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骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第二章 虚構の世界②

 明け方近くのこと。


「……へ?」


 一人の少女が唖然とした。

 見た目の年齢は十四歳ほどか。北欧系を思わせる整った鼻梁に、スレンダーな肢体。白い寝間着を着た姿は天使のように可憐だ。菫色の絹糸のような長い髪が印象的な少女である。ただし、どれほど可憐であっても、彼女の実年齢は二十六歳なのだが。

 準妃隊員の一人。ホマレだった。


「え? なんで?」


 天雅楼本殿の自室にてPCを操作していたホマレは突然のネットの遮断に困惑した。

 が、その直後に違和感を覚える。ぞわりとした。

 まるで巨大な生物の胃袋に放り込まれたような感覚だ。


「――ひゃぎゃッ!」


 ゲーミングチェアに座っていたホマレは、すぐさま床に転げ落ちた。

 これは、きっと結界領域か封宮だ。かつて結界領域に巻き込まれて、女ゾンビに攫われたことのあるホマレにとっては悪夢のような経験だった。結果的にダーリンと出会う切っ掛けでもあったので、完全な悪夢だったとも言えないが、それでもトラウマだ。

 恐らく、いま襲撃を受けている。

 ホマレの戦闘力は皆無だった。ポメラニアン以下だと自負 (?)している。誰かと合流しないと再び攫われるか、殺される可能性さえもあった。

 ホマレは慌てて部屋を飛び出す。と、

 ――ボフンっと。

 出会いがしら、とても柔らかいクッションに顔面が衝突した。


「ふへ?」


 ホマレが困惑して顔を上げると、そこには一人の女性がいた。

 ホマレの顔を柔らかく受け止めた豊かな双丘に、引き締まった腰。寝間着の白装束。肩辺りまで黒髪を伸ばした美女。ホマレは涙目になった。


「お、桜華ちゃあん……」


 そこにいたのは漆妃・久遠桜華だった。


「大丈夫か? ホマレ」


 桜華はホマレの頭を撫でてそう尋ねる。

 以前、ホマレが攫われたことを知る桜華が、異変を感じて急ぎ助けに来たのだ。


「ありがどう、おうがちゃああん……」


 ホマレはボロボロと大粒の涙を流して桜華にしがみついた。

 その際に、桜華の柔らかなおっぱいに顔を押し付けて堪能することも忘れない。


「とりあえず無事でよかった」


 桜華は少しホッとしつつ、周囲に目をやった。


「やはりこれは結界領域か?」


「うん。いきなりネットが切れたから多分そうだと思う」


 桜華のおっぱいから名残惜しそうに顔を離してホマレが言う。


「封宮でも同じことは出来るけど、周りの見た目が全然変わってないし」


「そうか。白冴」


 桜華は自分の胸元にかけた水晶のペンダントに声をかけた。

 彼女の専属従霊である白冴が宿るペンダントだ。


「お前の空間把握の異能で状況は分かるか?」


『大まかには』白冴は答える。


『各お妃さまや準妃さまには付近の近衛隊が合流したようです。戦闘が苦手な者たちにも護衛は配置されたようでございます。ですが』


「ですが?」


『先ほどから猿忌さまに全く連絡がとれませぬ。他の五将や従霊たちともです。真刃さまのお声だけはこちらに届きますが、私からの応答は難しく』


「……連絡手段の完全妨害か」


 桜華は渋面を浮かべた。


『真刃さまはこれから緊急会議を開くと仰られております。お妃さまからは近衛隊隊長の伍妃・芽衣さま。幹部である捌妃・綾香さま。新たに近衛隊『(かたな)(もり)』となられた玖妃・アレックスさまが参加されます。他のお妃さまには近衛隊と合流して襲撃に備えて欲しいと。ただ』


 そこで一拍おいて、


『桜華さま、杠葉さまには真刃さまから個人的にご連絡がございます。かなたさまを保護して出来るだけ気遣ってやって欲しいとのことでございます』


「……かなたを?」


 桜華は訝し気な眼差しを見せた。


「確かあいつは、今日は寵愛権を……」


 と、口にしたところで「あ」と呟いて察した。それは隣で聞いていたホマレもだった。

 特にホマレは、キョトンとした顔から愕然とした顔へと変わった。


「ええ!? マジで!?」


 ホマレは両手で白冴が宿る水晶を掴んだ。


「かなちゃん、とうとうエッチしたの!? なんで!? ホマレの方が先じゃん!?」


「……いや。お前はな」


 と、桜華は小さく嘆息しつつ、


「そもそも自分たちは引導師(いんどうし)だしな。かなたの年齢ならば契約している方が自然だ。自分たちの時代は無論、今の時代でもな。あいつはかなたやエルナたちに対して気を遣いすぎだ。平時ならばそれもいいだろうが……」


 一呼吸入れて、


「今は戦時であり、緊急時だ。万全を尽くさぬ結果、命に関わっては本末転倒だ。かなたの生存率を上げるためにも、あいつもようやく決断したということだろうな」


 二度と誰にも奪わせないという想いもあるんだろうな。

 内心でそう感じとる桜華。しかし、ホマレは不満だった。


「それでも年齢的にはホマレが先じゃん!」


「それを言うのなら、かなたは古参の弐妃だぞ。しかし、かなたがそれを迎えたということは恐らくエルナと刀歌も近々……」


 参妃であり、弟子でもある刀歌の名を口にして桜華は何とも気まずい顔になった。

 いよいよ弟子も自分と同じ立場に立つと思うと少し複雑だった。

 桜華はホマレの頭にポンと手を乗せて、


「お前はもう少し頑張れということだな」


「超頑張ってるじゃん! なのに新参のアレックスちゃんにまで先越されるし!」


 ホマレは極めて不服そうだった。

 アレックスの正妃入りの話は、桜華たちには無論のこと、準妃隊員であるホマレたちにもすでに伝わっている。茜などは結構ショックを受けていた。ただそれはホマレも同じことで、どうやらかなた以上にアレックスに不満を抱いているようだった。


「分かった分かった。真刃には自分からも告げておく。お前のことをもう少し気遣えとな。まあ、仮に話が通っても、流石にエルナと刀歌の後にはなるだろうが……」


 桜華は小さく嘆息してそう告げた。ホマレは瞳を輝かせる。


「マジで! 遂にホマレもか! 約束だかんね! 桜華ちゃん!」


「……いや。しかしだな」


 桜華は少し遠い目をしてホマレの全身に目をやった。


「年齢的にはともかく、きっと体格的にはお前が一番大変だと思うぞ。かなたや刀歌たち以上にだ。いざその時になって日和るなよ」


「え? そ、そうなの?」ホマレは目を瞬かせた。


「ま、まあ、いくら合法でもホマレは基本ロリだからなあ」


 そう呟きつつ、ホマレは不安からか自分の腹部辺りを両手でさすった。

 桜華は苦笑を浮かべる。

 が、すぐに表情を改めて双眸を細めた。

 襲撃の様子はまだない。しかし、この世界はすでに敵地の中だ。


(いよいよか)


 百年前からの因縁。その決着の時が近づいている。

 かの時代の当事者である桜華は、それを強く感じ取っていた。


(……多江)


 亡き友を想う。


(餓者髑髏もそうだが、今度こそあの女とは決着をつけるからな)


 そう誓うのであった。








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