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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第一章 彼女たちの歩む道③

 ――奇抜な男だ。

 それが真刃の異母弟に対する第一印象だった。

 年の頃は二十代前半か。

 髪の色は明るい緑色。長髪であり、オールバックにしている。左耳には十字架の装飾具を着けていた。瞳の色は分からない。丸いサングラスで隠しているからだ。

 衣服は、光沢を放つライトグリーンの神父服のようだ。二の腕辺りが異様に膨らんでいる。どうやら左腕は義手のようであり、細い銀色の鎖によって腕を造っていた。

 久遠破刃瓢濫(はじんひょうらん)。久遠家における三男らしい。

 真刃にしてみれば、父の一族に含められるのは極めて心外なのだが。


「いやあ、昨夜はよく眠れたじゃんよ」


 と、破刃は言う。

 対し、真刃は内心で苦笑を浮かべた。

 昨夜、来訪してきた真刃の異母弟。近衛隊は最大級の警戒をしていたのだが、そんな中でこの男は客間にて爆睡したらしい。


(何とも肝の据わった男だ)


 それが率直な感想だった。

 真刃が手出しさせないと信じてのことか。

 それとも、いかなる事態に陥っても切り抜ける自信があってのことか。

 いずれにせよ、侮れない相手だ。


(あの男は……)


 真刃は双眸を細めた。

 脳裏に浮かぶのは、かつての父の姿だ。

 傲岸不遜なようでどこか卑屈。今代的に言えば承認欲求を抑えきれなかった男。

 一言で言えば小物だ。

 しかし、刀の製作の才だけは恵まれていたようだ。

 破刃然り。真刃然りだ。


(本当に悔やまれるな。あやつを始末しておかなかったことは)


 これもまた率直な気持ちだった。

 が、それはともあれ。


「さて。破刃」


 真刃は異母弟に話し掛ける。


「お前の話では父は今回の一件に手を出さぬということだったな」


「おう。そうじゃん」


 破刃はにかっと笑って答えた。


「親父殿にしてみれば、今回は様子見したいそうじゃん。下手に関わって万が一にも作品を壊されたら堪らねえからさ」


 そこで大仰に破刃は肩を竦めた。


「オレさまや小兄者はともかく、うちの家族には戦闘向きじゃねえのもいるからじゃんよ」


「……そうか」真刃は双眸を鋭くした。


「お前が三男というのならば小兄者とやらは次男か。(オレ)大兄(たいけい)と呼ぶのならば、その家族とやらの話も詳しく聞かせてもらいたいものだがな」


「ああ~、それはダメじゃんよ」破刃は両腕で『×』を作った。


「親父殿に厳禁されててよ。大兄者には極力情報は与えんなって言われてんじゃんよ」


「ふん」真刃は鼻で笑う。「あの喋りたがりが随分と変わったものだ」


「そりゃあ変わるじゃんよ」


 真刃の独白に、破刃はポリポリと頬を掻いた。


「大昔に大兄者の前でうっかり口走ったせいで殺されかけたんだろ? ビビりもするさ。親父殿は本質的には小物だからな。けどさ、大兄者」


 そこで破刃は、にやりと笑みを零した。


「小物ほど臆病で卑屈で陰険で用心深いじゃんよ。そんでそういう奴ほど、長い年月を経れば底なしの老獪へと至るんだと思うぜ」


「…………」


 真刃は、無言で異母弟を見据えた。

 確かにそれは否定できない。その結果、父は目の前の男を造り上げたのだから。

 杠葉以外では初めて出会った神威霊具の使い手を。

 そして、恐らくそれさえも力の一端に過ぎないと真刃は感じ取っていた。


「ああ~、そろそろオレさまは行くじゃんよ」


 大樹の枝の上で膝を曲げていた破刃は、おもむろに立ち上がった。


「お茶菓子おいしかったじゃんよ。サンキュ。まあ、出来れば、大兄者の嫁さんたち――特に桜華の義姉者とは顔合わせしておきたかったんだが……」


「……桜華だと?」


 真刃は訝しげに眉をひそめた。


「どういうことだ? 何故ここで桜華の名が出てくる?」


 昨夜、破刃に引き合わせた妃は三人だけだ。

 近衛隊の隊長の芽衣。幹部の綾香。そしてあの場に立ち会ったアレックスだけだ。

 戦力の秘匿という意味でも、杠葉と桜華を筆頭に他の妃たちは姿を隠していた。

 ただ、当然、父側でもこちらをある程度は調査しているだろう。従って桜華の名を調べられていても不思議ではないのだが……。


「う~ん、親父殿には悪りいが、一つだけ教えとくじゃん」


 すると、破刃は秘密をお願いするように唇の前で人差し指を立てた。


「久遠影刃(かげは)()()。男所帯の久遠家の紅一点で可愛い末っ子じゃんよ。ただあの子は根っこの部分でオレさまたちとは少し違うじゃんよ。実はあの子は――」


 そうして、とある秘密を破刃は口にした。

 流石に真刃も絶句する。隠れていた猿忌も思わず姿を現すほどだ。


「これはまだ秘密な。そんじゃあまた来るじゃんよ! 大兄者!」


 言って、破刃は突風と共に姿を消した。

 残されたのは、未だ言葉を失ったままの真刃と猿忌だけだった。

 十数秒の沈黙。


『……主よ』


 ようやく、猿忌が口を開いた。


『これは流石に想定外ぞ』


「……………」


 真刃は沈黙した。それから息を吐き、


「今の話は秘匿だ。真偽がまだ分からん」


『……うむ。そうだな』


 猿忌が神妙な様子で頷く。


『これはこれで問題になりそうだ。機が来るまで我らの胸の内に秘めておこう』


「ああ。それがよかろう。しかし……」


 真刃は破刃が去った方向に目をやった。


「本当に騒々しい男だったな」


 そう呟いて苦笑を見せる。

 そして、


「この不気味な大樹といい、最後の最後で厄介なモノを押し付けるな」


 と、思わず愚痴めいた言葉を零す真刃だった。






少しストックが溜まったので、毎週土曜更新を行います!

本作をよろしくお願いいたします!m(__)m


また別作品で申し訳ないのですが、一つ宣伝を。

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よろしければ『骸鬼王』ともども応援していただけると、とても嬉しく思います。

何卒、どうかよろしくお願いいたします。m(__)m

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