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目からビーム

 ガラス戸をぶち破って飛び込んできた金髪美少女は、神官服の短すぎるスカートをひるがえしながらベッドの横に着地すると、


「随分と魔族臭いですね」


 錫杖をぶんぶんと振り回し、聖女様を睨み付ける。

 ……もう、スラリとした透き通る太ももと白いレースのパンツが全開だ。


「あらあらシャーリー修道生、お久しぶりね。それともエリザベータ・トゥ・マルセス様とお呼びした方がいいかしら」

 余裕の表情を崩さない聖女様に金髪美少女が眉をひそめる。


「どちらでも構いませんよ、でも…… もうあなたをどう呼んだらいいのか分かりません」

 そして錫杖の先を聖女様に向けた。


「まあそんな、修道院ではあんなに可愛がってあげたのに」

 その言葉に金髪美少女の頬がひきつる。


 表情から、どんな可愛いがり方だったのかなんとなく想像がついた。


 金髪美少女が小さく呪文を唱えながら錫杖で鋭い突きを入れると、聖女様から幾つかの魔法陣が輝き、ドンと言う鈍い衝撃音が響く。


「悪くない攻撃ですけど、まだまだね」


 錫杖は聖女様の顔面ぎりぎりで止まっている。

 そしてニヤリと笑った聖女様が反撃に出ようと、ゆっくりと立ち上がると……


「所詮教会の教えなんてこの程度ですね、じゃあこんなのはどうですか」

 金髪美少女は何のためらいもなく錫杖を捨て、呪文を唱えると魔法陣を輝かせた。


 それは真美ちゃんが着替えに使う魔法陣と同じ、――収納魔法。


 金髪美少女は何もない空間から大きな物体を引きずり出すと、それを肩に担いで標準を合わせる。


「これならあんたにも効くかもって、あの腐れ巨乳ちゃんが言ってました」


 ロケットランチャー? だろうか。

 戦争映画でしか見たことがない兵器を器用に操作すると、


「へっ?」


 驚きに口をぽかんと開ける聖女様めがけて、金髪美少女はニコニコ笑顔のまま迷わず引き金を引いた。

 それって、間違っても人に向かって撃つものではないだろう。


 映画でも戦車やヘリに対して使用していた気が……


 キーンという甲高い音と共に部屋中が赤く染まり、周囲の音がすべて消える。

 爆発音で俺の鼓膜がおかしくなったのだろう。


 何とか視力は奪われなかったようだが、光が治まると辺り一面が白い煙に覆われ、どこに何があるのか判断ができない。


 しかし…… あんな兵器が出てきた以上、真美ちゃんが近くにいるのは間違いない。

 俺は慣れ親しんだ部屋を手探りと記憶を手掛かりに歩き、なんとかクローゼットの扉を開けて仮面を手に取る。


 着替えが終わり、煙が晴れた頃…… ようやく音が帰ってきた。


「相変わらず常識の無い女ね」

「聖女様に化けていたデーモンに言われたくないです」


 見るとそこには、昨夜採掘場跡にいたボンテージ姿の悪魔がススだらけになって立っていた。対して金髪美少女は前もって何らかの魔法で防御したのか、汚れひとつない。


 やはり……

 あの空気全体が痺れるように冷える感覚は、この悪魔の魔術だったのだろう。


 状況が上手く理解できないが、金髪美少女は確信をもって行動している。

 今日ニーナさんと彼女は、この件の話をしに来てくれたのだろう。


 後で確認が必要そうだ。


 悪魔は金髪美少女を睨みながら、ススと同時にパリパリと音を立てて体から氷のようなものを落とす。


「ポンコツの話だと、あなた魔王四天王の一人『氷結』じゃないかって」

「だったらどうなの」


「前々からあなたのような若作りのババアは嫌いでしたけど、これで堂々と仕返しができます」


 ロケットランチャーをポイと捨てて、また何もない空間に手を突っ込むと、金髪美少女は燃料タンクのついた大きな金属筒を取り出した。


「この火炎放射器は四千度まで温度を上げれるそうですよ。あなたの氷結とどちらが強いか試してみませんか」

 とっても素敵な笑顔でそう言ったが…… あの目は本気だ。


 ただでさえさっきのロケットランチャーで部屋中無茶苦茶な状態なのに、そんなものを利用されてはかなわない。

 このままじゃあ、館ごと炭に変えられてしまう。


「ここは俺に任せろ」


 何とか俺は二人に割って入った。


 破れた窓から外を確認すると、ニーナさんが対面の建物の屋根で身を伏せ、魔法銃を構えながらこちらを見ている。


 それならこちらの意図を汲んでもらおうと、俺がカッコ良いポーズを決めると……

 腕をブンブン振って、投げキスを返してきた。


 身を隠すスナイパーとしてアレで良いのかどうか心配だし、意思疎通ができたかどうかやや不安だが、


「仮面のマッスル見参!」

 俺がそう言ってもう一度カッコ良いポーズをとると……



 ――何故か悪魔と金髪美少女は、とても悲しそうな顔をした。



  +++  +++  +++



 俺が高校生の頃。


 寝技の稽古が多いのが不思議で、そのことについて聞くと、

