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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第三章 エスケープ・シンデレラ①

 某日の朝。

 とあるホテルの最上階にて。


(……やれやれだ)


 一人の男が、長い廊下を歩いていた。

 年齢は二十代前半ほどか。碧眼と逆立つ金髪が印象的な青年だ。髪は後ろが少しだけ長く、うなじ辺りで纏めている。

 服装は灰色のスラックスと黒いシャツ。その上に灰色のジャケットを羽織っていた。

 ――名付き我霊(ネームドエゴス)。《死門(デモンゲート)》のジェイである。


(結構頑張ったんだがな)


 ジェイは歩きながら、あごに手をやった。


(ストック的には、ようやく3000ぐらいか)


 つい先日まで世界中を飛び回って、集めて来た死体のストックだ。

 今回は急ぎであり、質よりも量を優先したため、引導師(ボーダー)の死体は全体の一割ほどだ。それ以外は一般人の死体である。


(俺史上、最弱の軍団だな)


 ジェイは肩を落として嘆息した。

 これでもコレクションには結構拘るタイプなのだ。

 これまでは、ストックはすべて引導師で揃えたものだ。

 敬愛する叔父貴の頼みでなければ、こんな最弱軍団を用意したりはしない。


(こんな貧弱集団なんて何かの役に立つのかね?)


 流石に疑問を抱く。

 引導師にとっては一般人のゾンビなど雑魚に過ぎない。


(まあ、叔父貴のことだから何か計画があるんだろうけどな)


 ジェイは廊下を歩き続けた。

 現在、このホテルの最上階は貸し切っている。

 この街においてジェイたちの拠点であり、闇の集う万魔殿ということだ。


(とりあえず、叔父貴に顔でも見せとくか)


