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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第2部 『炎の刃と氷の猫』

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第三章 魔王は語る②

 明くる日の朝。


「さぁてさてェ。皆さん」


 少し間延びした声が、教室内に響く。

 ボサボサ髪の、白衣を纏う人物。大門紀次郎の声である。


「早速、今日も授業を始めようと思いますがぁ、そうですねェ。まずは、前回の――封宮師(メイザー)について、少しおさらいでもしておきましょうかぁ」


 そう言って、大門は教室を見回した。

 そこは、秘密裏に引導師を育成する特殊な学校の一つ。

 私立星那(せいな)クレストフォルス校の一室。大門が受け持つ、中等部の教室だ。


「近年、引導師(ボーダー)魂力(オド)は増大の傾向にありますゥ。ここ百年で、個人の平均が二倍近くにまで上がっているのですゥ。それに加えて《魂結び(ソウルスナッチ)》の強い推奨により、遂に魂力が1500を超える者が出て来たのですゥ」


 大門は、教壇に両手をついた。


「そうして発現したのが封宮(メイズ)ですゥ。莫大な魂力は世界にも干渉できるのですゥ。封宮とは術者のイメージを世界に反映し、一つの異界を創り出す秘術なのですよォ」


「先生」手を上げて発言したのは、クラスをまとめる委員長の女生徒だった。


「それって、うちの学校の模擬戦闘とかでも使われる術ですよね」


 大門は「はいィ」と頷いた。


「うちの学校にも封宮を創れる教師はいますからねェ。封宮は非常に便利なのですよォ。封宮内での損害は、解除時には全く周囲に影響を与えませんん。設備も不要ですしィ、損害も気にする必要はありませんん。ですが、欠点もあるのですよォ」 


 そこで大門は生徒の一人――エルナ=フォスターに声を掛けた。


「復習ですゥ。答えてくださいィ、フォスターさぁん」


「はい」エルナは立ち上がった。「封宮は決め手にかける術です。使用する魂力の量にも左右されますが、B級以上の我霊だと致命傷までは与えられないと聞きます」


 一拍おいて、


「加えて、使用に必要な魂力が多すぎます。発現させるだけで1000もの魂力を消費し、B級以上だと致命傷も与えられない。系譜術を持つ者なら使用しない術です」


「……ええ。そうですねェ」


 大門は苦笑を零した。


「汎用の術としては、封宮は最上位のものですが、結局、系譜術ほどの戦闘力はなくゥ、封宮師は、どちらかというとサポートを主体にしますゥ。我霊を封宮に閉じ込め、退治は系譜術を持つ引導師に任せるゥ。それが今の在り様ですねェ」


 大門は生徒たちに目をやった。


「あなた方の中には系譜術を失伝した家系もありますゥ。ですが、封宮師のようにサポートを主体にした活躍の道もあることを憶えておいてくださいィ」


 大門は、ニカっと笑って告げる。


「では、皆さん。今日の授業を始めましょうかぁ」



       ◆



「……う~ん、封宮師(メイザー)かぁ」


 放課後。

 教室に残った片桐あずさは、ポッキーを片手に呟いた。


「うちの家系も系譜術がないからなぁ。それもありなのかなぁ」


「ええ~」


 エルナが、あずさが手に持つポッキーの箱から一本拝借しながら言う。 

 椅子に座りつつ、ポッキーを口に咥える。


「本気で言ってるの? あずさ?」 


 エルナは言う。


「あずさの魂力って、確か82だったよね? 仮に100ぐらいの魂力を持った人と《魂結び》で増加させようとしたら……」 


 エルナはポッキーを咥えながら、指を折っていく。

 そして少し青ざめた。


「……十二人以上の隷者が必要になっちゃうよ」


「……う」


 あずさも顔を引きつらせた。エルナはさらに続ける。


「校内にも隷者がいる人もいるけど、それでも最大で五人ぐらいだよ」


「………うう」


「ちなみに、うちのゲスお兄さまは十四人だって」


「……それはまた凄いわね」


 あずさはポッキーを食べきって、机に肘をつき嘆息した。


「まあ、有名な当主クラスだと、愛人兼隷者って十四~五人ぐらいいるってよく聞くものね。けど、私には無理だわ。そんな数の男の人とエッチなんて洒落にもならないし。逆ハーレムなんて無理無理。そもそも、そんな人数を受け入れるキャパが私にある訳ないし」


 他者から魂力を供給する《魂結び》だが、無尽蔵に行える訳ではない。

 個人差はあるが、第一段階だと五十~六十名。第二段階だと多くて三十名。さらに補足すると、第二段階の人数が多いほど、第一段階の人数上限が下がることが近年では分かっていた。

 隷者に出来る人数にも、流石に限りがあるということだ。


「そうだよねえ……」


 エルナも、あずさと同じ机の上で頬杖を突いた。


「まあ、それ以前にまず系譜術がないと《魂結びの儀》で勝てないよ。結局、封宮師って、負傷とかで戦線から引退した引導師がなるものだって話だしね」


「はあ~」


 あずさは溜息をついた。 


「仕方ないわ。私は術のアプリ化で一儲けすることにするわ」 


「あはは、あずさ、術のプログラミングが得意だしね。新作できたらまた頂戴」


 と、エルナが朗らかに笑った時。


「……エルナさま」


 不意に、声を掛けられる。

 エルナが振り向くと、そこには無表情のかなたが立っていた。


「え? 杜ノ宮さん?」


 変わった人物の登場に、あずさが目を丸くした。

 次いで、エルナの方を見やる。


「え? エルナって、杜ノ宮さんと仲が良かったっけ?」


「あ、うん」


 エルナは笑う。


「色々あってね。かなたはもう、私の妹のようなものなの」


「……………」


 その紹介に、かなたは静かに頭を下げた。

 あずさは、未だに驚いた顔をしていた。 


「色々って……何があったの? しかもエルナのこと、『さま』付けだし」


「う~ん、まあ、本当に色々なんだけど……簡潔に言うとね。実はかなたも――」


 と、エルナが説明しようとしたら、


「……エルナさま。お話が」


 かなた自身によって止められた。

 エルナが「ん? どうしたの?」と聞くと、かなたは「来客です」と答えた。

 次いで、教室の入り口に顔を向ける。


「私と……エルナさまに、話があるそうです」


 かなたはそう告げた。

 エルナとあずさは、かなたの視線の先に目をやった。


「え?」「なんで?」


 そして二人して驚いた顔をする。

 彼女たちの視線の先。

 教室の入り口には、一人の女生徒が立っていたのだ。


「……すまない。少し時間をもらっていいか?」 


 エルナたちの視線を受けて、校内の有名人である彼女が言う。


「私の名は、御影刀歌と言う」


 一呼吸入れて。


「エルナ=フォスターさん。杜ノ宮かなたさん。君たちに話があるのだ」


 御影刀歌は、そう話を切り出すのであった。

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