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骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第13部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第五章 それは憧憬でもあって➂

 三十分ほど前。

 天雅楼本殿の執務室にいた真刃に連絡が届いた。


『ご主人。PCにメールっス』


 今はPC内に移動していた金羊がそう教えてくれた。

 同時に執務机の上で開いていたノートPCのモニターにメールが表示される。

 執務席に座る真刃が「ふむ」と呟き、メールの内容を確認した。

 それは火緋神耀からのメールだった。

 真刃は双眸を細めた。


「……改めて火緋神家の当主との会合が決まったようだな」


 そこには会合の日時と場所が記されていた。

 燦の父との会合。

 杠葉にとっては息子か孫のような人物だと聞いている。


『山岡からは中々の堅物とも聞いておるな』


 と、そんな台詞と共に、ボボボと鬼火が輝いて霊体の猿忌が現れる。


『しかし、あの怪物どもと戦うには火緋神家の協力は不可欠だ』


「……分かっておる」


 真刃は背もたれに体重を預けて嘆息した。


「火緋神家とだけは関わるつもりはなかったのだが、これも仕方あるまい」


 これが必要であることは、真刃もよく理解しているつもりだ。

 ただ、そうは言っても、やはり気まずさのようなモノがあった。

 それだけ因縁深い一族ということである。


(……百年の因縁か)


