第六章 交渉の行方②
しばらく三人は沈黙していた。
流石に誰から切り出せばいいのかを迷っていたのだ。
すると、
「えっと……」
ややあって、エルナが顔を赤らめつつ口を開いた。
「一応確認するけど、とうとう私たち全員、想いを遂げたってことでいいのよね?」
おずおずとした様子でエルナがそう尋ねると、かなたは瞳を細めて小さく頷き、刀歌は赤い顔でコクコクと首肯した。
「や、やっとよね」
エルナも動揺しながら頷いた。
「ふ、二人ともどんな感じだった?」
続けてそう尋ねると、かなたが少し視線を伏せて、手をちょこんと上げた。
「では私から。私が最初でしたから」
「え、ええ。そうだったわね」「う、うん」
エルナと刀歌は、かなたを凝視した。
「真刃さまは、いつも私を気遣ってくれています」
かなたはそう切り出した。
「まるで娘のように。ですが、あの夜は違いました。いえ、気遣いはありました。けど、それ以上に……」
口元を片手で隠して視線を逸らし、耳を赤くする。
「本当に深く愛されました。私が疲れきるまで幸せを注がれました」
「そ、そうよね」エルナが激しく同意する。
「私ね、いま心の中に紫子さんもいるでしょ? だから二人分だったのよ。翌朝は、ちょっとガクガクどころのレベルじゃなかった……」
「わ、私もだ……」
刀歌は赤い顔のままで口元をへの字に結んだ。
「本当に大変だったんだ。そもそも私はその前に小細工をしたせいで、最初から真刃さまに容赦しないと宣言をされてたから……」
「……何をしたの?」「何をしたのですか?」
エルナとかなたが、刀歌に注目する。刀歌は「う」と呻きつつ、直前に日和ってやらかしてしまったことを語った。
「だから、いくら、ふるふると首を振っても、真刃さまは『これからだぞ。刀歌』と言って私を抱き上げて……」
「うわあ」「………」
エルナは呻き、かなたは沈黙する。二人とも遠い目をしていた。
ただ、そこから堰を切ったように、三人は色々と語った。
かなり具体的な内容だ。時々エルナを通じて紫子も会話に入った。
時には真っ赤になり、時には驚いたりと目まぐるしく表情を変える三人。
エルナたちにとって楽しい時間だった。
「……うん。とりあえず」
エルナが頬に両手を当てて息を吐く。
「真刃さんは結構足が好みみたいね。大きな胸も好きそうだし」
「いえ。エルナさま。足はともかく、そちらはまだ分かりません。私たちは大きな方ですし、綾香さんやオズからも話を聞かないと一概には……」
と、かなたが意見具申をし、
「あと髪も好きだぞ。私の髪を何度か手にとってキスしてた」
刀歌が感想を告げた。
「ともあれ、私たちもこれでようやく本当の妃になったのよ。頑張らないと」
両手を握って、ふんすと鼻を鳴らすエルナ。
「きっと、これからは普通に機会も沢山あるはずよ」
「……エルナさま。それには一つ危惧すべきことがあります」
意気込むエルナに、かなたは指摘する。
「正直、真刃さまはまだ私たちのことを相当に気遣っておられます。あれでも全力ではなかったと二人とも感じられたのでは?」
「「………う」」
エルナと刀歌は黙り込んだ。
「そもそも、今回は緊急時ゆえの前倒しでもありました。もしかしたら、次の機会は二年後とかもあり得るかもしれません」
「う。それはあり得そうだが……」
刀歌が眉根を寄せてそう呟くと、
「……いえ。それは大丈夫よ」エルナがかぶりを振って告げた。
「紫子さんも言ってる。真刃さんはもう私たちを手離す気はないって。だからこれからも普通に愛されるからって。ただ……」
エルナはそこで耳を赤くしながら渋面を浮かべた。
「真刃さんって本当に体力お化けだって。大正時代、紫子さん、凄く大変だったって。連日とかにならない寵愛権の仕組みはよく出来てるって褒めてくれてるわ」
「……う~ん、それは……」
刀歌は腕を組んで小首を傾げた。
「私たちも体験したからよく理解してるが、正直なところ、他のみんなはどんな感じなんだろうな。桜華師とか二夜連続でも平気そうだ」
「……そうですね」
かなたは少し天井を見上げて思い出す。
「体力面だけならばあり得そうです。あの百キロ耐久レース。地獄のようだったあのレースを杠葉さんと桜華さんだけは平然と達成していましたから」
「確かにあの二人にはインターバルも必要なさそうよね。あと六炉さんも」
エルナは、あごに指先を置いて呟く。
――い、いえ。杠葉お嬢さまでも真刃さんの相手は……。
その時、紫子がそう呟いていたのだが、エルナは聞き落としていた。
「一度、正妃の大人組全員で集まって本音トークもいいかもね」
エルナはそう提案した。
「燦さんや月子さんからは不満が出そうですが……」
と、かなたが呟く。気付けば、正妃の中でまだ第二段階に至っていないのは、最年少者である肆妃の二人のみになっていた。
「いやいや。不満があっても流石にあの二人はまだ無理だろう」
刀歌が苦笑を浮かべると、かなたは少し沈黙した。そうして、
「……それはどうでしょうか。月子さんには何か秘策と覚悟がありそうですが」
姉妹のように仲のよい少女のことを想う。
それに対して、エルナと刀歌は一瞬、黙り込むが、
「まあ、燦たちは何か優遇しましょう。それと準妃たちにも。特にホマレさんなんて相当に努力と苦労をしているのに、キャラ的なせいなのか、なんか不憫だわ」
「なら、ホマレが拾妃になるのか? しかし、素朴な疑問なのだが、正妃も拾番以降はどうするんだろうな? 拾壱妃になるのか?」
刀歌がそんな疑問を口にする。と、
「拾番以降が現れる場合は何か別の称号を与えるのもいいかもしれません」
ぽつりと、かなたがそう告げた。
「例えば、茜さんなら『紅妃』。葵さんなら『蒼妃』などはいかがでしょうか? もともと正妃の数字も序列ではなく、真刃さまの妃になった順ですし」
「う~ん、そうね」エルナが腕を組んで考え込む。
「ただ、序列のイメージがついてきてるのも事実だし、従霊たちの話だと、妃も含めたネーミング権って猿忌が持ってるみたいだから、そこは猿忌に要相談かしら?」
「なんか増えることが前提の話だな」
と、刀歌が苦笑を浮かべる。エルナとかなたは顔を見合わせた。
「少なくとも現時点で準妃はまだ三人いるしね。一人に拾番は使えても、最低でもあと二人分は確保しておいてあげないと」
そう語りつつ、エルナは腕を組んだ。
「そもそも芽衣さんや、仮にホマレさんも含めるのなら、真刃さんが拾って来た女の人は妃になるのが慣例みたいになってるし。だから、もしかしたら、銀城さんのお孫さんって今頃準妃になっているのかも」
そんなことを呟いた。壱妃の恐るべき勘だった。
「いやいや。その子は一般人だろ? 流石にそれはないんじゃないか?」
パタパタと手を振って、刀歌がそう返した時だった。
不意にインターホンが鳴った。
エルナたちは思わずドアに目をやる。正確には少し離れた玄関の方角だが。
どうやら来客のようだった。




