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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第2部 『炎の刃と氷の猫』

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第六章 魂が繋がる夜②

 壱妃と弐妃が迫ってきていることなど知る由もなく。

 真刃は、セーフハウスの一室で休んでいた。

 机と椅子、ベッドだけがあるような、シンプルで小さな部屋だ。

 猿忌は霊体で宙に浮き、金羊はスマホに憑依したまま、机の上に置かれていた。スマホの画面にはデフォルメ化された金色の羊のイラストが表示されていた。 

 なお、蝶花は生まれたばかりなので眠っており、赤蛇はかなたの傍にいる。

 ここには、服を着替えた真刃と、猿忌、金羊のみが居た。


「やれやれ、どうにか一段落ついたな」


 という真刃の呟きに、


『確かにな』『色々と忙しい夜だったっスね』


 猿忌と金羊が同意する。

 座った椅子に、真刃はギシリと体重をかけた。

 自室の椅子に比べれば安物だが、今はこれでも落ち着く。

 室内は暗く、窓から月明かりだけが差し込んでいた。

 真刃は、数時間前のことを回想した。


「……()()は一体何だったのだ?」


 ポツリ、と呟く。

 黄金の髪に蒼い瞳。 

 十五歳ぐらいの、天使のような笑みを持つ少年。

 正直なところ、真刃が一歩出遅れたのは、あの少年を見てしまったこともある。

 思わず我が目を疑ったのだ。


 ――鏡映しとは、こういうことを言うのか?

 自分とは容姿はまるで似ていない。身長も体格も年齢も違う。

 共通点などないに等しいだろう。


 だが、それでも分かった。

 あの少年は真っ当な存在ではない。

 自分と同じく、外法によって生み出された存在だ。

 それを直感で感じ取った。

 恐らく少年の方もだ。

 一目で、真刃の異質さを感じ取ったはずだ。

 あの時の少年の表情がそれを物語っていた。

 真刃は独白する。


「あんな()()が、まだいるというのか……」


 猿忌と金羊は無言だった。 


「……だが、誰が生み出したのだ?」


 指を組んで、真刃は瞑目する。

 刀歌には、ある程度事情を聞いていた。 

 学校の帰り道。いきなり拉致されたそうだ。

 黒いワゴン車に乗っていた男たち。

 何者なのかは分からない。

 分かっていることは、奴らの中に引導師がいたことだけだ。

 その時点で、営利誘拐ではない。

 刀歌は素晴らしい容姿の持ち主ではあるが、暴行目的でもないだろう。

 考えられる可能性としては、御影家に恨みを持つ者の犯行。

 または、刀歌の魂力の高さに目をつけて、誘拐、洗脳をして隷者にすることだ。

 火緋神家の流れを汲む御影家は、古くから続く家系ではあるが、本家に比べると、そこまでの大家ではない。分家の分家といったところだ。

 家の格としては、中の上程度だと金羊も言っていた。

 特に恨みを買うほどの暗躍もしていないそうだ。

 ならば、やはり狙いは刀歌自身か……。


「刀歌の魂力は、群を抜いておる」


 瞳を開いて、真刃は呟く。


『魂力が高い女の子からは……』


 金羊が気まずそうにそう続けた。


『魂力が高い子供が生まれることが多いっス。父親も高ければ尚更っス。刀歌ちゃんはエルナちゃんさえも凌ぐ子っスから』


『……加え、あの異様な少年か』


 猿忌もまた口を開く。


『あれは、恐らく()()な掛け合わせの結果だろうな』


「………そうだな」


 真刃は嘆息した。

 かつて、父が行ったこと。

 それと類似したことを行う者がいるということだ。

 そして、魂力の高い刀歌は、その()()に選ばれたということか。


「不快だな……」


『……主』『……ご主人』


 真刃の呟きに、従霊たちは神妙な様子を見せる。


「……このまま捨て置けん」


 真刃は、椅子に再び体重を預けた。


「あの少年も……そして刀歌のこともだ」


『無論だ』


 猿忌が頷く。


『あの少年の裏を知る必要はあるだろう。金羊。あの少年の素性を洗い出せるか?』


『顔は見たっスから、そこら中の防犯カメラを洗い出せば。あと、制服からも追えるかもしれないっス。ご主人』


「ああ」真刃は頷く。「頼む。迅速にな」


『了解っス。早速当たるっス』


 そう告げると、スマホから羊のイラストが消えた。

 猿忌はそれを一瞥してから、


『調査は金羊に任せよう。さて主よ。刀歌に関してだが……』


 そこでくつくつと笑う。 


『今やあの娘は主の参妃。それも正真正銘の主の隷者だ。大切にしてやらねばな。だが、それにしても、主が隷者にしたのは紫子以来だな。くだらん体面ゆえに「あの女」でさえ主の隷者ではなかったというのに』


「……五月蠅い」


 眉をしかめて、真刃は呟く。

 しかし、猿忌は黙らない。実に上機嫌だった。


『主の決断には驚いたぞ。紫子でさえ決意するまでに二年もかかったというのにな。急を要したとはいえ、本当に想定外だ。参妃のことをよほど気に入ったのか?』


「……本気で五月蠅いぞ。猿忌」


 真刃が、険しい顔で猿忌を睨みつけた。

 ただ、それもほとんど効果はないようだ。

 猿忌の勢いは止まらない。あごに手をやって言葉を続ける。


『いっそ、今宵、刀歌を愛してやってはどうだ? こういったことは勢いが必要だ。紫子の時はそこに至るのにさらに一年もかかったからな。あれは我も不満だったのだ。「あの女」と比べると遅すぎだ。正妻は紫子こそが相応しいと何度も進言したではないか』


 一拍おいて。


『いや、それも今となっては遠き過去のことか。重要なのは今代だ。我としてはエルナを優先してやって欲しかったのだが、やはり、そこは主の意志を優先して――』


「……おい」


 ――ガシィ!

 真刃は額に青筋を浮かべて、猿忌の頭を鷲掴みにした。


「いい加減にせんか。お前は、いや、お前たちは――」


 と、本気の説教をしようとした時だった。

 ――バタンッ!

 突如、部屋のドアが勢いよく開かれたのだ。

 何事かと真刃が鋭い眼差しでドアの方を見ると、そこにいたのはエルナとかなただった。

 しかも、かなたは巨大なハサミを顕現させている。


 真刃は目を見開く。


「エルナ! かなた! 非常事態か!」


 当然ながら、そう思った。

 ――が、


「……はい。ある意味、非常事態です」


 エルナが、笑顔でそう告げてくる。

 そして、かなたと共に入室した。

 ――パタン、と。

 ドアが閉められる。


「エルナ? かなた?」


 真刃は、少女たちの様子に眉根を寄せた。

 エルナとかなたは、そんな真刃の前に立った。

 そして、


「とりあえず、お話があるので座ってください」


「……座ってください」


 二人の少女が、淡々と告げる。


「なに? 話だと……?」


 真刃は困惑した。

 しかし、少女たちの迫力の前に、これは逆らってはいけないと察した。

 大人しく椅子に座る。


「椅子ではありません。正座です」


 大人しく正座した。


「さて。真刃さん」


 エルナが額には青筋を。顔には笑みを張り付けて切り出した。


「少しお説教しますからね」

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