表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

470/501

第四章 奇縁、再び①

 その日の朝。天雅楼本殿の執務室にて。

 真刃は一人、ノートPCを睨みつけて眉をしかめていた。

 モニターにはとある報告資料が表示されている。

 ややあって、


「……国家引導師か」


 ポツリと真刃が呟く。

 すると、ポンっとモニターの端に羊のイラストがポップアップされた。

 電脳系の従霊である金羊のイラストである。


『いわゆる引導師の警察官っすね』


 デフォルメ化された羊のイラストの顔が口を動かして喋り出す。金羊である。


『ご主人や桜華ちゃんの遠い後輩に当たる職種っスね。ご主人たちも軍属の違いはあっても国家引導師だったっスから』


「……そうなるのか」


 真刃は嘆息した。


「国家引導師が二名行方不明。引導師による捜索の結果、山林にて埋められた白骨を発見。本人たちであることは確認できたが、白骨死体に損傷はなく、死因も死後経過も不明。殺害現場もか。分かるのは明らかな異常死ということだけか」


 そう呟いてから、指を組んだ。


「よくこんな情報を拾い上げたものだな」


『正確には盗んだんスけどね』


 金羊のイラストが蹄を出して『やれやれっス』と肩を竦めた。


『ホマレちゃんが警察のサーバーに張り付いていたそうっス。この街で怪しい動きがあればそこに集まるっスから。そこから気になる情報を盗んだそうっス。これはその一つっスね』


「……あの(むすめ)は」


 真刃は額に指先を当てて渋面を浮かべた。


「どうにも手段を選ばぬところがあるな。引導師の性分と言えばそれまでだが」


『まあ、今回は特に危機的な状況っスからね』


 金羊のイラストが苦笑を浮かべた。


『その点はアッシも人のことは言えないっスよ。それにこの変死体事件が怪しい情報であるのは確かっスからね。けど、ホマレちゃん、他にも不眠不休で情報収集していたみたいで今はバタンキューっス』


 そこで金羊は『伝言があるっス』と続けて、


『「ホマレがお役に立ったのならご褒美を要求する! ぜひ初チューと初エッチを! 第二段階への移行を要求する! あと捌妃の座も!」』


 ホマレそっくりの口調と声を再現して告げる。真刃は渋面を浮かべたままだ。


『それだけ伝えてバタンキューっスよ。自分で報告して成果をアピールする体力も残ってなかったみたいっスね。正直、初エッチとかの判断はご主人に任せるっスけど……』


 金羊は自分の声に戻して言う。


『今回あの娘はかなり頑張ってるっスよ。それこそ綾香ちゃん並みっス。同じ電脳組の調査班としては少しぐらい気にかけてあげて欲しいっス』


 と、珍しく金羊が月子以外を推した。

 そう気遣うほどに、今回のホマレは頑張っていたということだ。

 真刃は「そうだな……」と呟き、


「もう少し落ち着いた後でホマレの部屋に様子を見に行こう」


 そう返した。


『うス。それでこの死亡した二人の最近の行動を調べようと思うんスけど……』


 と、金羊が本題に入ろうとした時だった。

 不意に呼び出し音が鳴った。執務机に置いてある真刃のスマホだ。

 訝しんだ表情で真刃がスマホを手に取ると、見覚えのある名前が表示されていた。


「……あやつか」


 真刃としてはあまり相手をしたくない人物だ。

 しかし、一向にスマホは鳴りやまない。仕方がなく真刃は応答した。


「……もしもし」


 そう声を掛ける。相手は予想通りの相手だった。

 だが、普段とは様子が少し違っていた。

 真刃は電話の相手としばし会話をしてから、通話を切った。


『……ご主人?』


 金羊のイラストが小首を傾げた。

 ノートPCにいたため、金羊であっても今の会話の内容は分からない。

 真刃は口元を片手で抑えて、しばし沈黙していた。

 そうして、


「すまぬ。金羊。話は後だ」


 と、告げてから、


「かなたをここに呼んでくれ」


 真刃はそう命じた。



       ◆



 一人の少女が廊下を歩く。

 肩辺りまで伸ばした黒髪と、人形のように整った顔立ちが印象的な少女だ。

 服装はスカートの丈が短い黒のワンピースドレス。トップスには制服のような白いジャケットを羽織っている。黒いストッキングに覆われた足には軍靴(ブーツ)を履いていた。ここは天雅楼の洋式区なので土足でも問題ない。そして左腕には『弐』の腕章を付けている。

 ――弐妃・杜ノ宮かなたである。

 今の彼女の服装は正妃(ナンバーズ)の正装だった。

 この服は戦闘服も兼ねていた。

 かなたに限らず、最近の正妃たちはこの服装でいることが多かった。それだけ今の状況に危機感を抱いているということでもある。

 かなたが無言のまま少し急ぎ足で歩いていると、


『……ご主人からの呼び出しか』


 かなたの首に付けた赤いチョーカーから声を掛けられる。

 彼女の専属従霊である赤蛇の声だ。


『やっぱ月子嬢ちゃんのことか?』


「分からない」かなたは足を止めずにかぶりを振った。


「けど、その可能性は高い」


 そう呟く。

 月子の件はここ数日での最大の懸念事項だった。

 月子と仲の良いかなたから、彼女の様子を聞きたいのかも知れない。

 そうこうしている内に、かなたは真刃の執務室の前に到着した。

 ドアをノックすると『入ってくれ』と真刃の返答が聞こえた。

 かなたは「失礼します」と告げてドアを開けた。

 そこには執務席に座る真刃がいた。

 かなたは一礼してから、


「何か御用でしょうか。真刃さま」


「ああ。よく来てくれた。かなた」


 真刃は立ち上がって、かなたの元に近づいていく。

 それから当たり前のように、まずかなたの頭を撫でた。


「実はな。先程ゴーシュ=フォスターから連絡があった」


「……ゴーシュさまからですか?」


 真刃の言葉に、かなたは少し驚いた顔をする。


「ああ」


 かなたの頭から手を離して真刃は頷く。その表情はあまりよろしくない。


「正直に言えば良くない報せだ。そしてお前にも関係する話だった」


「……私に?」


 かなたは少しだけ眉をひそめた。

 真刃は「……うむ」と一瞬言葉を詰まらせつつも、


「今お前に伝えるべきか迷ったが、(オレ)の直感が伝えた方がいいと判断した」


 一呼吸入れて、


「かなた。お前は『アレックス=オズ』という人物を知っているか?」


「………え?」


 真刃の口から想定外の人物の名が出てきて、かなたは流石に目を見開いた。


「……オズですか。確かに知っていますが……」


 内心で動揺しつつも、かなたがそう答えると、


「……そうか。やはり知っている人物なのだな。ゴーシュ=フォスターの話ではお前とは旧知の間柄である少年らしいな」


 真刃が神妙な声で呟き、あごに手をやった。

 数秒の間を空けて、


「落ち着いて聞いてくれ。かなた。実はその少年なのだが」


 躊躇いつつも、真刃は告げる。


「生死不明。現在行方不明中とのことだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