幕間二 仔猫たちは出会う
「…………ん」
その時。
小さな声を零して、文月寧子は目を覚ました。
目の前に映るのは天井だ。木製の和室の天井だった。
(ここは?)
寧子は眉根を寄せた。
室内は明るい。照明は点いている。
むくりと上半身を起こすと、いつものオーバーオールではなかった。
いわゆる和装。真っ白な浴衣を着ていた。肌触りもよい清潔な服だった。
ただ、下着こそつけているが、着替えた記憶はなかった。
(だれかに着替えさせてもらったの?)
可能性があるとしたら、助けてくれた男性だろうか。
そう思うと、流石に恥ずかしく感じる。身の危険よりも羞恥を先に抱くのは、きっとあの人が悪い人に思えなかったからだろう。
(本当にたすけてくれた)
あの人に、お礼を言わないといけないと思った。
寧子は立ち上がり、ふらふらとした足取りで和室を出た。
外は綺麗な庭園が見える渡り廊下だった。
外はやはり夜だ。いや、もしかしたら時間帯は昼なのかもしれない。
いずれにせよ、この二年間、ずっと輝き続ける大きな月も健在だった。
(きれいな場所)
寧子は恩人を探して歩き出す。
どうやら、ここは大きな屋敷の中のようだ。そして目の前に広がる庭園にしろ、この屋敷にしろ、真新しさがある。今の時代でここまで無事な建築物は初めて見た。
(ここはどこ?)
疑問に思う。
こんな綺麗な場所が、未だ無事でいられるはずがなかった。
(あのひとは何者だろう?)
それもまた疑問に思う。
悪い人ではないのは直感で分かっていた。
もし寧子が女だから攫ったというのなら、監視もなく、部屋で寝かしたりしない。
そもそも、それが目的ならすでに無事では済まなかったはずだ。けれど、着替えこそさせられていたが、乱暴をされた形跡はなかった。
(あのひとはどこだろう?)
ここはどこなのか。あの人は何者なのか。
それもあの人に会えば教えてくれると思った。
ふらふらと進んであの人を探す。と、その時だった。
「あ! 起きた!」
いきなり後ろから声を掛けられた。
寧子が肩をビクッと震わせて振り返ると、そこには凄く綺麗な子がいた。
毛先が明るいオレンジ色になる長い赤髪を持つ少女だった。
年齢は十二歳ぐらいか。黒い制服のような服を着ている。少女は美麗な顔に不敵な笑みを浮かべつつ、両手を腰に当てて仁王立ちをしていた。
「起きたのね! 寧子!」
「う、うん」
寧子は頷いた。が、すぐに小首を傾げて、
「どうして、わたしの名前を?」
「おじさんから聞いたの。持ってた学生証みたいなのにも書いてたし」
「あ、そっか……」
二年前の学生証だ。確かにオーバーオールのポケットに入れていた記憶がある。
「あなたの服は洗濯中よ。それと着替えさせたのは芽衣だから安心して」
と、少女は言う。
知らない名前が出てきたが、女性の名前だったので少しホッとする。
一方、少女は太陽のようにニカっと笑い、
「あなたは保護されたから! もう大丈夫よ!」
「あ、うん」寧子は再び頷いた。
テンションが高い女の子に少し押され気味だった。
「けど、あなたはおじさんが拾って来たから、きっと準妃隊員になると思うの。ホマレみたいに。かんれい? うん。そういうの。だから、今のうちにあたしがスカウトに来たの!」
「……スカウト?」
寧子は眉根を寄せた。すると少女は「うん」と頷いて、
「だって、最近やばいの。とうとうエルナたちまで大人組になったのよ。だから、あたしは年少組のリーダーとしてみんなを纏めないといけないの」
「え、う、うん?」
よく分からないが、寧子は頷いた。
一方、少女はむっすうとした表情を見せて、
「そもそもエルナたちは卑怯なのよ! かじば? どさくさ? そういうのに乗っかって本当はもっと後のはずだったのにズルしたの!」
ジト目で言う。が、すぐにふふんと鼻を鳴らして、
「けど、負けないわ! 月子に秘策があるから! おっぱいは大きいけど、あなたは年少組の方になると思うから、あたしたちの仲間なのよ!」
「な、仲間?」
少女の迫力に圧されて、寧子は後ずさりする。少女はさらに語り続ける。
「葵も茜もすでに仲間よ! 葵はまだ恥ずかしがってるけど、茜の方なんてもう覚悟完了って顔してるし! だから!」
少女は寧子へと手を差し伸べてきた。
「あなたも仲間になって! そしたら、あたしたちの秘策を教えてあげるから!」
「え、えっと?」
寧子には全く話が分からなかった。ただ迫力には呑まれていた。
と、その時だった。
……くううゥ。
不意に寧子のお腹が鳴った。そういえば一日近く何も食べていなかった。
寧子が赤くなると、少女は小首を傾げて、
「お腹が空いているの?」
「う、うん」
少女の問いかけに寧子は素直に答えた。隠していても仕方がなかったからだ。
すると少女は「分かったわ!」と言って腕を組み、
「あたしの仲間になって!」
そう告げてから、
「そしたら美味しいご飯を食べさせてあげるから!」
そんな条件を付けてきた。寧子は「うぐっ」と呻いた。
正直、状況がまるで分からなかった。話が嚙み合っていないのだから当然だ。
そのため、寧子が悩んでいると、
……くううゥ、と。
再びお腹が鳴った。どうやらお腹はかなり限界のようだった。
寧子は顔を赤くしつつも、
「……わかった」
こくんと頷いた。
「わたしはじゅんひ? それでいい。あなたの仲間になる」
迷いながらも、そう返した。
なにせ、背に腹は代えられない。それにこの少女もあの青年と同じで悪い人間には見えなかった。直感ではあるが、それこそが今の時代で生きるのに重要な感性だった。
ただ、食事の後で『準妃』の意味を詳しく聞いた時、青ざめたり、オロオロと動揺したりもするのだが、それはしばらく後の話だった。
今はともあれ、
「OKよ! じゃあ、あたしに付いてきて! あなたはあたしの仲間だから美味しいご飯をたくさん食べさせてあげるから!」
にこっと笑う少女につられて、
「……うん。わかった」
寧子は、久しぶりに笑顔を見せるのであった。
読者の皆さま。いつも読んでいただき、ありがとうございます!
すみません。一つ宣伝をさせていただきたく!
『鬼狩り裏譚 叛天のサクリファイス』
https://ncode.syosetu.com/n1887lo/
異形変身×退魔家系×複数ヒロイン(※やっぱり増えた)
の作品になります! 第2部の投稿を始めました!
よろしければ『骸鬼王』ともども応援していただけると大変嬉しく思います!
何卒、よろしくお願いいたします!m(__)m




