第1話「君のことが好きなんだ」
俺こと永瀬佑には好きな人がいる。
それは、学年一、いや学校一美少女と言われている少女、如月芽衣である。
黒髪のショートヘアで真っ白な肌の容姿端麗、いつも学校の上位である成績の優秀さ。さらに社交性まで持ち合わせているが、軽い女という雰囲気は全くない。付き合った事がないという噂まである。
無謀な恋ということは重々承知の上だ、
しかし、あのような事があれば好きになるのも仕方無いだろう。
◇◆◇
それは、数ヶ月前のこと――
「痛ってえ......」
体育の授業でサッカーをしていた時、相手の足に引っかかり盛大に膝を擦りむいてしまったのだ。
そのため、傷口を洗っていた所に彼女ーー如月芽衣が現れた。
「大丈夫?」
同じクラスというだけで喋る機会は全く無かったので、話し掛けて来た時には少々驚いた。
「ちょっと擦りむいただけだ。如月さんこそどうしてここに?」
俺は蛇口の水を止め、身体を起こしながら問う。
「突き指したから、保健室に行こうと思って」
と、後ろに隠していた手を前に出すと、すらっと綺麗で長い指とそのうちの1本が若干青くなっているのが俺の目に飛び込んできた。
確か女子の体育はハンドボールだったはずなので、突き指は珍しくないが色が変わっている事から察するにかなり痛いだろう。
「あ、そういえば今保健室に誰もいなかったんだ。ちょっと待ってて」
「え、うん......」
如月はたじろいでいたが、その姿も可愛く思えた。
俺はすぐに保健室から湿布と氷を取って如月の元へ戻る。
「指、見せて」
痛まないように優しく湿布を貼り氷を置く。
如月は呆気にとられたような顔をした後、にっこりと笑って
「永瀬君って優しいだね」
俺は単純かもしれない。
この笑顔だけで惚れてしまったのだから。
――そして現在に戻る。
「で、お前は如月に告白するなのかしないのかどっちなんだ?」
と、妙に威圧して問いかけてくるのは親友の巽龍司。龍司はバスケ部でアタッカーを務めているので、まあモテる。
彼女持ちなのにまあモテる。
なぜだ......。
「いや、するべきかしないべきかを龍司に聞いているわけで......」
俺はこの憎たらしい程モテる龍司に恋愛相談をしているのだ。恥ずかしい事をしているのは自分が一番理解している。
「それを俺が決めたら佑はその通りに従うのか?これは佑の問題だ。告白の方法なら助言するが、根本は知らん」
こういうところがモテる秘訣なのか、と感心するほどの物言いである。
ならば俺もここは一つ、決断するしかない。
「......龍司、俺やるわ」
「......やるっていうのは?」
「如月に......告白する」
◇◆◇
あれから俺は龍司からアドバイスを貰い、放課後に告白事にした。場所は屋上、「話がある」と呼べば相手も察するはず。との事だ。
そして、今日は計画実行日当日。
俺の心臓は飛び出そうな程バクバクしている。
「おい佑、ビビんじゃねーぞ」
龍司は元気付けてくれる。龍司には本当に感謝しなければならない。今までどういう告白をされたかまで教えてくれた。
成功する確率は20%。
それは如月の性格も含めて考えた俺の予想。
低く思えるが、これでも高く設定した方だ。
1つは俺の今までの頑張り。
実は計画を企てている途中、なるべく俺は如月と接触し、優しくしていた。
女性は案外中身を重要視すると聞いたからだ。
そして、告白の勢い。
これは今日、やるしかない。
............そして、放課後のチャイムが鳴り響く。
俺にとってはさらに鼓動を速める音となる。
「......なあ如月、この後、空いてるか?」
「うん、空いてるけど......」
「じゃ、じゃあ後で屋上に来てくれ。じゃあな」
俺は如月を誘い、足早に去る。
そして、俺は一目散に屋上へ向かう。
頑張れ頑張れ俺!
玉砕はしたくないが、告白出来るくらいの度胸は見せろ!
ーーガチャ。
屋上には誰もいなかった。
それはそうだ。
これも龍司の案で学校で人気の龍司が1つバスケの試合をするというので、皆体育館へ観戦すると言っている。
後は如月を待つだけ。一分一秒がとても長く感じる。顔も発火しそうな程熱くなる。
あの笑顔をまた見たい。
俺が如月を笑顔にさせたい。
惚れた時の事を思い出す。いつの間にか更に惚れ込んでいた。如月を見れば見るほど好きになり、独り占めしたくなる。
そんな時、
――ガチャ。
屋上の扉が開く。
その先には俺が呼び出した如月芽衣がいた。
風で靡いたその髪も一層綺麗に見える。
「永瀬君、こんな所に呼び出してなにか用事?」
「少し相談があるんだ。如月つてよく男から告白されているだろ?」
「まあ、自慢じゃないけどそういう事は何回かね」
「じゃあさ、付き合った事とかってある?」
「あはは......。私、告白された事はあるけど付き合った事はないんだ」
あの噂は本当だったのか。
「へ、へぇ。意外だ」
ここで如月が驚きの一言を放つ。
「私ね......実はね......好きな人がいるの」
この一言が俺の胸に突き刺さる。
そんな情報なんて無かった。でも、もう後戻りは出来ない。
「そうなんだ。どんな人なの?」
「それは......言えないよ」
あはは......と流される。
もし、それが俺なら晴れて恋人になれる。別の奴なら......そんな事は考えない。
もう、決めに行く。
「実は......俺にも好きな奴がいるんだ」
呼吸を1つ置く。
「俺、如月の事が好きなんだ」