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隠れ巨乳という名の魔術

 思ったより少女の力が強く、転びそうになるのを堪えながらついていくと、

「この辺まで来れば大丈夫だろう、レナとマリーは後ろを見張ってな。風俗街が近いから、連中子飼いの用心棒が来るかもしれない」


 ツリ目の少女は俺を壁に押し付け、着ていたぼろ布を強引に剥ぎ取った。


「なかなか上玉だな」

 そして鼻息を荒げながら、俺の体を触り始める。


「ミッシェルずるいわよ、ちゃんとあたし達にも回してね」

 仲間の一人の青髪の少女が、潤んだ瞳で俺の身体を眺める。


「焦んなって…… あたいの後で、たっぷり味わわせてあげるから」

 ミッシェルと呼ばれたオレンジ色の髪の少女は、チューブトップに詰め込まれた大きな胸を擦り付けてきたり、俺の体を嬉しそうに舌で舐め回した。


 一応俺も抵抗したが、魔法の力ってやつだろうか? 全く身動きが取れない。

 しかしこれ、見つかったら罰せられるのは俺の方だろう。


 淫行罪とか強姦罪とか。

 女から男への性犯罪はなかなか立証しにくいと聞いたことがあるし、しかも相手はかなりの美少女…… どう考えたって分が悪い。


 ミッシェルちゃんのチューブトップに押し込められていた大きな胸は、もう完全に溢れちゃっているし、自分でホットパンツを太もものあたりまで下ろしちゃっている。おかげで可愛らしいピンクのパンツも全開だ。


 それとも怖いお兄さんが、これをネタに恐喝してくる…… 美人局ってやつだろうか。


 可愛らしい顔を上気させて俺を襲うミッシェルちゃんを見ながら、そんなことを考えていたら、

「そこまでだ! 大人しく両手を上げろ」


 案の定、凛々しい女性の声が聞こえてきた。

 ……ん? 女性??


「ちっ、風俗ギルドの用心棒か」

 ミッシェルちゃんが慌ててホットパンツを上げて走り出す。


 相当急いでいたのか、張りのあるつんと尖った胸は溢れたままだ。

 大丈夫なのだろうかあれ。 ――ブルンブルンと揺れておりますが。


 何かと心配でなりません。


 残りの二人もミッシェルちゃんを追って逃げ出し、俺はようやく金縛りのような拘束から解かれる。


 何とか言い訳しようと、現れた女性を見ると、

「災難だったな…… まあ、その、と、とりあえず服を着てくれ」

 照れくさそうに視線を外しながら、俺に向かってぼろ布を放ってきた。


 ミッシェルちゃんが高校のアイドルだとすると、その女性はミス・キャンパスって感じの美女だった。


 銀色の美しいストレート・ヘアは腰の中ほどまであり、前髪は揃ったオンザ眉毛。城で見た兵士に似たスタイルだったが、防具のあちこちに傷があって歴戦の猛者を思わせる。


 そして手には、ライフルのようなものが握られていた。


 うん、剣と魔法の世界ならその辺も統一してほしいな…… と、そんなどうでもいいことが頭をよぎる。


 俺がぼろ布を身にまとうと、

「そんな姿じゃ、またいつ襲われても不思議じゃない。と、とにかくついてきなさい」

 その女性は恥ずかしそうにチラチラと俺に視線を向けて、顔を赤らめ、俺の顔を見ると驚いたように口をパクパクさせ、一瞬真面目な顔になると射抜くような視線を投げてきた。


 ゲームなら、ここで美少女を救うようなイベントが起きるだろうと考えてたけど……

 これじゃあ男女が逆だ。



 やっぱり何か色々と、ズレているような気がしてならない。



  +++  +++  +++



「つまり帝都城の勇者召喚に巻き込まれて、ここに来たというのか」

 ミス・キャンパスの名前はニーナさんと言うそうだ。

 彼女はこの城下町の繁華街を取り仕切る『風俗ギルド』の用心棒らしい。


 俺の素性を訪ねてきたので、とりあえず城であったことをかいつまんで話すと、そう呟きながら腕を組んで首をひねる。


 ここは彼女が所属するギルドのカフェの一つだそうで、 ウェイターたちがせわしなく働き、テーブルには女性客が溢れていた。


 インテリア全てに高級感があるし、タキシードのようなウェイターの服装にも高級感がある。そして客も店員も彫りが深く、やはり美男美女ばかりだ。


 俺はぼろ布の袖を合わせ、場違い感に身を縮こまらせる。


 優雅に座るニーナさんはその中でも目立つ美女だったし、服の胸プロテクターを外すと、ドンと音を立てて胸が盛り上がった。


 着やせするタイプ? いやもうここまで膨らんじゃうと、これは隠れ巨乳という名の魔術かもしれない。


 なんだかいろいろとファンタジーだ。


「こう見えても私は元帝国の騎士だ。昔の同僚から今日『召喚の儀』が行われたと聞いてはいたが…… まさかそんなことが」


 可愛らしく首をひねるニーナさんに、

「何か問題でも」

 俺が声をかけると。


「そもそも勇者というのは女性だ、魔力のない男が勇者になっても魔王を討伐できるわけがないしね。それに二人同時というのも、聞いたことがない」


 ニーナさんの話によると、この世界ではどうやら魔王というのが暴れていて、人族最大の国家『帝国』は、何十年も前からその魔王を倒すために勇者を召喚している。しかし未だに魔王を討伐した者はいないらしい。