 海外出張から戻ってから色々とあったため、まだ報告も出来ていない。

 ジェイは叔父貴と敬う《恒河沙剣刃(ゴウガシャケンジン)餓者髑髏(ガシャドクロ)》が滞在する部屋に向かうことにした。

 すると、その時だった。

 廊下に並ぶドアの一つが開いたのである。

 丁度進む先だったので、ジェイは足を止めた。

 ドアが開いた部屋からは二人の人物が出て来た。


「……あら。ジェイ」


 一人は女性だ。ジェイもよく知る人物だ。

 年の頃は二十代前半。頭頂部で冠状に結いだ黄金の髪に青い瞳。その抜群のスタイルを誇る肢体には白い紳士服(スーツ)を着けている美女だ。

 餓者髑髏の妻であり、最強クラスの名付き我霊(ネームドエゴス)。《屍山喰らい(デスイーター)》・エリーゼである。


「戻っていたのですね」


 エリーゼが言う。

 ジェイは「うす」と応えつつ、もう一人の人物に目をやった。

 エリーゼに案内されるように部屋から出て来た男。

 年齢は三十代半ばほどか。ボサボサの髪に丸い眼鏡をかけている。

 ただそれ以上に印象的なのは体格だ。百八十センチはある大柄なのだが、顔も含めて明らかに不摂生が分かる体型だった。

 特注サイズのシャツとズボン。それをサスペンダーで支えている。


「……姐さん」ジェイが問う。「そいつは?」


 ジェイにとっては初めて見る人物だった。

 直感で人外であることは察したが、それ以上は分からない。


「不敬ですわよ。ジェイ。けれど、あなたは初めてお会いするのね」


 すると、エリーゼは傍らの大男に手を向けた。


「こちらの方はイノセンスファクトリーのCEOですわ」


「……ああ」


 ジェイは双眸を細めた。


「この国の会社っすね。確かゲーム関連の。eスポーツの大会とかも世界規模で手掛けていたっすね。結構メジャーな大企業じゃねえっすか」


 そこで肩を竦めた。


「つうか世も末っすね。そんな著名人まで名付き我霊(ネームドエゴス)だったってことっすか」


「……ボフフ。いえいえ。末どころか世はすでにチェックメイトでござるよ」


 大男は頬を震わせて告げる。


「特にこの国はジエンドでござる。他国に比べ、傑物も久しく輩出なし。どこぞの誰かが創り上げた技術(サービス)の恩恵をただただ享受するだけでござる」


 大男はジェイの前まで移動した。


「ボフフ。まったく。自ら想像することを止めたヒヨッコばかりで困りますな。傑物たちが覇を競った戦国の世に比べ、嘆かわしいことでござる」


「……随分と変な口調だな」ジェイが眉根を寄せる。「ジャパニーズオタクって奴か? けど、最後の台詞だけは何故かしっくり来たな」


「当然でござる。なにせ実体験からの感想でござるからな」


 と、大男は脂肪を蓄えたあごを撫でながら答える。


「……あんた。名前は?」


 ジェイが表情を鋭くして問う。と、


引導師(ボーダー)どもに付けられた二つ名はすでに捨てたでござるよ。そうですな。拙者のことは『土蜘蛛(つちぐも)』と呼ばれよ」


 サスペンダーを指で引っ張り、バチンと鳴らしてそう名乗る大男。

 対し、ジェイは「……おい」と片眉を上げた。


「……デブ。俺も叔父貴に世話になってからはこの国の怪異も知らべてんだぜ」


 かなり険悪な眼差しで、ジェイは大男を睨み据えた。


「『土蜘蛛』ってのはこの国の妖怪(ゴースト)だ。怪異名じゃねえか。千年我霊(エゴスミレニア)のみに許された名前だぞ」


「……ボフフ」


 露骨な敵意を見せるジェイに、大男は頬を揺らした。


「拙者はすでに五百年の時を生きておるのでござる。いずれ第捌番として、かの方々の末席に名を連ねることになるでござる。ゆえに遅かれ早かれでござるよ」


「……見た目に反して相当なジジイってことか」


 ジェイは眉根を寄せた。

 持ち併せる異能による差はあるが、基本的に我霊は年月を経るほどに強くなる。

 従って、五百年ともなると凄まじい大物だった。


「……姐さん」


 ジェイはエリーゼに視線を向けた。


「これは叔父貴たちも認めてることなんすか?」


「ええ」エリーゼは頷いた。「五百年以上も生き延びている我霊(エゴス)は非常に希少ですわ。土蜘蛛さまにはお館さまたちもとても期待されていますの」


 と、答えるエリーゼ。


「千年の時を迎えた暁には、祭神さまより改めて名を授けられることでしょう」


 エリーゼはそう補足した。

 千年我霊の名は、元々は引導師から名付けられたのが起源になるのだが、別に慣例という訳でもない。千年我霊の長が、新たなる千年我霊に名を授けても問題はなかった。

 そして、今の時点で怪異名が確定しているほどに、土蜘蛛は期待されている『新人』ということでもあった。見た目と雰囲気からは全く想像も出来ないが。


「……そうっすか」


 いずれにせよ、千年我霊たちの公認ということらしい。

 多少の不満はあるが、ジェイは納得することにした。


「そんで、その期待の新人さんも今回のお祭りに参加ってことっすか?」


「ええ。そうですわ」


 ポンと手を叩いてエリーゼは言う。


「土蜘蛛さまも快諾してくださいました」


「……当然でござるよ」


 大男――土蜘蛛が言う。


「天の七座、お三方のお声掛けでござる。しかも、その内の二人はあのタマたんとUたそでござるよ。断るなど拙者にとっては切腹ものでござるよ」


「……いや」ジェイは土蜘蛛に半眼を向けた。「お前、天の七座を舐めてねえか?」


「Uたその御美(おみ)(あし)ならば是非ともペロペロしたいでござるが……」


 土蜘蛛はジェイを見据えて、眼鏡の奥で双眸を細めた。


「こう見えても天の七座への敬意は忘れたことなどないでござるよ。まあ、それはさておき、拙者はここ数ヶ月、別件で餓者髑髏どのと何度もお会いしていたのでござる」


 一拍おいて、


「今日、訪れたのもその件でござるな」


「……あン? どういう意味だ?」


 ジェイは眉根を寄せた。それからエリーゼの方を見やり、


「姐さん? どういうことっすか?」


「あらあら。ジェイ」


 すると、エリーゼは呆れたような表情を見せた。


「もう忘れたのかしら。私たちが元々この地で行っていた事業のことを」


「事業って――あ」ジェイは思い出した。「そういうことっすか」


「ええ。そうですわ」


 エリーゼは頷く。

 そうして、


「実は土蜘蛛さまは――」


 一拍おいて、彼女はこう告げる。


「『お見合い』の参加者のお一人なのです」








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