 遠き日々に真刃が思いを馳せた、その時だった。


『あ。ご主人』


 金羊が言う。


『もう一本メールっス。今度はAKIRA先生からっスね』


 金羊の言う『AKIRA先生』とは幹部の千堂晃のことだ。

 再びPCにメールの内容が映し出される。

 真刃と猿忌はそれを見やり、


『……ほほう』


 興味深そうに、猿忌があごに手をやった。


『あれが完成したのか』


「……ふむ」


 しかし、真刃の方はあまり乗り気ではない様子だ。


「千堂には悪いが、(オレ)としては必要ないのだがな」


『まあ、確かにご主人には不要っスね。けど、定例会議で綾香ちゃんが言ってたように、ボスの象徴的なモノとしてはありだと思うっスよ』


「……まあ、そうかもしれんが」


 一拍置いてから、真刃は腕を組んで思いを零す。


(オレ)が言いたいのは、あれならすでに持っているという意味なのだが……」


『いやいや。あれって言ってみれば量産品じゃないっスか』


 金羊が呆れた声で言う。


『王さまが量産品を大事そうに持ってたら様にならないっスよ』


『それは一理あるな』猿忌も同意する。


『配下も増えた。拠点も得た。愛する妃たちもいる。主もそろそろ王としての自覚を持てということだ』


 一拍おいてから、


『さて。では早速届けてもらうことにするか』


「……いや待て。猿忌」


 真刃はPCモニターの時間を見やる。


「かなたの友人が来るまで時間がまだあるな」


 そう呟いた後、おもむろに立ち上がった。


「王の自覚とやらは知らんが、結局、手間をかけてまで制作してもらったのだ。オレから千堂の工房にまで出向くのもいいだろう」


『おおっ! AKIRA先生の工房っスか!』


 金羊が期待を込めた声を上げる。


『楽しみっス! きっとフィギュアの博物館みたいっスよ!』


「ああ。そう言えば、千堂は今代屈指の人形師でもあったな」


 真刃は苦笑を浮かべて告げた。


「ふむ。息抜きには丁度良さそうだな」



       ◆



 その頃。


「うわああ……」


 琴姫は瞳を輝かせていた。

 場所は天雅楼の一角。武具店の店内だった。

 そこは百貨店(ブラックストア)のワンフロアにも劣らないほどの広大さだった。ショーケースが多数あり、武具のみならず、防具や特殊な霊具も展示している。


「凄い! これ凄いよ!」


 主に武具を展示したショーケースの前に張り付いて琴姫が言う。


「性能が段違いだよ! 値段も段違いだけど!」


「お、おう……」


 庶民派の剛人は顔を引きつらせていた。

 恐る恐るアレックスの方を見やり、


「だ、大丈夫なのか? 値札がどれも七桁を越えてんだが……」


「ああ。そんぐらいの貯えならあるよ」


 アレックスは展示された霊具を吟味しつつ、気軽に言う。


「セイラ。貸してもらえっか? この件が終わったら必ず返すから」


「ええ。構わないわよ」


 セイラもショーケースを見ながら頷いた。


「これぐらいなら。あなたの身元も杜ノ宮さんが保証してくれるだろうし」


「サンキュ」


 そんなやり取りをする女子たち。

 剛人と、同じく根が庶民派である刀真はガクガクと震えていた。


「まあ、アタシは流石に引くけどな」


 ラシャはショーケースを覗き込んで言う。


「ダウンタウン出身だし。この額はエグイよな」


 そんなことを呟いた。剛人と刀真はコクコクと同意していた。

 対し、アレックスは、


「命を預ける霊具には金をかけるべきだぞ。お。これいいな」


 そう言って、店員と交渉してジャケットをショーケースから出してもらった。

 かなり大きな白いジャケットだった。普段、アレックスが愛用しているジャケットに似ている。一般着としても使えるデザインだった。

 アレックスはそのジャケットを羽織った。


「お。軽いな。着心地も最高だ。しかも防刃、耐火、耐寒か。これもらうよ」


 即断した。剛人と刀真は「「ひえっ」」と息を呑むが、アレックスは気にせずに購入し、そのまま着用した。いつもの上着が無くて落ち着かなかったのだ。


「さて。本命は……」


 アレックスは、主に武具が置かれているショーケースに向かった。

 欲しいのは大剣だ。出来れば失った愛剣にも劣らない武具があればいいのだが。

 アレックスはショーケースを覗き込んだ。


(……う~ん)


 アレックスは悩ましげに眉をひそめた。

 中々の名剣揃いのように見える。いくつか琴線に触れる剣もあった。

 ただ、やはり実際に使ってみないと分からない。


「よろしければご試技されますか?」


「え? ここで試せんの?」


 店員の声掛けに、アレックスが目を瞬かせた。

 店員は「はい」と答えて、


「本店の地下には武具の試技室がございます。ご案内いたしましょうか?」


「へえ~。だったら」


 アレックスは気になる大剣を幾つかピックアップした。

 それを店員がショーケースから取り出し、他の店員も手伝って運んでいく。

 アレックスは「少し試してくるよ」と、色々と見物している剛人たちに一声を掛けてから一人、店員に案内された。

 地下の試技室は中会議室ほどの部屋が並んでいる場所だった。


「これらはいわゆるVRルームとなります」


 歩きながら店員が説明してくれる。


「当店の店主は実戦形式に強い拘りをもっておりまして、試技にも限りないリアリティを追求しております。そのため、VRルームでは精巧な戦闘人形に我霊(エゴス)、もしくは引導師(ボーダー)の姿を投影して模擬戦が可能になっております」


「へえ~」


 アレックスは感心の声を零した。


「お客さまのVRルームは七番室となります。ご希望の武具もすでに運搬しております。VRルームに入れば、タッチパネルより使用が可能になりますので、ごゆっくりと。何かございましたらタッチパネルでお呼びください。すぐに応対させていただきます」


 店員はそう告げてアレックスに一礼すると、一階に戻っていった。

 アレックスは一人廊下を進む。

 意外と使用者が多いようだ。武具や霊具を運ぶ店員と何度かすれ違った。

 アレックスは気にせずに歩いていたのだが、


(……お?)


 おもむろに足を止めた。

 前を歩く店員たちを見て思わず足を止めてしまったのだ。


「……重いな」「流石は特注か」


 二人の店員は台車を使いながら、そんなことを呟いていた。

 彼らは八番室へと台車ごと入っていった。

 そうして彼らが部屋から出てくるまで一分とかからなかった。店員たちは荷物がなくなり軽くなった台車を運びながら、アレックスに気付くと一礼してその場から去っていった。

 アレックスはしばし様子を窺っていたが、不意にそわそわとする。

 周囲に人がいないことを確認してから、こっそり八番室のドアを開けてみた。

 すると――。


「……おお」


 目を輝かせるアレックス。

 そこには彼女が興味津々になるようなモノがあった。








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