表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第2話「八つ当たり一対一」

「俺、如月の事が好きなんだ」


 如月は俺の渾身の告白を聴いた後、スっと目を細めて


「ごめん。永瀬君の事、そういう風に見てなかった。でも、告白はありがとう......」


 ........................ですよね。ですよね。


 こ、これが普通なんだ。学校一の美少女が俺の告白を受けてくれただけでも十分なんだ。


 そう、そう、そう......。


「......ちなみに如月は誰の事が好きなんだ?」


 ここまで来たら俺の心を抉ってもらって終わりにしよう。キッパリとケジメを付けるんだ。


「......す、凄いね永瀬君は。......振られて心が痛くならないの......?」


「......もちろん痛いさ。でも、なんとなく分かってたから。ここでズルズル引きずっても格好悪いだけだし、如月の好きな人聞いて諦めようと思ってな......」


 俺はもはや投げやりだった。俺の恋は終わったのだ。

数ヶ月の間培ってきた恋は認められなかったのだ。


「やっぱり、凄いね。......私の好きな人はね......」


 俺はドキドキする。如月さんの方が恥ずかしいはずなのに......。


 そういえば、龍司。手伝ってくれたのに振られたって分かったらどう思うのかな......。


 悪いことしたな......。


 しかし、俺はこの後思いもよらない事を耳にする。


 それは、如月の口から発せられた一言。

 俺を地から地獄へ叩き落とす一言。


「私、巽君の事が好きなの......!」


「えっ......」


 龍司?なんで?

 アイツ彼女いるだろ?


「もちろん、巽君に彼女がいることは知ってる。でも、いつの間にか好きになっちゃってた。彼には恋人がいるから告白しても振られるに決まってる。永瀬君はこんな状況でも勇気を振り絞って凄いなって......」


 俺を気遣う言葉なんて耳に入ってこない。

 それよりも何故龍司なんだよ!


「なんで龍司なんだ?」


「私、バレー部だからたまにバスケ部の練習が見えるの。その時の姿に惚れちゃった」


 俺は呆然とするほかなかった。

 もちろん怒りは沸く。ただ、それは龍司に向けて良いものか。


「じゃ、じゃあね。これからも友達として宜しく......ね」


 如月は俺に一言告げ、屋上から去る。


 屋上に吹く風は俺だけを通り過ぎる。


「あはは............」


 1人で苦笑するが、内心はもっと酷いものだった。


 何がバスケの姿に惚れただよ......。

 だったら............。


 俺は屋上からある場所に向かって飛び出す。

 向かう先は――


「おう、佑か。どうだったんだ?」


「なあ、龍司」


「なんだ?そんな暗い顔して。失敗したのか?」


「俺と一対一(ワンオンワン)で勝負しろ!」


 ――俺は体育館に来ていた。

 八つ当たりなのは分かってる。でも、何もせずには居られなかった。


「いいけど、手加減はしねえぞ?」


「願い下げだ」


 ルールは一点先取に決まった。

 もちろん、試合後の疲れた龍司VS体力は有り余っている俺。

 ボールも俺が持ってスタートだ。


 しかし、相手は高校一年でスタメンを獲得。対して俺は――


「いいんだな?」


「ああ」


 龍司は俺の良い親友だ。俺の辿ってきた道なんて全て知っている。


 ダンッと龍司にバウンドパスをして返される。

スタートだ。


「なんだアイツは?」

「さあ?知らない」


 観客はかなり居た。先程の試合のだが。


「あ、私知ってる。あの子ってたしか......」


 ――元バスケ部員。


 中学時代、俺は龍司と同じチームだった。

 全国大会出場経験があるほど有名でもあった。


「今はやってないらしいがなんでだ?」

「そこまでは知らないな」


 周りは一切の緊張のない会話を繰り広げるなか、コート内は熱気が溢れていた。


 右からも左からも突破出来ない。

 当然だ。俺には数ヶ月分のブランクがある。


 フェイントも全て見切られている。これではどうしようもない。


「どうした?お前の実力はこんなもんだったのか?」


「ああ、こんなもんさ。ブロックの1人も抜く事出来ないまでに落ちぶれた......」


 このまま体力勝負に持ち込まれると圧倒的に有利なのは龍司だ。

 早めに決着をつけなければ......。


 そう思えば思うほど焦りを感じる。


 そして、この白熱した戦いを見物している者は皆、龍司の応援へと化していた。


 同時に勝負の状況も龍司へと傾いていく。

そんな時......


「巽君頑張れー!」


 数ある応援の中からある1人の声が聞こえる。


 如月芽衣。


 そりゃ当然だ。好きな相手なんだから。


 でも、俺も女々しい奴だ。

 振られた相手の声だけを脳が一瞬で区別した。


 その勢いに押されてか、俺は一歩龍司から遠のく。


 どうせ、負ける。なら、格好付けて終わらせよう。


 俺はコートのハーフライン辺りからロングシュートを放つ。

 もし、これが入ったらまだ如月の事は諦めないでいよう。外れたら諦める。


 少し前に諦めたはずなのだが。

 恋とは恐ろしいものだ。


 俺の放ったボールは放物線を描く。

 龍司は目を大きく見開いたまま、視線はその軌道へ吸い込まれる。それはまた観客も同じく。


 入るわけない。絶頂期ですら入るかどうか怪しいラインなのに。


 しかし、龍司の口からは真逆の言葉が発せられる。


「俺の負けか、やっぱりお前には敵わないな」


 ストン、とゴールと華麗に挨拶する。


 体育館はしんと静まる。応援対象であった龍司が負けたのだ。俺もさっさと去ろう。

 その時、


 パチパチパチと拍手。


 その音はどんどん大きくなり。いつしかガラスが割れそうなくらいに鳴り響く。


「やっぱり凄いわ、佑は。......もう1回始める気ないか?」


「......考えておく」


 ◇◆◇


「それで俺に挑んできたわけか」


 俺はあの後、龍司と一緒にファミレスに訪れていた。


「ごめん、完全な八つ当たりだ」


 いつか如月にも謝らないといけない。龍司にバラしてしまったのだから。


「残念ながら俺は如月に告白されてもNOだな。俺は舞奈(まな)が一番だもんで」


 舞奈とは龍司の彼女、天谷舞奈(あまやまな)である。俺は彼女を見た事はないが、その存在は誰もが知る。

 なんてったって大人気龍司の彼女なのだ。


「はいはい。惚気は受け付けんよ」


「ははは......それにしても困ったな。まさかあの如月が俺を好きだなんて。モテる男は辛いねえ......」


 言葉とは裏腹にかなり神妙な面である。


「しかも、惚れた理由がバスケの姿だとさ。もう1回始めようかな」


 と、自虐を交えつつ空気の重さをはぐらかす。


「歓迎するぜ」


 龍司はニヤリと口角を上げる。

 いつも思う。俺と龍司の性格はかなり似ている。

 しかし、どこかアイツには勝てない気がする。


 ◇◆◇


 翌日、特に昨日のことは考えず、登校する。

 周りから視線を感じるがスルー。


 にしても、筋肉痛がひどい。久しぶりの運動だったからだろうか。

 さらに眠い。立って歩くのがこれほど難しいのは初めてだ。


 ボーッと教室へ向かっていると――


「きゃっ!」


 ――同学年であろう女生徒にぶつかってしまった。これは完全に俺が悪い。


「すみません、大丈夫ですか?」


 俺は一言かけるが、ぶつかった相手は、いえこちらこそすみません、と素っ気なく言って足早に去る。

 忙しかったのであろうと俺も特に意識はしなかった。


 後にこの少女と大波乱があることも知らずに......

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