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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第13部

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第一章 彼女たちの歩む道①

 朝日の光が窓から注いでくる。

 そこは広い洋室。内装はベッドや書棚。ワークチェア。ワークデスクの上にはノートPCなどがある。清潔感はあるが、どこか殺風景な部屋だ。

 その日の朝。

 一人の少女が、その部屋のベッドの上で胡坐をかいていた。

 年齢は十七歳ほどか。

 白い肌に、瞳の色は翡翠色(エメラルド)。髪は金髪(ゴールド)であり、後ろ髪を雑に切ったボーイッシュなショートヘアだ。前髪は右側のみを短い三つ編みにしている。

 スタイルはスレンダーだった。今は特にそれがよく分かる。何故なら胡坐をかく彼女は今、生まれたままの姿なのだから。


「……………」


 彼女――アレックス=オズは、その翡翠の眼差しで虚空を見つめていた。

 ややあって、


「……ふああっ!」


 白い肌を赤くして、仰け反るように顔を両手で押さえ込んだ。

 そのまま倒れこんで大きなベッドの上でゴロゴロと転がった。のたうち回る勢いだ。


(うわあっ! うわわわっ!)


 ――あげてしまった。

 結局、たった一夜で全部あげてしまった。


「うわああああああああああああっ!」


 ゴロゴロと転がって悶え続けるアレックス。

 昨夜のことだった。

 アレックスは強欲都市の王(グリード・キング)と呼ばれるあの人と《魂結び(ソウルスナッチ)》の契約を行った。

 約束していた第一段階の契約だ。けれど、それは一般的なモノとはまるで違うものだった。

 そして結果、体温的にも精神的にも火照った状態になってしまったアレックスには、甘えたいと思う心を抑えることが出来なかった。折角あの人は配慮してくれていたのに、戦士の矜持とかよりも、まず女としての本能や甘えたい願望が圧倒的に上回ってしまったのだ。

 契約が終わっても、ずっとしがみついてフルフルと首を振るアレックスに、あの人は少し困った顔をしていたが、


『……分かった。お前のすべてをここで得よう』


 そう言って応えてくれた。

 アレックスは『……ん』と頷き、自分のすべてをあの人に預けた。

 その後は言わずもがなだ。

 初めて零す嬌声や、不安を宿した声。消失(ロスト)の痛み。それを忘れるほどの歓喜。そして抱きしめられる時の安堵感も。本当に初めて知ることばかりの夜だった。

 ただ、これで自分は間違いなくあの人の隷者(ドナー)となり、女となったのだ。

 自ら望んだことだ。そのことに一切の後悔はないが……。


「……こ……」


 アレックスは、微かに喉を鳴らして、


「……怖えェ……」


 ぼそりとそう呟いた。

 のたうつことを止めて、青ざめた顔をする。

 ――そう。結局、彼女を出し抜く形となってしまったのだ。

 彼女とは弐妃・杜ノ宮かなたのことだ。アレックスはモーリーと呼んでいる少女だった。

 昔からの付き合いであり、ずっとライバル視していた少女。モーリーもまたあの人の隷者だった。しかし、まだ第二段階――男女の関係にまではなっていないそうだ。

 その理由は年齢からだそうだ。スタイルも顔立ちも大人びているが、モーリーはまだ十五歳だからだ。引導師界隈ではその年齢ならば経験者の方が多い。けれど、あの人はモーリーの体を気遣っているそうだ。


(ま、まあ、あれはな)


 今や経験者となったアレックスにはよく分かる。

 男勝りな性格であり、さらに体力にも自信があった自分でさえ、最後には嬌声しか出していなかった気がする。あの圧倒的な多幸感も相まった激しさは、十五歳の少女にはまだ早いとアレックスも思う。同じ理由から第一段階で止まっている妃も多いらしい。主家であるエルナもそうだった。エルナもモーリーもあの人に抱かれるのは十八歳からだと聞いていた。

 まあ、アレックスもまだ十八歳にはなっていないのだが、それもあと数週間だけの話だ。誤差レベルの前倒しのようなものだった。それはともあれ。


(こ、これは相当にやばいのか?)


 アレックスは渋面を浮かべながら、改めて事態の深刻さに青ざめた。

 もしかしたら、出会うなり、問答無用で真っ二つにされるかもしれない。


(ま、まだ秘密にすべきか?)


 それも考えるが、正直に言って難しい。

 あの人は自分に『玖妃』の座を用意すると言っていたからだ。

 準妃隊員だった自分が第一段階の契約後にいきなり正妃(ナンバーズ)入りすれば何があったかなんて隠しようもない。そもそも、あの人自身が隠そうとしない。

 あの人が愛すると言ったら、きっと絶対なのだ。

 アレックスの将来は、すでに昨夜の内に確定したのだとも言えた。


(ど、どうにかして命乞いするしかねえのか……?)


 必死に言い訳を考えてみるが、いずれにせよ裸のままではまずい気がする。

 ここはあの人の部屋だからだ。今にも妃の誰かが入ってくる可能性もあるのだ。

 最悪の場合、それはモーリーかもしれない。

 アレックスは慌ててベッドから降りた。すると下腹部に痛みが奔り、両膝からカクンと力が抜けて床に四つん這いになる。驚いた顔で力が入らない自分の両脚に目をやる。と、思いがけずベッドも視界に入り、シーツに赤い染みがあることにも気づいた。


(う、うあ……)


 アレックスは目を見開くと、そのまま耳まで赤くなった。


(ホントにオレってあの人に……)


 昨夜のことが、はっきりと脳裏に蘇ってくる。

 改めて自分のすべてがあの人にもらわれたこと。あの人の女になったのだと自覚した。全身が発火しそうな想いだった。


「け、けど、オレだって全く覚悟してなかった訳じゃねえ」


 これはもう遅かれ早かれだ。

 アレックスは「むむ!」と呻きつつ、ゆっくりと立ち上がった。

 ひょこひょこと歩きながら周囲に目をやった。

 服は昨夜の時、床やベッドに脱ぎ捨てたのがあるはずだった。

 が、それを見つける前にあるモノに気づく。

 それは机の上に置かれた服だった。

 制服に似た上着と、ワンピースタイプの黒いドレスだ。正妃(ナンバーズ)の正装だった。

 畳まれたその服の上には『玖』の腕章が置かれていた。

 明らかにアレックスのために用意された服である。まさに早速だった。

 本音としては嬉しい。凄く嬉しい。

 けれど、


「ううゥ……」


 アレックスは少しだけ涙目になった。

 そして、


「モーリーが怖いよぉ」


 本音を零す『玖妃』であった。







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