ナーム村調査3
「斥候としての技術はあるか?」
「……魔導で《風読み》を使えば周囲の変化や匂いを感知できる」
「なら俺が前、レイが後ろの隊列にしよう。俺は前方の痕跡の追跡と罠の警戒。レイは後方と左右の警戒をその《風読み》でしてくれ」
「わかった」
レイが一言、二言を呟いた後静かに頷く。こちらは左手に盾と投擲用の武器を構え、右手に剣を携える。
森というほどではないが、それなりに生い茂った木々や草花は視界を遮るには十分。少々面倒だが、身長に草葉を分けながら進まなければいけない。
「ここからは索敵を行う。いつ会敵してもいいよう武器を構えておけ」
剣で草や土を払い、慎重に進む。光の加減を見て紐の類がないか、落とし穴の類がないか。30分ほどかけて山の麓まで探索したところで小休止を取る。村の近くと違い、足跡や傷跡などが多くなってきていることから巣ないし集団に近づけているのだろう。少し気になるのは、動物の住んでいる痕跡がほとんどないことだろうか。
「風読みはあとどのぐらい保ちそうだ?」
水を飲んでから尋ねると、少女は少し間をあけてから小首を傾げた。
「解除しない限り、この状態は維持出来る」
「んん? そうなのか??」
魔導は精霊の力を使ったものだから、もしかして本人の力量に起因しないのか?
こちらの問にレイは素直に頷き、そのまま口を開くことはなかった。
「デメリットはないのか?」
「他の魔導が使えない」
「だめじゃん!!」
致命的といってもいいレベルのデメリットがあるじゃねぇか!
というか、魔導ってそんな性質を持ってたっけ?
「か、解除したら、使えるから!」
少々不躾にみていたらしい俺に、レイは慌ててそう反論してきた。
「じゃ、他にはどんな魔導が使えるんだ?」
「……《風纏い》と《追い風》が使える」
「ん? それはどんな効果のやつだ?」
「《風纏い》は体に風を纏わせて足元の悪さを軽減したり、毒などを吸わないように出来る。《追い風》は行動速度が常に向上します」
なるほど、戦闘時は《追い風》で補正してのインファイトか。魔導の全部が補佐能力で直接攻撃がないから、という事情も入っているのか?
「それも、一つ使ってる状態だと他の魔導は使えないのか?」
「うん」
短い肯定の言葉を聞いて、もう一度心の中でなるほどと頷く。師匠から聞いた話では精霊と契約した数や質、もしくは加護の強さによって魔導師の力量が決まるらしい。
契約、もしくは加護を貰っている精霊の強さはまだ微精霊レベルなのだろう。
「まあ、神秘を全く使えない俺より、よっぽど優秀だ」
レイを見ながら独り言ちるも、本人には聞こえていないらしく微動だにすることもない。
篭手と剣をしっかりと持ち直して腰を上げる。十分に休めたし、そろそろ出発してもいいだろう。
「いくか」
「……うん」