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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第12部

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第二章 覚悟の在り様②

 五分ほど前。

 一人の少女が天雅楼本殿の廊下を歩いていた。

 年齢は十四歳。やや勝気な赤い瞳に、ボーイッシュな髪型の赤い髪。年相応のスレンダーな肢体にはアスリートウェアを着ている。

 近衛隊所属の準妃隊員。神楽坂茜だった。

 普段は双子の妹である葵と一緒に行動することが多いのだが、今は一人だ。

 茜はとある部屋に向かっていた。

 その表情は少し険しい。


(……私は(キング)隷者(ドナー)になった)


 歩きながら茜は考える。

 第一段階ではあるが、遂にここまでは辿り着いた。


(……けど、まだ道程は遠い……)


 茜は小さな吐息を零した。

 一般的に男女で《魂結び(ソウルスナッチ)》を行った場合、ほとんどは第二段階まで行くものだ。

 けれど、(キング)の場合はそれが当て始まるとは限らない。

 今回の契約に至った理由も極めて異例だった。従来の魂力(オド)貯蔵庫(タンク)としてではなく、茜たちが自分自身を守れるように彼の力を分け与えるための契約だ。

 言わば、保護者としての心配からの対応なのである。

 何となく、このままだといつか妹と自分は彼の養女にされそうな気がした。

 それはそれでありがたいことだが、ただ茜の望むところではなかった。


(私の願いは正妃(ナンバーズ)になることだから)


 正妃を目指して懸命に努力しているのである。

 しかし、最近になって思い悩んでいる。


(けど、私は一番弱い……)


 茜は眉根を寄せた。

 努力するほどに理解してきた。

 正妃とはただ彼に愛されるだけの存在ではない。

 そして彼に守られるだけの存在でもない。

 彼に寄り添い、彼を支える者こそが正妃なのだ。

 少なくとも、現正妃たちには全員その覚悟があると思える。まだ子供っぽい肆妃『星姫』さえも、深く理解せずとも、直感でそれを察している節があった。

 準妃隊員にしてもそうだ。

 つい先日、準妃筆頭になった西條綾香――正直、彼女に関しては茜も思うところが沢山あるのだが――は、組織における(キング)の最側近として手腕を発揮している。

 生真面目な茜とは性が合わないホマレも情報収集能力においては超一流だ。訓練もロクに出ずに自室でグータラしているように見えても、しっかりと活躍している。

 二人とも、それぞれの得意分野で(キング)と並び立っていた。

 一方、まだ覚悟が足りていないと感じるのは葵だが、妹は偶然にも新たな力を手に入れていた。いざとなれば一人でも戦える力である。心の持ちよう一つで妹は化けると思った。

 覚悟はあっても、力が足りていない茜とは違う。


 正妃はおろか、各準妃隊員もそれぞれの武器を持っている。

 自分だけが何もなく弱かった。


(……私は)


 グッと強く唇を噛んで、茜は拳を固めた。


(私は、もっと強くなりたい)


 心の底からそう思う。

 彼への想いが強くなるほどにそう願っていた。

 茜は抜本的な打開策を探していた。

 そのためにも、今は少しでも経験して学ぶべきだった。


(まずは正妃から学ぼう)


 決して諦めはしない。

 今さら諦めるには胸の炎は熱く燃え上がりすぎてしまった。


(あの人の傍に立つために)


 茜は目的の部屋の前に到着した。

 壱妃・エルナ=フォスターの自室だ。

 茜が目指すべき先。正妃の長である少女の部屋だ。

 茜はコンコンとノックすると、「あ、はい。待って」と返ってきた。

 ややあってドアが開く。

 すでにアスリートウェアに着替えているエルナだった。

 茜も同じウェア姿のため、スタイルの差が際立っていた。

 たゆんたゆんかつ、引き締まるところは実に引き締まっている。


(……たった一歳差なのに)


 どうすればこうなるのか。やはりこれも学ぶべき点か。

 茜は少し遠い目をしてそう思った。

 ともあれ、


「おはようございます。エルナさま」


 まずは、妃の長に挨拶をするのであった。



       ◆



「ごめん。全然気づいてなかったわ」


「いえ。お気になさらず」


 エルナと茜は廊下を並んで歩いていた。

 エルナは自分のスマホを取り出すと目を落として、


「うわ。確かに燦から無茶くちゃ呼び出し連絡きてるわね」


「燦さまは待ちきれないご様子でしたから」


「道場には燦以外に誰が集まってるの?」


 エルナがそう尋ねると、


「妹の葵。伍妃・芽衣さま。そして肆妃『月姫』・月子さまです」


 茜がそう答えた。


「私はエルナさまをお迎えに参りました。弐妃・かなたさまと、参妃・刀歌さまもおられましたが、漆妃・桜華さまがおいでになられてお二人を伴って屋外訓練場に行かれました」


「あ、そうなんだ」


 エルナは頬に指先を当てた。


「刀歌がそろそろ戦妃武装(オーバーレイド)が完成しそうな様子だったから、かなたは付き添いね。仕上げに入るのかしら? あ、ところで茜ちゃん」


 エルナは茜を見やる。


「私たちに敬語はいらないわよ。特に年少組はほとんど同世代ばかりなんだし。まあ、かなたも敬語を使うけど、茜ちゃんのはかなり格式ばった感じがするし」


「……いえ」


 それに対し、茜はかぶりを振った。


「私はまだ準妃隊員の身ですから。私は正妃の方々には常に最大限の敬意を払うべきであると思っております。少なくとも」


 一拍おいて、


「私があの方の愛を受けて、同じ正妃となる日までは」


「……ああ~そっか」


 エルナは遠い目をした。


「準妃隊員だもね。茜ちゃんもガチ勢か。というより準妃隊員って全員そうよね」


 エルナの呟きに、茜は「はい」と頷き、


「妹はまだ若干覚悟が足りていませんが、ホマレは常に公言しております。西條綾香はご存じの通り、すでに正妃の方々とほぼ同等です。個人的に西條には恩義もありますが、この件では嘘つき、ずるいとも思っています」


 少し拗ねたように告げる茜。

 それから「失礼。脱線しました」と告げて、


「敬意は常に抱いておりますが、私も正妃の方々とは親しくなりたいとも思っています。特に同世代の方々には学びたいこともあります。エルナさま。些細なことですがお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん。気軽に聞いて。なんでも」


 親しみを込めてエルナがそう言うと、


「……ではエルナさま。お聞きしたいのですが」


 学ぶべきことは学ぶ。

 茜は恥も外聞も捨てて、


「どうしたらそこまで大きく発育するのでしょうか?」


 まじまじとエルナの大きな双丘を見つめつつ、そう尋ねてみた。

 対するエルナは、


「……………はい?」


 目を瞬かせるだけだった。






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