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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第2部 『炎の刃と氷の猫』

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第五章 参妃、推参!③

「…………え?」


 パチリ、と。

 刀歌はおもむろに目を開けた。 

 真っ先に目に映ったのは、天井だった。 


「…………え、え?」


 再び呟く。

 首を横に向けた。そこはどこかの部屋だった。


「ここは?」


 刀歌は、目を瞬かせた。

 状況がまるで分からない。

 いや、夢を見ていたことは憶えている。

 とても幸せな夢をだ。

 まさしく夢心地からいきなり現実に戻って、困惑する刀歌だったが、

 ――カアアアァ。

 と、唐突に、顔を真っ赤にした。

 幸せだった。

 確かに幸せだったが、何か途轍もなく卑猥な夢を見ていた気がする。

 それも、もの凄くリアリティのある夢だった。


「うわあああっ!?」


 刀歌は、バネ人形のように上半身を起こした。

 ――ゆさりっと。


「え?」


 大きな胸が揺れた。 

 そこで気付く。

 自分が裸であることを。

 上半身だけではない。髪は解けて、下にも何も着けていない。

 いや、脇腹と背中の一部には、肌色の湿布のようなものが張り付けられていたが。


「これは止血用か?」


 刀歌は、その湿布を剥がしてみた。

 そこには微かな裂傷の痕だけがあった。すでに完治している、うっすらとした古傷のような痕である。それ以外の怪我はない。


「誰かが助けてくれた? え、けど、なんで?」


 刀歌は激しく狼狽した。 

 自分は、見知らぬ部屋のベッドの上で寝ていたようだ。

 しかも全裸で。

 刀歌は顔を赤くしつつ、シーツで体を覆った。

 そして、ふと思い至る。


「えっ、も、もしかして、あの夢って……」


 指先を唇に当てて、サアアッと青ざめた、その時だった。


『おお~、お目覚めですか!』


 いきなり声がした。

 刀歌がギョッとすると、そこには――。


『刀歌ちゃん。良かった、ホッとしましたあ』


 ふわふわと、一匹の蝶が舞っていた。

 七色に輝く蝶だ。


「え?」


 先程から聞こえてくる愛らしい少女の声。

 それは七色の蝶から発せられていた。


「な、何者だ? お前は?」


『私ですか? コホン。ええ~、我こそは』


 蝶は、口上を述べた。


『真刃さまにお仕えする従霊三十士が一霊! その名も蝶花! 刀歌ちゃんの面倒を見るためだけに突貫で起こされた末妹従霊なのですよォ!』


「………は?」


 刀歌は眉をひそめた。何を言っているのか全く分からない。


『一応憑依させられたのは包帯なんだけど、もう絶対にヤ! 二度と憑依しない! もっと可愛いのを所望します!』


 と、蝶が言う。

 よく見ると、蝶は半透明だった。霊体のようだ。  


『しかも、実際の役目は血塗れだった刀歌ちゃんの服を引っ剥がすことだったし! 包帯じゃなくてもよくない!? 包帯である必要なんてなくない!?』


「お前、何を言っているんだ?」


 刀歌が渋面を浮かべた。

 この蝶の霊は、まともに答える気はないのか。

 刀歌は、ベッドから立ち上がろうと足を降ろした、その時だった。

 ――ボボボ、と。

 突如、部屋に鬼火が浮かんだ。

 刀歌が警戒すると、それは骨の翼を持つ猿になった。


『……ふむ』


 猿の霊は呟く。


『起きていたのか、参……コホン。御影刀歌よ』


「お前は……何者だ?」


 刀歌は神妙な声で尋ねた。

 蝶よりも話が通じそうだが、これもまた霊体である。警戒は解けない。 

 すると、猿の霊はコホンと喉を鳴らした。 


『我は従霊の長。名を猿忌と言う。さて。御影刀歌よ』


 猿は尋ねる。


『我らの主が、お主に面会を求めている。入室してもよいか?』


「……なに?」


 刀歌は眉をひそめた。 


「どういう意味だ? どうして私に入室の許可を取る?」


『我が主は男性だ。そしてお主の今の姿。許可を取るのは当然だと思うが?』 


「…………あ」


 そう指摘されて、刀歌の頬が赤らむが、すぐにかぶりを振った。

 今の状況が全く分からない。情報収集は必須だった。


「分かった。いいだろう」


 そして刀歌は気丈に告げた。


「構わない。お前たちの主とやらに面会してやる」

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