 魔王云々の設定は元同僚の下柳から聞いていた「テンプレ」パターンだったから驚かなかったが、

「男には魔力がない?」

 なんだか聞き慣れない設定も、そこには混じっていた。


「そうか、あなたが異世界から召喚されたというのが本当なら、あちらは男女ともに魔力が存在しない…… 男性社会だと聞いている」


 魔族は年に一度、大規模な人族討伐に打って出る。

 そしてその度に、勇者は魔王に命を絶たれているらしい。


 そのため帝国では年に一度『召喚の儀』を行い、勇者を招いていた。


 魔王が討伐されなくても、勇者のおかげで人族の被害は軽減するし、大規模に魔族の数が減らせられるそうで、牽制と世界のバランスをとるためにも必要だとか。


 そしてニーナさんは騎士として先々代の勇者まで、ともに魔王と戦った経験があり、

「その際、色々な話を時の勇者殿から聞いてきたが」

 多くの勇者は魔法文化よりも女性中心の社会に驚いたそうだ。


 この世界の技術は過去の勇者から伝えられたものも多く、

「このライフルも異世界伝承のものだ。この世界の物質では爆発力を持つ薬品を作ることができなくて、弾丸を魔力で発射しているが、やはり剣に比べて殺傷力が高い」


 銃は火魔法属性の中でも特殊な能力者しか使えないらしく、使用できれば上位能力者として重宝される。


 ガス・バーナーやビールサーバーのようなものも、異世界技術と魔力を組み合わせた『新魔法』と呼ばれる技術が生み出したもので、

「帝国が勇者召喚を辞めない理由のひとつだ」

 そうなっているらしい。


 俺がアニメやゲームに詳しくないから最新の情報には疎いが……

 確かにそういう理由を持ち込めば、あの異世界アニメやゲームの独特の世界観が説明できる。


「チュートリアルありがとうございます。しかし、男女の価値観が逆転かあ」

 そんな設定は、あの変態ロリ・オタクの下柳からもの聞いたことがない。


 まあきっと、あの手のコンテンツは世に溢れていたから、探せばあっただろう。

 下柳の性癖と合わなかっただけかもしれない。


 俺が悩みこんでいると、

「チュートリアル? まあそこは追々説明するとして…… あなたの話を疑うわけではないが、私は遊郭から逃げてきた人間を立場上捕まえなくてはいけない。せめてその、何か証拠になるものはないか」

 ニーナさんが申し訳なさそうに尋ねてきた。


「証拠と言っても」

 持ち物はすべて剥ぎ取られてしまったし、 今あるものといえばこの体ひとつ。

「そういえば、変な烙印を押されたな」

 それは証拠になるのだろうか。


「帝国が押した烙印なら、何らかの魔術的な戒めがあるはずだ。それがあなたの状況証明になるだろう」


 ニーナさんの言葉に、俺が背中を向けてぼろ布をずらしたら、

「公衆の面前でそんな、あ、あなたのような美しい男性がはしたない」

 彼女は顔を真っ赤にしてうつむいてしまうし、カフェの女性客達がちらちらと俺を盗み見た。


 なんだかまだこのノリにはついていけない。

 もういっそのこと、全裸でテーブルに飛び乗り踊りだしたい心境だ。


 ――まあ頼まれてもしないけど。


「確かに帝国の烙印だな。しかもチラリとしか見なかったが、高度な呪術がかかっていた」

 あたふたしながら早口で言うニーナさんは、どこか可愛らしかったので良しとしておこう。


 運ばれてきたケーキも、なかなか美味しかった。

「よければその、私の屋敷に来ないか。女の一人暮らしで散らかってはいるが、行く先がないのなら匿うことぐらいはできる」


 しかも嬉しいお誘いまで受ける。


 男女の価値観が逆転しているのなら、これはある意味危険な話かもしれないが、なにせこの変な夢の中で初めて人間扱いしてくれた人だ。


「助かります」


 俺が笑顔で答えると、ニーナさんはまた顔を赤くしてうつむき、

「安心してくれ、やましい誘いではない。ただいくつか心当たりがあって」


 言い訳がましく、もじもじしながら呟く。



 その真面目な態度や整った顔は、どこか俺の高校時代の恩師に似ていて……

 なんだか少しほっこりとさせられた。

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