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【第12部まで完結】骸鬼王と、幸福の花嫁たち  作者: 雨宮ソウスケ
第11部

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第三章 お妃さまたちのお稽古2(後編)①

 夜。十時ごろ。

 かなたは一人、宿泊施設内の訓練場にいた。

 杠葉の意向なのか、板張りの古風な道場である。

 かなたはゆっくりと息を吐く。

 道場にいる以上、彼女の目的は修練だ。

 衣服も日中と同じくアスリートウェアを着ている。

 実のところ、衣服自体は浴衣でもよかった。

 これから行うことを鑑みれば。


「……赤蛇」


 かなたは首の赤いチョーカーに宿る自分の専属従霊である赤蛇に声をかける。


「そろそろ試してみる」


『おう。了解だ。お嬢』


 赤蛇は応えた。

 そうして赤いチョーカーから、かなたのアスリートウェアに憑依を移す。

 直後、アスリートウェアに変化が起きた。

 かなた自身は硬質の黒いラバースーツを纏う。

 背中からは大きく抱きかかえるように楕円を描いた黄金の(レール)が伸び、そこに四十本以上の複雑な形状の細い蛇腹剣(ガリアンソード)が並んだ。それはまるで赤い茨の外套のようだった。

 そして最後に黄金のティアラが額に飾られる。


 これはかなたと赤蛇が試行錯誤の末に至った姿。

 すなわち、新たな戦妃武装(オーバーレイド)だった。


『おし。巧い具合に形になったな』


 と、ティアラから赤蛇が声を掛ける。

 かなたは「うん」と頷く。

 一度は完成したと思えた戦妃武装(オーバーレイド)だったが、とある少女との戦闘を経て考えを変えた。

 自分には接近戦の才がないと悟り、中距離戦を主体にしたモノに組み直したのだ。

 それがこの姿だった。


「この形がきっと私の最適解だと思う。だけど」


 かなたは微かに眉をひそめた。


「これでも桜華さんや杠葉さんには届かない」


『そこはまあ仕方ねえだろ』


 少し呆れた口調で赤蛇は言う。


『二人とも象徴持ち。杠葉サマに至っては神刀まで持ってるんだぜ』


 そう続ける。


象徴(シンボル)は次の段階だ。今は戦妃武装(オーバーレイド)を極めようぜ』


「……うん。分かっている」


 かなたが頷いた時だった。


「おお。それがかなたの新しい戦妃武装(オーバーレイド)なのか?」


 そう声を掛けられた。

 かなたが振り向くと、そこには刀歌の姿があった。

 アスリートウェア姿であり、片手には刀身のない柄を握っている。


「刀歌さん」


 かなたが尋ねる。


「あなたも自主訓練ですか?」


「うん。そうだ」


 刀歌は頷く。


「今日は桜華師に散々に負けたからな。私も強くなりたい」


 刀歌はそう言って、かなたに近づいていく。


「そのためにはまず戦妃武装(オーバーレイド)を習得しないとな」


 かなたと赤蛇が考案した戦妃武装(オーバーレイド)

 それはすでに他の正妃たちにも伝わっている。

 現在、習得しているのは、かなたと芽衣。そして月子の三人だった。

 象徴(シンボル)をすでに発現している妃たちは最初から習得は考えていない。

 エルナは彼女の系譜術がそもそも戦妃武装(オーバーレイド)に類似しているので対象外だった。

 従って、まだ習得にまで至っていないのは刀歌だけだった。

 まあ、未習得というよりも、まだ適した武装を決め切れていないというのが正しいのだが。


「丁度いい。訓練に付き合ってくれないか。かなた」


「ええ。構いません」


 と、刀歌の提案にかなたが答えた時だった。


「あれ? かなた? 刀歌?」


 さらなる闖入者が現れる。

 刀歌と同じくアスリートウェア姿のエルナだった。

 ただし、かなり驚いている様子だった。


「二人とも訓練?」


「うん」「はい」


 刀歌とかなたは答える。


「エルナさまもですか?」


「うん。そう」


 エルナは自分の胸元に片手を置いて頷く。


「ちょっと居ても立っても居られない気持ちになってね」


 少し興奮気味にそう告げる。


「……? 何かあったのですか?」


 かなたが眉根を寄せてそう尋ねると、


「ふっふっふ……」


 エルナは自信満々に微笑んだ。


「私ね。いま無茶くちゃ運命を感じちゃっているの」


「……? どういう意味だ?」


 今度は刀歌が眉をひそめて問う。かなたも眉根を寄せたままだ。


「えへへ……」


 エルナは両頬を抑えてクネクネと体を動かす。


「これは作られた運命かも知れない。けれど、運命には違いないわ。うん! 桜華さんや杠葉さんにも劣らない運命だわ!」


 そう叫びつつ、エルナはかなたたちを見やり、


「えへへ。ごめんね。かなた。刀歌」


「……? 何を謝るんだ?」


 小首を傾げて刀歌が問うと、


「私ね。もしかしたら第二段階、前倒しになっちゃうかも」


 そんなことをエルナが告げた。

 刀歌もかなたも「「え?」」と目を瞠る。


「ど、どういうことです?」


 戦妃武装(オーバーレイド)のままであるのも忘れて、かなたが思わず詰め寄った。

 浮かれていたエルナも、完全武装状態のかなたに少し気圧されつつも、


「え、えっとね」


 頬に片手を当てて、


「今はあまり詳しい話はまだ出来ないの。そういう約束をしたし、私自身、彼女の言ったことがまだ本当なのか確信できていないし」


 エルナはそう答える。

 ただ、嬉しそうにこうも続ける。


「けど、きっと本当なんだって私の直感が告げているの」


「……エルナさま?」


 かなたはますます困惑する。

 どうも話がかみ合っていないような気がする。


「これって寵愛権が二人分になるのかしら? 真刃さんに切り出すタイミングも考えないと。百年越しの再会だし、きっとそのまま……彼女の想いを無碍にしたくはないけど、初めては私のままでありたいし……」


 と、エルナはぶつぶつと呟いている。


「さっきから何を言っているんだ? エルナ?」


 刀歌が嘆息して言う。


「昼の訓練で疲れているのか? 何を言っているのか分からないぞ」


「まあ、ともかくよ!」


 エルナはグッと拳を固めた。


「もう影の薄い壱妃とか言わせないわ! ここから一気に挽回よ!」


 そうしてかなたと刀歌を見やり、


「色々と確認したいことや試したいこともあるのよ! だから付き合ってね! 二人とも!」


 そう告げた。

 結局、最後までよく分からなかったが、とりあえず頷くかなたたちだった。



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