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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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幕間一 刃の真意

 その日。

 やや太陽が沈み始めた時間帯。


 蒼髪の青年――扇蒼火は古びた館の中を進んでいた。

 同行者もいる。蒼火と同じ近衛隊の隊服を着た青年二人だ。

 共に二十代半ば。一人はかなりの長身で、もう一人は筋肉質な青年たちだ。

 その隊服が示す通り、近衛隊の隊員である。


 長身の青年の名は島津。もう一人を高崎と言った。

 蒼火も含めて三人は特務隊と呼ばれていた。

 (キング)の《隷属誓文(ギアスレコード)》が刻まれた霊具の捜索。そして破壊の特命を受けたメンバーだ。

 他にも特務隊のメンバーはいる。捜索候補の場所が多いため、彼らは三人と二人に別れてチームを組んでいた。


「しかし、マジであったんだな。加賀見(かがみ)(ごう)(すけ)の洋館」


 廃墟のように物が散乱した廊下を歩きながら、高崎が言う。


「てっきり都市伝説だと思ってたぜ」


「昭和の怪人。加賀見郷介か……」


 と、島津も高崎の言葉に続く。


 ――加賀見郷介。

 昭和初期に暗躍したという引導師である。

 その名が本名なのかは分からないが、彼は呪物蒐集家として有名だった。

 ここで言う呪物とは、いわくつきの霊具のことだ。

 それを時には金銭で。時には力尽くで奪い、蒐集していたという話だ。

 嘘か真か、その中には神威霊具まであったという。

 そうして晩年に自分の死期を悟った彼は、山間深くに洋館を建てて、そこに蒐集した呪物をすべて隠したと噂されていた。


 しかし、その洋館がどこにあるのか。

 それを突き止めることが出来る者はこれまで誰もいなかった。


 ――そう。いなかったはずだった。


「ホマレちゃん、スゲエな」


 高崎が言う。


「まさかここを見つけ出すとはな」


「まあ、それ以外はポンコツではあるがな」


 島津が苦笑を浮かべて言う。

 ホマレのポンコツぶりは近衛隊でも有名だった。


「けど、俺は好きだぜ。ああいう一点突破型のポンコツ娘。しかもめっさ可愛いし」


 あごに手をやって高崎は笑う。


「甘やかしまくりてえ。ポンコツぶりに拍車がかかるぐれえに。もちろんベッドの上でも。準妃じゃなきゃ口説いてたかもな」


「好みで言うのなら、俺はやはり芽衣の姐さんがいいな」


 島津が語る。


強欲都市(グリード)で聞いていた噂とは大違いだ。あの優しさが溢れるような包容力。嫁さんにするなら姐さん一択だろう」


「むむ。貴様、さてはおっぱい星人か」


 高崎がギロリと睨む。島津も眼光鋭く高崎を見やり、


「貴様こそチッパイ派か」


 そんなことを言う。

 二人は眼光をぶつけ合った。

 その時。


「二人とも不敬だぞ」


 今まで無言だった蒼火が口を開いた。


「準妃と正妃の違いがあっても、どちらも(キング)の妃だ」


 そう告げる。高崎と島津が肩を竦めた。


「ただの雑談だろ。固すぎんぞ。扇」


「そうだぞ。お前こそ誰が一番なんだ?」


 島津がそう問うと、


「無論、奥方さまだ。あのお方こそ至高に決まっているだろう」


 意外にも蒼火は即答した。

 蒼火のいう奥方さまは漆妃・久遠桜華のことだ。


「そんな分かり切った話よりもだ。二人とも。いよいよ本丸のようだぞ」


 続けて、蒼火はそう告げた。

 高崎も島津も表情を変えた。

 三人の足は止まる。そこは廊下の奥にある大きな扉の前だった。


「……ここは明らかに雰囲気が違うな」


 双眸を鋭くして島津が呟く。


「コレクションルームってことか? だが、見た目通りじゃねえかも知んねえ。確か加賀見郷介は空間系引導師(ボーダー)だったって話だよな」


 と、神妙な声で高崎も告げる。

 稀代の空間系引導師。

 それが加賀見郷介のもう一つの顔だった。


「ここから先は別空間という可能性もある。二人とも気を引き締めるぞ」


 蒼火がそう告げたその時だった。

 不意に扉に亀裂が奔ったのだ。

 ――いや、それは斬線とも呼ぶべき断裂だった。

 蒼火が目を見張る中、斬線は幾つも奔り、瞬く間に扉を分解した。


 そうして破壊された扉の奥から出てきたのは――。


「大漁大漁っ!」


 上機嫌な様子の背の高い男だった。

 島津が百八十越えなのだが、それよりもさらに長身だ。


 年の頃は二十代前半のようだ。

 明るい緑色の長髪をなびかせるかのようにオールバックにしている青年だった。

