表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

485/503

第七章 奉刀巡礼➂

 結果的に言えば、真刃の勘違いはあっさりと解かれた。

 千堂から説明を受けた真刃は、深々と嘆息して「……その、すまん」と言った。

 ただ、その後に、アレックスとゆっくり話す機会は真刃にはなかった。

 その理由は簡単だ。

 かなたが拗ねてしまったからだ。


『……真刃さまのいじわる。嫌い』


 久しぶりの台詞だった。

 微かに頬を膨らませて、かなたがそう告げたのである。

 泰然たる真刃を即座に動揺させる必殺の台詞(パワーワード)だ。

 結果、真刃は、その日の仕事を丸ごと千堂に押しつけて――千堂にしてみれば完全にとばっちりではあるが――兎にも角にも、最優先でかなたを宥めたのだ。

 アレックスとしては『待て』の状態だった。

 それでもアレックスは素直な仔犬のように待っていた。


 そうして、その日の夜。

 当然ながら、緊急妃会議が開かれることになったのである。



「……さて」


 場所は天雅楼本殿の一室。妃たちのための円卓の間にて。


「では、議論を始めようかしら」


 少し嘆息気味に、壱妃・エルナが言う。

 準妃も含めて、妃たちは全員揃っていた。

 正妃は円卓の席に。準妃は壁沿いに控えている。

 エルナたちは準妃たちが円卓に座ることも許可している。ただ、色々と議論した結果、原則として準妃は着席しないということにルールが決定された。準妃隊員には正妃の護衛の役割もあるからだ。生真面目な茜の意見が採用された形である。従って現在、茜と葵、「ふへえ」と少しぐったりした様子のホマレが壁沿いに立っていた。

