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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第七章 奉刀巡礼①

 その時。天雅楼本殿にて。

 正門と呼べる和式の広い玄関口で、かなたは知り合いの到着を待っていた。

 服装は正妃(ナンバーズ)の正装だ。『弐』の腕章も着けている。

 かなたはスマホで時間を確認していた。


「……そろそろだな」


 すると、かなたに声を掛ける者がいた。

 刀歌である。彼女も正妃(ナンバーズ)の正装だった。違いとしては『参』の腕章を着けていた。

 三千神楽に対する非常事態宣言が出されてからは、かなたや刀歌に限らず正妃(ナンバーズ)は夜以外、正装をするようになっていた。

 例外は近衛隊の隊長を兼任する芽衣だけだ。彼女は隊服を着ていることの方が多い。

 まあ、もはや捌妃が確定している綾香も相変わらずイブニングドレスを着ているのだが。

 閑話休題。


「しかし、かなた」


 広い玄関口で腕を組み、刀歌はかなたに問う。


「エルナには連絡しなくてよかったのか? これから来るのは特務班とかいうフォスター家に所属する者なんだろう?」


「……オズは」


 かなたはスマホから刀歌に視線を移して答えた。


「特務班では『切り裂きオズ』や『狂犬』とも呼ばれています。その気性は荒々しく野心的。フォスター家に忠誠心など欠片も抱いていません」


『まあ、仮にも当主であるゴーシュの野郎を――銀髪嬢ちゃんの異母兄(アニキ)をゴリマッチョって呼んでるぐらいだしな』


 と、かなたのチョーカーに宿る赤蛇が補足する。


「そうなのか?」刀歌は目を丸くした。「主家の人間をか。中々の奴だな」


「はい。だからオズはエルナさまにも噛みつきかねません」


 かなたは言う。少なくともエルナに敬意を持っているとは思えない相手だった。

 万が一の暴挙もあり得る。かなたとしては見過ごせない事案だ。

 刀歌は「なるほど」と頷いた。


「かなたは何だかんだでエルナを立ててるからな。先に会っておいて、必要ならそいつに警告しておこうということか」


「はい」かなたは頷く。


「私としては、とりあえず話を聞いた後、オズは天雅楼の隊舎に監き……保護して、ゴーシュさまに連絡し、すぐに特務班の迎えを送っていただこうと考えています」


「いや、いま『監禁』って言おうとしなかったか?」


 かなたにしては珍しい過激な台詞に、刀歌は眉根を寄せた。


「一応、元同僚……友人なんだろ? 厳しくないか? そもそも主君はどうするんだ?」


「…………」


「かなたの友人が来ると聞いて凄く喜んでいたぞ。明らかに挨拶する気だ」


 素朴な表情でそう尋ねる刀歌に、かなたは視線を向けた。

 そして、


「刀歌さん」


「ん? 何だ?」


「同じ正妃(ナンバーズ)として刀歌さんには事前に伝えておきます。率直な気持ちとして、私は今、少し危機感を覚えています」


「……お前の友人を攫ったという敵にか?」


 刀が真面目な顔で問うと、かなたは、


「確かにそれもあります。未知の敵は厄介ですから。ですがそれとは別に」


 と、前置きして、


「私はオズ自身に対して警戒しているのです。刀歌さんはすでに知っているでしょう? オズは結構な美女――どちらかというと美少女です」


「ああ。確かにそうだったな」


 あごに指先を置いて刀歌が視線を上げた。

 確かに勝気そうな美少女だった。直情的な燦に似ているタイプかも知れない。


「オズの好みの男性はいわゆる『細マッチョ』らしいです。内面は穏やかで優しく、戦う時は凛々しく精悍。そして何よりも圧倒的に強いこと」


「……おい。それって」


 そこまで言われると、流石に刀歌も気付く。


「……あくまで危惧なのですが」


 かなたは小さく嘆息して言う。


「明確な事実として、真刃さまはオズの好みの直球なのです。それはもう間違いなく。引き離しておいた方が無難だと思いました」


「……それで速攻で監禁、エルナの兄の元にリリースか」


「万が一にも準妃隊員にでもなられると面倒ですから。それに、綾香さんの事例で準妃から昇格があることも現実味を帯びてきましたから」


 と、かなたは言う。

 綾香の名前には、刀歌も何とも言えない気分になる。

 実質的に組織のボスとしての真刃の右腕なのであり得ない話ではなかったが、彼女はかなたや刀歌がまだ至っていない第二段階の隷者なのでどうにも納得いかないのも事実だ。


「オズは確か十七……いえ、じきに十八歳になるはずです。六炉さんとあまり年齢は変わりません。仮に準妃隊員になれば一気に昇格もあり得ます」


「……それは嫌だな。綾香が(はち)()なら、()()になるかも知れない訳か」


「ええ。それも第二段階の。だから真刃さまには会わせません。速攻で追い返します」


 容赦なく弐妃・かなたは宣告する。


「うん。それが無難だな」


 参妃・刀歌も頷いて同意した。

 その一方で、


『(茜ちゃんや葵ちゃんはともかく、ホマレちゃん、玖妃の可能性を全く考慮されてないね)』


『(……まあ、あのホマレッちだしな)』


 と、蝶花と赤蛇がこそこそ話をしていたりする。

 いずれにせよ、弐妃と参妃の方針は決まったようだ。

 まずは事情を確認し、保護はするが即座にリリースという方針である。


「しかし、桜華師は呼んだ方が良かったかな?」


「……桜華さんをですか? どうして?」


「ああ。折角、剛人が来るんだしな」


「なるほど。そういえば、桜華さんは金堂家と縁が深いというお話でしたね」


「うん。親友の子孫なんだ。桜華師は昔から剛人のことを孫みたいに気にかけてたからな。それに私の弟の刀真と会うのは初めてだったはずだ」


「あ。刀真くんですか。ドーンワールド以来ですね。でしたら、月子さんも呼んだ方が良かったかも知れません。後で呼びましょうか」


 そんなふうに談笑を交わしながら、かなたたちは来客の到着を待っていた。

 すると、呼び鈴が鳴った。和に合わせた穏やかな音色だ。

 ただ、壁に設置された来客相手を確認するモニターは最新のものではあるが。

 かなたはモニターを操作して来客を確認した。


『お客さまをお連れしました』


 と、近衛隊員が告げる。かなたは「ご苦労様です」と彼を労う。するとモニターから『失礼します』と別の人物の声が聞こえてきた。天雅楼本殿の警備班の隊員の声だ。


『弐妃さま。来訪者たちの身辺は確認いたしました。問題ありません。正門のロックを解除いたしますが、よろしいでしょうか?』


「はい。お願いします」


 電子ロックは解錠された。

 しばらくして、ガラララと自動で扉が開かれる。これも遠隔操作してくれたようだ。

 かなたと刀歌は玄関で来客たちを待つ。

 そして、おもむろに人影が玄関に入って来た。

 最初に入って来たその人物の姿に、


「「………………え?」」


 かなたも刀歌も、思わず驚くのであった。








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