 左耳には十字架の装飾具。人相は陽気そうではあるが、はっきりとまでは分からない。丸いサングラスをかけているからだ。


 衣服も奇妙だった。

 光沢を持つライトグリーンの神父服とでも言えばいいのか。二の腕辺りが異様に膨らんでいるのも気になるが、よく見れば左腕は義手のようだ。細い銀色の鎖で形作られていた。


 いずれにせよ、蒼火たちは大きく間合いを取った。

 全員が身構える。

 この秘匿された館に居て、この風貌。

 そして先程の斬撃。

 明らかに一般人ではあり得なかった。


「およ?」


 そこで男はようやく蒼火たちの存在に気付いた。


「どちらさま? もしかしてトレジャーハンターかな?」


「何を言っている?」


 蒼火は表情を険しくした。


「お前こそ何者だ? 何故ここにいる?」


「う~ん? オレさまかい?」


 男は小首を傾げると、おもむろに宙空に生まれた虚空に手を入れた。

 物質転送の術だ。そこから取り出したのは黒い水晶だった。

 大きさ的には四十センチほどか。表面に文字が刻まれているのが分かる。

 蒼火も、他の二人も顔色を変えた。

 それは、彼らが捜していた物と完全に特徴が一致していた。


「オレさまはお使いかな。これを取りに来たんだよ」


 男は言う。

 蒼火は歯を軋ませた。


「貴様! それを返せ! それは我が(おう)のモノだ!」


「……は? (おう)?」


 男は再び小首を傾げた。

 それから黒い水晶と蒼火たちを交互に見やり、


「おおっ! なるほど!」


 得心したようで大きく頷いた。


「あんたら、大兄者(おおあにじゃ)の部下ってことか!」


 あごに手をやって、うんうんと頷く。


大兄者(おおあにじゃ)が生きているっていう親父殿の話はマジだったんだな」


「……大兄者(おおあにじゃ)だと?」


 島津が眉をひそめて反芻する。

 が、すぐに島津も、高崎も、そして蒼火もハッとする。


「てめえ! まさか『久遠刃衛』の一派か!」


 ――久遠刃衛。

 警戒すべき人物としてその情報は近衛隊にも共有されていた。

 そして少なくとも久遠刃衛には四人の従者がいることも。


「いや、一派って」


 すると、男は軽く肩を竦めて、


「オレさまたちは家族だよ。親父殿の息子で大兄者(おおあにじゃ)の弟さ」


 そう言って、大仰に一礼して名乗る。


「久遠家三男。久遠破刃瓢濫(はじんひょうらん)


 そしてニカっと笑った。


「気軽に破刃って呼んでくれよ」


「……親愛を見せるというのなら」


 蒼火は手を男――破刃へと向けた。


「まずはそれを渡せ。話はそれからだ」


「ああ~、そりゃあ無理じゃんよ」


 破刃は両腕で『×』を作った。


「これを持ち帰るのが親父殿の命令でさ。大兄者(おおあにじゃ)の頼みでも無理さ」


「……そうか」


 蒼火は開いた手を拳に変えた。

 島津と高崎も同じく拳に力を込める。


「久遠刃衛の人物像は聞いている。そんな輩にそれを奪わせる訳にはいかない」 


 蒼火はそう告げた。


「ああ~、そっか」


 破刃はぺチンと額を打った。


「親父殿は鬼畜で外道だかんな。気持ちは分かるじゃんよ。けどさ」


 一拍おいて、破刃は告げる。


()りいが、オレさまって親孝行者なんだよ」


 そうして。

 わずか数分後。

 蒼火たちは戦闘不能に陥っていた。

 蒼火と高崎は床に倒れ、島津は壁に寄りかかって気絶している。

 全員死んではいない。

 だが、あまりにも一方的な結果だった。

 仮にも三対一だったというのにだ。


(な、なんだ、こいつは……)


 辛うじてまだ意識を繋いでいた蒼火が戦慄していた。

 勝負にもならないこの圧倒的な力。

 これではまるで――。


「オレさまも『久遠(くおん)の一振り』ってことさ」


 頭上から破刃の声が聞こえてくる。


「まあ、これはオレさまが預かっておくよ。そんでさ」


 水晶の霊具を手に破刃は言う。

 そして、


「いずれ挨拶に行くじゃんよ」


 破刃は、ニカっと笑ってこう続けた。


「だから、真刃の大兄者(おおあにじゃ)によろしく言っといてくれじゃんよ」


 その伝言を耳に残して。

 蒼火の意識は、闇の底へと沈んでいった。


「さてさて」


 破刃は霊具をひょいひょいと手の上で転がしつつ、


「家族水入らず。今から会うのが楽しみじゃんよ。大兄者(おおあにじゃ)


 陽気な笑みを見せて、破刃は立ち去っていくのであった。



 久遠(くおん)五刃(ごじん)第三刃(だいさんじん)

 その銘は『久遠破刃瓢濫(はじんひょうらん)』。

 その真意は誰にも分からない。





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