 準妃たちは全員近衛隊の隊服を着ている。ホマレがぐったりしているのも、ここ最近の過度な労働のみならず、窮屈なその服のせいでもある。


 一方、正妃たちは全員正装姿であった。

 近衛隊長を兼任する伍妃・芽衣、そして――綾香もだ。

 今の彼女はいつものイブニングドレスではない。少し気まずそうな表情で視線を逸らしつつも正妃(ナンバーズ)の正装を纏い、『捌』の腕章を着けていた。

 茜が綾香に少し冷たい眼差しを向けているのはご愛敬か。


「ホントは、次の妃会議で綾香ちゃんの正式なお披露目をするはずだったんだけどねえ」


 と、芽衣が苦笑を浮かべて告げた。


「『捌妃』就任の。けど、まさかねえ……」


 芽衣は、視線を円卓の席の一つに向けた。

 そこには大太刀を抱く金髪の少女がいた。アレックスである。

 狂犬と評される彼女は緊張した面持ちだった。


「とりあえず、あなたとは『初めまして』でいいかしら?」


 と、エルナがアレックスに問う。アレックスはコクコクと頷いた。


「は、はい。初めまして。オレの名前はアレックス=オズです。フォスター家の特務班に所属しています。その、エルナ……さま」


「エルナでいいわよ。あなたの方が年上なんだし」


 そう返すエルナに「エルナさま」とかなたが進言する。


「オズを甘やかすのはよろしくありません。オズは狂犬です。噛みついてきます」


「こんな状況で噛みつかねえよ!」


 と、大太刀をぎゅうっと強く抱いて、アレックスは叫んだ。


「つうか、少しはフォローしてくれよ! モーリー!」


「あなたをフォローする義理はありません。厄介事を持ち込んできた上に、私の許可もなく勝手に真刃さまにまで会って」


 珍しく不満そうな様子で告げるかなた。真刃に甘やかしてもらったとはいえ、まだ少しばかり不機嫌さが残っているようだった。

 とはいえ、弐妃の立場としては小さく嘆息して、


「ですが、あなたの希望は分かりました。ゴーシュさまに連絡したところ、驚いてらっしゃいましたが、あなたが真刃さまの配下に入ることは許可されました」


「――マジか!」


 アレックスが表情を明るくして叫んだ。かなたは言葉を続ける。


「真刃さまとの友好関係を強固にしたいゴーシュさまとしましては、私同様にエルナさまの腹心になるように、あなたに期待しておられるようです。ですが」


 一呼吸入れて、アレックスの顔を見据えた。


「妃になるかは全くの別問題です。そう簡単には認められません」


「モーリィ……」


 勝気なアレックスが、今にも泣き出しそうな眼差しをかなたに向けた。


「……えっと、少しいいかしら?」


 すると、零妃・杠葉が手を上げた。


「そもそも準妃隊員ってホマレさんの扱いをどうするかで始まったのでしょう? 一応は芽衣さんのところの近衛隊所属で。入隊基準とか昇格ルールとかはどうなっているの?」


 そう尋ねると、陸妃・六炉が「ん」と軽く手を上げた。


「ムロも気になる」そう言って綾香の方を見やる。


「真刃にお手付きされたら昇格?」


「……お手付きって言わないでよ。《雪幻花(スノウ)》」


 捌妃となった綾香は頬杖をつき、小さく嘆息した。


「……確かに落とされたとしか言えないような結果だけど……」


「……あいつは容赦がない時があるからな」


 と、漆妃・桜華が腕を組んで言う。


「綾香の場合はもう不可避だなとあの場の全員が察していたしな」


 綾香の運命を決めた夜。

 その前日を見ていた杠葉、桜華、六炉、芽衣は何とも言えない顔をした。


「桜華師。綾香の正妃(ナンバーズ)入りはもう今更の話です」


 参妃・刀歌が師に対して声を上げた。

 続けて、芽衣の方に目をやり、


「それよりも入隊基準と昇格ルールだ。何か決めているのか? 芽衣」


「ううん。特に決めてないよォ。元々ホマレさんを隔離するための枠組みだったしィ」


「なんだと! 隔離のためだったのか!」


 壁沿いに立っていたホマレが、クワっと目を見開いて叫んだ。


「ひどい! 伍妃! ホマレを騙したな! ホマレめっさ頑張ってるのに!」


「ああ~、うん。分かってるよォ。ホマレちゃんって想定外なぐらいに頑張ってるよねェ」


 芽衣はパタパタと片手を振った。


「だから、昇格ルールはちゃんと決めるよォ」


「だったら話は簡単じゃない!」


 すると、一人の少女が円卓の上に上がった。肆妃『星姫』・燦である。

 全員が燦に注目した。燦と同じく肆妃の少女――『月姫』・月子が「机の上に昇っちゃダメだよ、燦ちゃん……」と燦のスカートの端を引っ張っていた。

 燦は腰に両手を当てて、


正妃(ナンバーズ)に弱者なんていらないわ! 総当たりの模擬戦よ! いま正妃は全員で十人いるから、五人以上の正妃を倒したら昇格よ! 分かりやすいでしょう!」


「――おおっ!」アレックスは瞳を輝かせた。


「マジか! そいつは有り難いぞ!」


 そんなことを言う。一方、他の準妃たちは青ざめていた。


「い、いえ! 燦さま! 待ってください!」


 流石に茜が声を上げた。


「それは無茶です! 私たちには絶対無理です! 杠葉さま、桜華さま、六炉さまは完全な別格ですし、燦さまも象徴者(シンボルホルダー)です! 綾香……さまも強欲都市(グリード)の最強の一角でしたし、芽衣さまは空間操作の術者で、月子さまに至っては時間操作の異能に目覚められたんですよ!」


「――はあっ!? 空間操作に時間操作!?」


 立て続けに最強クラスの術式を聞いて、アレックスが目を剥いた。

 茜は、さらに切羽詰まった様子で言葉を続ける。


「エルナさまも、最近は未来予知でもしてるみたいに神がかってるし、かなたさまは中距離から近づくことさえもさせてもらえません! 刀歌さまなんて基本性能(スペック)が高すぎる上に予測不能な動きをしてまるで獣じゃないですか! 人間と戦ってる気がしません!」


「……私の評価が一番酷いような気がするな」


 刀歌がジト目で茜を見据えた。


「ともかくです!」茜は真剣に願った。


「ご再考お願いします! 何気に正妃(ナンバーズ)(キング)に次ぐ最強戦力ばかりなんですよ! それは昇格ルールになりえません!」


 姉の剣幕につられるように、妹の葵もコクコクと頷いていた。もちろんホマレもだ。


「ああ~、そうよね」


 それに対し、エルナがポリポリと頬をかいた。


「それだとハードル的に無茶くちゃよね。最初から四敗はほぼ確定状態なんだし。茜ちゃんや葵ちゃん、ホマレさんなんて特に無理よね」


 そう呟いた後、「今の話はなしよ」と、ポンと手を叩いて言った。


「まず入隊ルールだけど、これは推薦制にしましょう。正妃の誰かが推薦するの。アレックスさんの場合は私とかなたが推薦するわ」


「マジか! ありがとうございます! エルナさま!」


 アレックスが立ち上がって頭を下げた。かなたとしては少し不満そうだが、そこまでアレックスを嫌っている訳ではないので拒否まではしなかった。


「まあ、よろしくね」


 エルナは笑ってそう告げる。続けて、


「昇格ルールだけど、これは結局、真刃さんに愛されなければ意味がないわ」


 そこで綾香の方に目を向ける。

 綾香は「……う」と呻くと、少し頬を朱に染めて顔を逸らした。


「真刃さんから大切に想われること。決して失いたくないって強く想われること。まあ、昇格なんて、結局のところ、それに尽きるわ。ただ、実績が必要なのも事実よ。綾香さんは凄く努力してたからね。真刃さんは懸命に努力し続ける人が好きなのよ。だから、各自得意な分野で努力することね」


 壱妃の言葉に茜は静かに頷き、葵は姉の服の裾を掴みつつも、おずおずと頷いた。

 ホマレは「もっと頑張るよ!」と鼻を鳴らして、大いに頷いている。

 そして、アレックスも、


「それなら分かってる!」


 両手で握る大太刀を前へと突き出した。


「だって、オレはあの人が振るう剣なんだから!」


 そう告げた。

 剣士である刀歌と桜華は、少しムッとした表情を見せたが。


 ともあれ。

 こうして、アレックス=オズは準妃隊員として近衛隊に入隊したのである。






読者のみなさま。

本作をいつも読んでいただき、ありがとうございます。m(__)m

投稿方法に関してお知らせがございます。

本作は『小説家になろう』さん『カクヨム』さん『ノベルアップ+』さんで毎週土曜の週一投稿しているのですが、正直なところ『小説家になろう』では停滞している感じです。(-_-;)

ブクマも減ったり増えたりしてほぼ変動せず、1日や1週間のPV数も相性が良いのか『カクヨム』さんの方が多くなってきています。

なので試しに少し投稿方法を変えようと思います。週一投稿を一旦やめて、4~5話分を溜めてから夜8時ぐらいに毎日投稿に変えてみようかなと思います。

そのため、しばらくは更新が止まりますが、『カクヨム』さん『ノベルアップ+』さんでは引き続き、毎週土曜の週一投稿をしていきます。もし早く読みたいというありがたいお言葉を頂けるのでしたら、そちらの方でお付き合い頂けると嬉しく思います。

よろしくお願いいたします。m(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