新しい物
文花は悩んでいた。
それは
花も恥じらう美少女である自分に。
或いは
資産家の令嬢である自分に。
もしくは
文武両道、品行方正なのに気さくで話しやすい。
である自分に
薄幸の(美)少女を演じられるのか、と。
「だいたいマッチなんて使い方も知らないし」
変えてしまおう。それが新しい物語の始まり――
◇◇◇
都内のお嬢様学校に通う女子高生の文花は、このところずっと塞ぎ込んでいる。と言うのも、学園祭で行う演劇の主役に抜擢されて以来
――共感できない。
と思い悩んでいるからだった。
(どうして役に入り込めないの)
演じたいと。表現したいと思えないのだろう、と。
この物語の少女のように、祖母も母親も文花にはいなかった。
母親が他界してから、父親の人が変わったようなのも同じ。
母も、祖母のことも。文花は慕っていた。
(そもそも、「情」と「欲」が真逆なのよ)
少し尖らせた口元は桃色の、不満げに揺れる髪と瞳は薄茶色。
滅多な事に、天然パーマが良い仕事をして。ゆるふわロングとくるりん睫毛を造り上げている。
ロココ調の普段着を纏うそれらは、ビスク・ドールのさながらに。
High・society(上流社会)に生きる令嬢文花は、内面も外見も"普通"を遙かに解脱していた……。