「寝技に偶然なしと言う。まあ、あたしに言わせれば格闘技に偶然なんてないのだが……」


 戦略や策略が複雑に絡み合う立ち技より、その要素…… つまり単純な技の駆け引きに限定される寝技の方が、俺の場合負ける要素が少ないからだと、先生は言った。


「アキラ君は素直過ぎて、策略に引っ掛かりやすい。不用意に突っ込む癖はなかなか治らないしな。まあ、そこが良いところでもあるのだが」


 そう言って笑った先生の顔がふと目に浮かぶ。


 その後、

「別に変な趣味や邪な狙いがあるわけじゃないからな」

 急に顔を赤らめてモジモジしだしたのは謎だったが。



 以来俺は事前の準備を怠らないよう心掛けてきた。

 情報収集やそれを基にした対策など……


 しかしそれが上手くいかない事もある。

 今のように状況が目まぐるしく変化する場合もそうだ。


 俺は出来るだけクレバーに、思考をフル稼働させた。

 決して敵の策略に陥らないように。



 俺のカッコいい見参ポーズ…… エレッタちゃんたちにダメ出しをもらいながら、十日以上特訓した姿を見たニーナさんは、窓の外で「ピュー、ピュー」と口笛を吹きながら大きな声援を送ってくれた。


 自己主張の強すぎるスナイパーも微妙だが、ファンは大事にしようと手を振り返しておく。


「もう作戦とかどうでもよくなってきました」


 金髪美少女は何故かへこんだが、ここでしなくてはいけないのはこの悪魔の確保。

 前回はうまくいかなかったが、彼女たちは対策を練って来たようだ。


 ならそれをフォローするのが俺の役目だろう。


「やはり死んでもらうしかないね」

 悪魔がボンテージ衣装からはみ出しそうな胸をボインと揺らし、俺を指差す。


 凍結でもさせようとしたのか、指先から出た魔力が俺を包むと、体が妙に冷たくなった。


「マッスル・ハート!」


 俺はボディビルのポージングであるサイド・チェストから流れるようにバック・ダブル・バイセップスを決め、燃える紳士のハートを身体中に巡らせる。


「相変わらず意味がわからない」


 後ろから妙な声が聞こえたが、

「タックルで一度あの悪魔を倒し、前回のように身動きできないようにする。その後の作戦はあるか」


 金髪美少女に確認を取ると、

「それならいけます」

 少女の自信に満ちた言葉が返ってきた。


 悪魔に向かって低い体勢でタックルを決め、袈裟固めから横四方固めの連続技に入る。


「なんで魔法が通じないのよ」


 しかし半泣きだった悪魔は、徐々に顔を赤らめ……


 前回同様俺の下半身に手を回し、ハアハア言いながら爆乳を押し付け始めた。

 このおっぱい攻撃はバカにできない。


 ムニュンとかボインとかいう感覚が、ジリジリと俺の精神を削っていく。

 悪魔の精神攻撃だろうか。


 いくら駆け引き要素が少ない寝技とはいえ、スキが出来れば致命傷になりかねない。


 俺がこの後どうするのか確認するために金髪美少女を見ると、整った唇からヨダレを垂らしながら、その美しい瞳をキラキラと輝やかせていた。


 これはこれでエロ可愛くて、来るものがあったが…… 状況的に美少女の醜態観測を楽しむ暇がない。


 仕方なく催促するように何度か視線を送ると、

「あっ、そうじゃなかった!」


 金髪美少女はハッと我に返る。

 ……これも悪魔の精神攻撃の仕業だろう。


 少女はヨダレを袖でふき取り、何か魔力的な仕掛けでもあるのか…… 瞳の輝きを増した。もう、目からビームでも出そうな勢いで。


「見えました! 今です、離れてください」


 その声に合わせ、悪魔的魅惑のおっぱいから体を離すと、

「はあ!」

 金髪美少女は何もない空間から大剣を取り出し、裂ぱくの気合で悪魔に向かって突進する。


「やはり目覚めていたのか」

 そう呟きながら、悪魔が前回と同じように体を揺らめかせながら消えかける。


「待ってました」

 それに合わせて、割れた窓から顔を出したニーナさんが構えていたライフルの引き金を引く。


 真っ赤な閃光が悪魔の体に当たり、悪魔のシルエットが薄れた瞬間……


 俺は反射的にそのシルエットに体当たりした。


 見間違いじゃなければ、消えかけた悪魔は待っていたとばかりに微笑んだからだ。しかもその瞳は青く、凍てつくような光に満ちている。


「せっかく忌まわしき一族の血を絶やすチャンスだったのに」

 そしてその輝きが目から発射され、障壁となった俺の身体に吸い込まれてゆく。


 悪魔のそんな声を聴きながら、身体が氷のように固まってゆくのを感じた。

 不用意に飛び込んだせいか、マッスル・ハートも間に合わない。


「しまった!」「何が起きたの」

 ニーナさんと金髪美少女の声がどこか遠くから聞こえてくる。


 消えかかる意識の中、何とか目を開けると……

 目の前にどこか懐かしい顔が見えた。


「あれ程不用意に飛び込むなと言ったのに!」

 その叫びに思わず、



「先生」

 ――と、俺は呟いた。

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