて、冗談じゃない。
そして考えて考えて、ヒーローを誰かに絞りえっちぃ展開とかその辺を最低限にしてとかいっぱいいっぱい考えたけど、やっぱり嫌だ!!!
だってここは元々ゲームかもしれないけど、わたしはその幼馴染のアルフが好きで、でもその彼を守る為には………待てよ。
聖女の力は回復魔法は兎も角、能力向上…つまりは身体能力を上げる?
有難いことに前世で新体操とやらをやっていた経験がうっすらと残っていて、私の運動神経はなかなか良いと思う。
8歳でゲームの記憶を思い出し、身を守る為に弟よりも先に父の特訓から騎士団に混じり剣技や弓矢の稽古もつけてもらってきた。
「身体能力強化・身体能力強化・身体能力強化」
自分の胸に手を当てて魔力を流し、ダメ元で自分を強化して軽く跳んでみる。
ゴッッッッ!!!!
…あ……頭…打った!!!!!
10メートルはある我が家の自慢のダンスホールの天井に頭をぶつけて、落ちてピクピクと床に這いつくばる。
「これは……一人でいけるのでは?!」
そう思ったのが今日のダイジェスト。
お読みいただきありがとうございます!
元気に邁進するヒロインの物語です。
どうぞ応援お願いいたします!